ふざけんなッ!
―――エルフの里
「……ギル様は静かに精神統一をされているぞ」
「何て静かで穏やかな魔力なのだ……」
「これは……、本当に絵になります……」
ユグドラシルと屋敷を守る結界の中から、エルフ達の声が聞こえる。
「……」
(勘弁してくれ! 俺は荒れ狂う暴虐竜を見てられないだけだッ!!)
深く深く息を吐きながら、響き渡る咆哮と結界を破ろうとしている轟音に足を震わせる。
(む、無理だろ!! なんだよ、アイツ! ヤバすぎるだろッ!!)
結界の内側から大きな叫び声が響く。
「ギル様ぁあ! 僕はギル様の勇姿を瞬きせずに見ていますね!!」
ユノの叫び声にチラリと視線を向け、「ふっ」と笑顔を返す。
(見ないでぇ……。やめてぇ……。逃げてぇ……)
俺はいま、1人だけ結界の外にいる。
ユグドラシルと屋敷を守る結界にエルフ達は避難して、代わる代わるクリスタルに魔力を注いでいるらしい。
ユノのそばに控えるセリアは相変わらずの無表情で、何の憂いもないような美しい紺碧の瞳で俺を見つめている。
(……その目はやめろ! クソッ!!)
信頼に満ちた眼差しに悪態を吐いていると、
ドゴォーンッ!!
結界が破られた轟音が響くと同時に、
グオオォオオオオンッ!!!!
尋常ではない咆哮を上げる暴虐竜が里に侵入した。
(……はい! 死にましたッ!!)
あまりに無謀な邪竜討伐。
1人でどうこうできるイメージは一切湧かない。
「何て静かな闘気なんだ……。瞳が紺碧に……」
「これが『救世主様』……! 瞳に尋常ではない魔力を感じます!! 美しいです!!」
「邪竜が結界を破ったというのに、身動き一つとらないなんて……。なんて余裕なんだ……!!」
エルフ達の勘違いはとどまる事を知らない。
(こ、腰が抜けそうなんだがッ!?)
常時、《身体強化》を発動させ、《天眼予知》を使用している。瞳の変わるなんて、正直全然知らなかったが、そんなことはどうでもいい!!
グオオォオオオオン!!
スローモーションの世界の中で、暴虐竜は口元に真っ黒い巨玉を創造すると、ユグドラシル目掛けて放とうとしているのが『見える』。
(待て待て! まだ心の準備がッ!!)
普通にビビって一歩も動けない俺は、とりあえずゴブリンロードが持っていた大剣を勢い良く投げつける。
グザンッ!!
大剣は暴虐竜の顎?に突き刺さる。
(思ったより柔らかいのか……?)
グオオォオオオオン!!
暴虐竜は確実に俺を視認して、翼をバサッと羽ばたかせると、黒い塊が混じった風刃が襲いかかって来るのが『見える』。
(ひょぇえええええッ!!)
俺はそれらを叩き斬ろうと、エルフの里の『宝剣』を勢いよく抜いたが……、ユグドラシルの枝で作られた剣に目玉が飛び出てしまいそうになる。
恐ろしく馴染む剣の柄。俺は豪華な装飾を施されている宝剣を鞘から抜いたはずなのだが……、
(剣先がないじゃねぇええかぁあああ!!!!)
嘘だ! 嘘だ! 嘘だぁあ!!
このタイミングで来るのか? 世界!!
ここ最近の幸福の反動がこれかッ!!!!
(なんか軽いと思ってだんだよ! クソがぁあ!!)
正直、ブチギレ寸前だが、スローモーションの世界の中、目の前には恐ろしすぎる黒い塊が混じった巨大な風刃がある。
スッ、スッ、スッ、スッ……
とりあえず黒い塊に触れたら死ぬのはわかってる。複数の小さな刃が一つの大きな風刃になっているのも『見えて』いる。
俺は、それはもう死に物狂いでそれらを躱し続ける。
(死ぬ、死ぬ、死ぬ、死ぬ!! クソ、クソ、クソ、クソォオオオオ!!)
全てを躱し切ると俺の背後から轟音が響き、里は余裕で崩壊したが、それ以上にうるさいのは戦闘を見ていたエルフ達だ。
「「「「「「うぉおおおおお!!!!」」」」」」
「何て、何てスピードなんだ!!」
「し、信じられない!! これが『救世主様』の!!」
「……な、なんてお美しい……!!」
「ギル様! あなた様というお方はッ!!」
「キャァーーー! ギル様ぁああ!!」
半分狂乱しているエルフ達に、俺は普通にブチギレていた。
(ふざけんじゃねぇえええええ!! なんだよ、この宝剣……いや、『剣の柄』!! こんなんでどうしろってんだよ!!)
もう片方の手に持っている剣の鞘が目につくと、更に絶叫は止まらない。
(この無駄に豪華な鞘は何なんだよ!! 要らねえだろ! 剣先がないんだからっ!! こんな物を4000年も受け継いで来たなんて頭おかしいんじゃねぇのか!!)
ギロリとエルフ達を睨みつけると、
「何て鋭い眼差し!! なんと頼もしい!!」
「キャァーー! ギル様!!」
「こちらにも視線をお向け下さい!!」
死ぬほど逆効果だった。
グオオォオオオオン!!
巨大の咆哮と共に大きく目を見開いているのは暴虐竜。バサッバサッと里に降り立ち、俺を真紅の瞳でギョロリと見つめてくる。
『ナニモノナノダ……。我ノマエニタツカ……!! フハハハッ!! オモシロイ! オモシロイゾ! ニンゲン!!』
「俺は全く面白くない! さっさと帰れ! 二度と来るな! しゃがれ声で雰囲気だすな! バァカッ!!」
(……さっさと棲家に帰る気はないのか?)
『……クハハッ、オモシロイ……!!』
ブチギレた様子の暴虐竜。
「……い、いや、冗談だって!」
(『また』やっちまったぁあああ!!)
俺は確実に訪れそうな死の予感に、「ふっ」と自嘲気味に笑うと、
「そうだ! 死にたくなければ、さっさと帰れ!」
「お前のような邪竜が、ギル様に敵うはずがない!」
「ギル様!」「ギル様!」「ギル様」
「ギル様コール」が湧き上がる。
(もう、本気で勘弁してくれ……)
心の中で嘆きながら、俺は涙目で叫んだ。
「ほら、さっさとかかってこい!!」
(死にたくねぇよぉおおおお!!)
暴虐竜は悍ましい表情でニヤリと笑顔を浮かべたが、俺の天眼には信じられない物が『見えた』。
ドゴォーンッ!!!!
土煙の中には、懐かしい人の姿。
綺麗な長い黒髪は母様にそっくりだ。
「ギル!! 見つけたよッ!! ふふふッ!!」
とびっきりの笑顔を浮かべる俺の身内。
「ハ、ハハッ。姉様……。何してんの?」
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなる?」
「更新頑張れ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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