vs.暴虐竜
グオオォオオオオン!!!!
再会にゆっくりする時間はないようだ。
暴虐竜は突然現れた姉様にその鋭い爪を容赦なく振り抜き、首が飛ばされる姉様が『見える』。
「……!! 姉様! こっち!」
俺は慌てて姉様の腕をとって引き寄せるが姉様はそのまま俺を抱きしめる。
「はぁ〜……ギルぅ! 会いたかったよぉお!!」
スローモーションの世界のまま、ギューッと顔を胸に埋め込めながら俺は心の中で絶叫する。
(邪魔しに来たのか! この変態姉様!! 『見えない』だろ!!)
俺は即座に姉様の胸から脱出すると、姉様に低い声を出す。
「目の前の暴虐竜が見えないのですか!? 何をしているのですか! 邪魔しないで下さい!」
「……もぉ! 久しぶりの再会なのに、ギルったらいつからそんな冷たい子になったのよ!」
「状況を考えろ! バカ姉様!」
俺が叫ぶと、姉様は「グフフッ……」と頬を染める。姉様は少し、いや、かなりネジが飛んでいる。まともに相手にしたら俺が損をするに決まっている。
ゴォオオオオオオ!!
巨大な黒い塊を放った暴虐竜に、とりあえず姉様を抱えて声を荒げた。
「姉様! 空に逃げて下さい! 早く!」
「《風操作》……。ふふふっ……あぁ、ギル。本当にかっこよくなって! 姉さんはギルが心配で……心配で……」
姉様は風を操作して俺を掬い上げながら頬をすりすりとしてくる。
ゴォオオオオオオ!!
目の前には黒い塊が空に上がって、パァンッと爆発して、黒い雨が降ってくるのを確認する。
「姉様! 降ってきますよ! 何かヤバそうなのが!」
「《混合結界》」
ポワァア……
姉様は虹色の膜で里を包み込むと、「ハァ、ハァ、」と鼻息を荒くさせる。
正直……、この姉はとても有能で果てしなく優秀だが、俺の前では機能しない。絶対に俺から離れようとしないし、俺しか見てない。
愛してくれるのはありがたいが、ただただ邪魔でしかないのだ。
(次は『これ』か! クソがッ!!)
バサッ、バサッ、バサッ……
暴虐竜は俺たちを睨みつけてはギリギリと歯を食いしばりながら、無理矢理、笑顔を浮かべている……ような気がする。
『キサマラ……。我ヲ……、コノ我ヲ、愚弄シテイルノカ……?』
「あら! ギル! 面白い剣を持ってるわね! ギルにはぴったりよ?」
「……」
(それどころじゃないだろ? 暴虐竜が何か喋ってるぞ?)
『フハハハッ……、イイ度胸ダ……!』
「それは、この『魔力の木』から作られてるのね? 魔力を込めれば、思い通りに剣を作り変えられるわよ!」
「……」
(暴虐竜、プルプルしてるんですけどッ!! って『思い通りの剣になる』だと……!!)
グオオォオオオオン!!!!
一際大きな咆哮に俺は顔を引き攣らせながら、試しに暴虐竜に宝剣を向け、体内のエネルギーを注ぎ込みながらイメージしてみる。
グザンッ!!!!
(うそぉおん……)
無駄に豪華な柄から細長いレイピアのような剣が伸び、暴虐竜の目を貫いた。
(いやいや、確かにイメージ通りだけどもッ!! めちゃくちゃすごい剣じゃん! エルフのみんな……、なんかごめんッ!!)
グオオォオオオオン!!
暴虐竜は悲痛の咆哮を上げると、
『ワ、我ノメガ!! クッ……、クソ……。ニンゲンメ!! ニンゲンメェエエ!!』
暴虐竜は目から血を流しながら、俺をめちゃくちゃ睨んでくるが、俺は顔を引き攣らせるだけだ。
シュウゥウウ……
(何で勝手に治ってる!? こ、こんなのやっぱり無理だろ!!)
俺がギリッと歯軋りをすると姉様は顔を引き攣らせる。
「あ、相変わらず、『ヤバい』わね……!! そんな剣を使えるのはギルだけよ!! 普通の魔力量なら、使った瞬間に死ぬわね! 流石、私の可愛い弟よぉー!!」
「良い加減にしてくれ! 姉様! 本当に邪魔だ!」
「……グフフ……。ね、姉さんは必要なかったかしら……。で、でも、もう離してあげない!!」
ギューッと俺にしがみつく姉様など、もうどうでもいい! 俺にはヤバいのが『見えて』るんだからッ!
『《ヴァイオラッシュ(暴虐連弾)》……』
ポワッ、ボワッ、ポワッ、ボワッ………
スローモーションで流れる世界。
無数に現れた黒い塊が暴虐竜の周辺を浮遊し始めると、一斉にコチラを目掛けて飛びかかってくる。
(ヤバい、ヤバい、ヤバい!! 姉様、めっちゃ邪魔ッ!! 本当に邪魔! 何しに来たんだ、この変態!!)
姉様に抱きつかれたままでは、躱しきれるはずがない。
「姉様! 結界頼みますよッ!!」
「もちろんよ、ギル! 姉さんに任せてね?」
「……」
(そもそも姉様がいなければ、普通に躱せたんだぞ!)
言い返している暇はない。
俺は宝剣に体内のエネルギーを一気に集束させてイメージする。
柄から伸びる無限の刃をイメージし、黒い塊を通る場所を目掛けて、あらかじめ剣を作ってしまう事にしたのだ。
ザッ、ザシュッ、ザッ、ザッ、ザシュッ………!!!!
全てが斬られていくと言うよりも、導かれるように全ての黒い塊が自ら剣に当たりに行っている。
そりゃ、そうだ。
俺には『未来』が見えている。
俺は宝剣に込める魔力を止める事はしない。絶えず形を変化させ、だんだんと塊を小さく細切れにして最後には塵にした。
流石に、この量が里に降り注げは、結界にも影響が出るのではないか?と言う配慮と、宝剣を疑ってしまったことに対する謝罪だ。
よくよく考えれば、歓迎の宴の時に、
―――ギル様なら使いこなせます。いいえ、ギル様の魔力量があってこそ……。ギル様にしか使いこなせません。
的な事をチアが言っていたような気がする。
酒を飲みすぎて記憶があやふやななような気がしないでもないが、次々と酒を注ぎにくるエルフ達のせいにした。
(……あ、ありがとうございました。本当に……! この宝剣、すごいです。助かりました……!!)
目の前でキョトンとしている暴虐竜を見つめながら、俺はホッと胸を撫で下ろす。
「ギル……。やっぱりギルは最強よ!!」
姉様の言葉に俺は苦笑する。
(帝国騎士団の団長が何を言ってる……。ってか、この人、こんなところで何してるんだ?)
小さく首を傾げると、意味のわからない行動を取る暴虐竜が『見えた』。
「……ん?」
俺の呟きと共に、暴虐竜はバサッバサッと音を立てて逃げていく。
(よかったぁあ!! なんとかなったぁあ!! はぁ〜……! これで一応、ひと段落だろ!! よかったァア!!)
俺が深く深く安堵していると、顔を青くする姉様と目が合った。
「ヤバいッ……! ごめん! ギル!! あっちに『ミーシャ』と『レム爺』が!! 私の結界から出てるみたいなの!!」
「……」
(何、言ってんだ……? 姉様……)
「2人をあそこの丘で待たせてるの!!」
「……早く降ろせ!! セリアのとこにッ!!」
(ふざけるなッ! こんな『不幸』は絶対に許さないぞ!!)
バクンッと心臓が鳴る。
それは、どうしようもない焦燥感からくる物だ。
頭の中にはレム爺の優しい笑顔と、屈託のない笑顔を浮かべるミーシャの顔しかなかった。
今日も一日頑張りましょう!
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなる?」
「更新頑張れ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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