ミーシャのヒーロー
side:【ミーシャ】
とても恐ろしい真っ黒の黒い竜。
確か『暴虐竜』と呼ばれる竜種の1体のはずだ。
対峙している私のヒーロー。
(ギル……。ギル……)
会いたくて、会いたくて、仕方なかった。
それほど長い時間会わなかったわけじゃないのに、「本当なら今頃、一緒の家で仲良く暮らしていた」と考えては、会えない時間がもどかしくてたまらなかった。
(ギルがいる。あそこに……)
鼻の奥がツゥーンとして涙がとまらない。
暴虐竜を前にしても、一切怪我をしているようには見えないギルに、「やっぱり……」なんて思いながらも心の底から安堵した。
リリム姉さんはいつものようにギルにべったりくっついていて、きっとギルは嫌な顔をしているんだろうなんて考えながらも、早く私をギルの瞳に写して欲しいと思った。
「フォッフォッ! ギル坊め! やはり『巻き込まれて』いたのじゃな」
レム爺の声は口調や言葉とは裏腹に、ひどく安堵に満ちた物だった。きっと私と似たような事を思っているのかもしれない。
「ええ。でも、よかった。怪我してないみたいで」
「そうですね! まあ、ギル坊は巻き込まれながらも、幼い頃から傷一つ作りませんでしたからね」
「ふふっ。『ヤバい、ヤバい』っていつも叫んでいるのにね」
「ええ。……よかったですね。ミーシャ様。ギル坊と無事に再会できそうで……」
「ええ……。ありがとう、レム爺! こうしてここに来られたのは、リリム姉さんとレム爺のおかげよ?」
この世とは思えないほどの大きな巨木に視線を移しても、やっぱり視線はすぐにギルに戻ってしまう。
「……えっ?」
「な、なんじゃアレは!」
暴虐竜の周囲に突如現れた黒く巨大な塊。
パッと見ただけでは数すら分からないほど大量の黒球が一斉にギルとリリム姉さんに向かって行くのが見えた。
「ギル!! リリム姉さん!!」
思わず大声で叫び、駆け出した。
――ミーシャ、レム爺。ここから動いちゃダメよ? 結界は張っておくから。
リリム姉さんとの約束を破り、丘の下に駆け降りたけど、いつまで経っても爆発音は響かない事にパッと空を見上げると、先程の位置から微動だにしていないギルとリリム姉さんの姿が見えた。
「……び、びっくりしたぁ……」
ペタリと座り込んだ私にレム爺は慌てて駆け寄ってくる。
「ミーシャ様。ダメですよ? ちゃんとここで待っているようにリリム様にも言われたでしょう?」
「うん、ごめんなさい」
「フォッフォッ。それもこれもギル坊のせいですね! 後で叱りつけてやりましょう」
レム爺はニカッと笑顔を浮かべて嬉しそうだ。
このギルを探す旅で、レム爺がどれだけギルを心配していたのかをギルに教えてあげないといけない。
きっとレム爺は私やギルの事を孫のように思ってくれているし、私やギルもレム爺の事を祖父のように思っている。
いつも巻き込まれてしまうギルを1番心配に思っているのはきっとレム爺で、レム爺の中で私たちはまだ幼い頃のままに見えているのだろう。
「よかったね、レム爺も! ギルと無事再会できそうで!」
「……フォッフォッフォッ! そうですな……。手がかかるギル坊は確かに可愛いですが、ミーシャ様が笑っておるのが、執事としての1番の幸福ですよ?」
サァアーー……
生ぬるい嫌な風が頬を撫でクルリと後ろを振り返ると、そこには暴虐竜がコチラに猛スピードで向かってくるのが目に入った。
グオオォオオオオン!!!!
「ミーシャ様!! 早くコチラに!!」
レム爺はサッと仕込み剣を抜きながら、丘の上に私を引き上げると口を開く。
「絶対にそこから動かないようにッ!!」
そう呟き、私を残して暴虐竜に向かって行ってしまった。
(やだ……! 待って、ダメだよ!)
近くなるにつれて、そのあまりの巨躯に恐怖が込み上がる。レム爺は距離を確かめると、仕込み剣を暴虐竜に投げつけた。
カランッ……
ビクともしない暴虐竜はレム爺に視線を向けると、
『クワセロ……。アノモノヲホフルタメニハ、ニンゲンノ血肉ガタラヌ……』
暴虐竜の言葉に、レム爺は素早く剣を取り、傷跡の残る目元に剣を突き立てたが、やはり一切ダメージは与えれてないように見える。
『クハハハッ! 我ノ血肉トナレ!!』
大きな口には無数の牙。
それを大きく広げて、レム爺を……!!
「だ、だめ……! レム爺!!!! 死んじゃダメだよ!! 早く、逃げてッ!!」
咄嗟に叫んだ私に、暴虐竜はギロリと真っ赤な瞳を向けた。
『ウマソウナ……ムスメだ!! キサマヲクラエバ、アノモノを……』
ドスンッ、ドスンッ、ドスンッ……
巨大な足音と共にコチラに向かってくる暴虐竜に、呼吸が出来ないほどの恐怖に包まれる。
「ミーシャ様! お逃げ下さい!」
レム爺は必死に足を攻撃しているが、暴虐竜は私を見据えて目を離さない。
(怖い……、怖いよ。ギル……。ギル。ギル……。ギルッ!!)
心の中でヒーローに助けを求める。
身体は金縛りにあったようにピクリとも動かせない。
「ギル……う、うぅ……。助けてッ……」
グッと唇を噛み締めながらも涙が頬を伝う瞬間。
ピカァアッ……!!
眩い光が辺りを包んだ。
何も見えないけど、ひどく温かい光に私の涙は更に加速してしまう。
グザンッ!!!! ザシュッ、ザシュッザシュ!!
肉の裂ける音が響き渡ると、
ドゴォーンッ!!
大きな轟音が響き渡り、地面が揺れた。
暴虐竜の肉片が辺りには散乱しており、その生死は誰の目から見ても明らかだった。
「大丈夫か? ミーシャ? 怪我はない?」
「……う、うぅ……」
「泣くな。ミーシャを泣かすから叩き斬ってやったぞ! ハハッ! なかなかかっこよかったんじゃないか?」
「……ギルぅ……」
ニカッと笑うギルの笑顔が好きだ。
少し呆れたような優しく微笑む笑顔が好きだ。
私はギルに飛びつくとギルは優しく抱き止めてくれる。ギルの甘い香りに更に涙腺を刺激されながら、この幸福を噛み締める。
(ギル。ギル……。会いたかった……。本当に、本当に……! やっぱり、私はギルがいないとダメ!!)
ギルはギューッと抱きしめている私の頭を撫でる。
「怖かったな。……もう大丈夫だから、安心しろ!」
「会いたかったよぉ……。本当に……」
「……? あぁ、俺も会いたかったぞ? 何かあったのか? ってか、ミーシャ達は何でここに居るんだ?」
「……」
(もお!! ……何にもわかってないんだからッ!!)
私はギルから離れると、少し背伸びをしながら、小さく首を傾げているギルのほっぺたを両手で包んだ。
「え? なんで? ミ、ミーシャ! 何して!!」
なぜかもう顔を赤くしているギルに構わず、私は顔を寄せる。
チュッ……
「……迎えに来たの! 『旦那様』を……」
「……」
何も言わないギルに、ドクンッドクンッと心臓の音がうるさすぎて、顔の熱は感じた事もないほど上気して、唇に残る感触に身体の内側が熱くなって、なんだかむず痒い。
「な、何とか言ってよ……」
「……」
沈黙を続けるギルにだんだんと不安に駆られ、チラリと顔を盗み見ると、ピシッと固まっているギルがいた。
「……え? ギル? ギル?!」
私とギルの初めてのキス。
石のように固まってしまったギルに、「嫌だったのかな?」と顔を引き攣らせながら、ひどく不安になった。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなる?」
「更新頑張れ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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