正真正銘のヤバイヤツ!
エルフの里を訪れて10日目の昼。
空が暗くなった。
ユグドラシルの木漏れ日が絶景の湖で、ユノと水遊びをしていると、辺りが急に夜になったのだ。
グオオォオオオオン!!
大気を震わせる巨大な咆哮。
(……マジかよ。想像以上だ……!! ……は、早すぎるだろ!! 幸せすぎると思ったんだよ!)
(どうせなら早く来い)などとふざけた事を考えていたが、吹き荒れる暴風にユグドラシルがザザァアッと揺れる光景は絶望そのものだ。
「き、来た! 邪竜だ!!」
「ギ、ギル様はどこにおられる!?」
「な、何て……大きさなんだ……」
騒ぎ立てるエルフ達の声にハッとし、即座に《身体強化》と《予知》を発動させる。
「ユノ! みんな! 『チアド様』の屋敷に! 落ち着いて! まだ大丈夫だから!」
湖の中で空を見上げて、固まっているユノを抱え、周囲のエルフ達に行動を促す。
里長のチアの屋敷とユグドラシルには巨大なクリスタルがあり、それにエルフ達の魔力を注ぎ込む事で、特殊結界を張れるそうだ。
それに、エルフの里にはユグドラシルから漏れ出る魔力を溜め込んだクリスタルで魔法陣を描き、強固な防衛結界を張っていると里長のチアは言っていた。
「……もって、1時間ほどでしょうが……」
チアの苦笑は記憶に新しい。
(1時間ももつのか……?)
真っ黒の竜。赤い瞳に獰猛な爪に牙。
禍々しいオーラは死を連想させる。
『暴虐竜』。
触れると死ぬ、死の雨を降らせる天災。
歴史書で見た物が、比喩ではなかった事を理解する。人間が小動物のように描かれていた絵は、嘘なんかじゃなかった。
(ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ!! これはマジでヤバイ! こんなのどうすりゃいいんだよ! 無理に決まってるだろ! そりゃ人類も諦めるさ!! 正真正銘のヤバイヤツなんだからッ!!)
心の中で絶叫すると、
ゾクゾクッ……
背筋に寒くなり、虫が走ったような感覚に包まれる。
「……セ、セリア!!」
家で昼食の準備をしているので俺の側にいない。
セリアが自分の目の届く場所にいない事が恐ろしくてたまらない。抱いているユノはガタガタと震えて俺の服をグッと掴んでいる。
「……だ、大丈夫だ! ユノ! 俺は救世主だからな! 任せておけ!」
「ギル様……」
俺はニコッとユノに微笑みかけるが、内心はそれはもうすごい事になっている。
(セリア! セリア! いや、チアに確認? って、待て待て! ヤバイ! 本当にヤバイ! 怖い! 泣きてぇええええ!! と、とりあえず、セリアだ!)
ユノは少し頬を染めながらもグリーンの瞳に力を込めた。
「は、はい! ギル様が救ってくれるんです!! 大丈夫です! もう怖くないです! 僕はチアド婆様の所に行って来ます!」
「い、いや! セリアと合流して一緒に行く!」
「……ギル様」
「捕まってろよ?」
「……は、はい!」
ユノが俺にギューッとしがみついて来たのを確認し、
(《天眼予知》……)
体内のエネルギーを目に集束させ、スローモーションの世界を必死に駆けた。
逃げ惑うエルフ達の顔は恐怖に染まっている。
いつも果物を分けてくれる『ノノ』は涙を流しているし、一緒に狩りに行ったことのある『ムー』はみんなを扇動しているが、その顔は青ざめている。
ユノの友達の子供達や最近子供を産んだ『サリー』の姿。
スローモーションの世界の中、いくら予言があるとはいえ、エルフ達の恐怖心の深さを目の当たりにする。
(……クソッ! クソッ!! クソォオオオオ!!)
めちゃくちゃ怖いが、みんないい人達ばかりだった
俺が救う……。俺が救うんだ……。
死にたくないが、夢のような10日を作ってくれたエルフ達に恩を返すのは紳士として、騎士として当たり前なのだ。
グオオォオオオオン!!!!
暴虐竜は違和感に気づいたのか、グルグルと上空で旋回し、黒い玉を里に向けて放つ。
(……1時間は無理だな)
一応は機能している防衛結界を『見る』が、乱発されたらおそらく20分が限界だろう。
ドゴォーン!!
《予知》で見たままの景色がスローモーションで流れていく。さらに恐怖を煽られたエルフ達の表情にセリアの身を案じた。
俺は到着した『我が家』に衝撃の光景が『見えた』が、俺は勢いよくドアを開けて叫んだ。
「セリア!! 大丈夫か!?」
扉を開いた先に待っていたのは、やっぱりいつもの無表情のセリアだった。
「おかえりなさいませ、ご主人様。昼食の準備は整っております」
「……バカかッ!! 来たんだぞ! 邪竜……ってか『暴虐竜』が!!」
(このポンコツメイドがぁああ!!)
「はい。承知しておりますが、ご主人様がおられるので何も問題ないでしょう」
「……」
(……ど、どんだけぇえ! 信頼が度を越してるぅ!)
「セ、セリアちゃん。こ、怖くないの?」
俺の腕に抱かれているユノは驚愕の表情だが、セリアは安定の無表情だ。
「ご主人様がおられますので。何も心配いりませんよ、ユノさん。『翼の生えたオオトカゲ』など、ご主人様なら、物の数秒で決着に至るでしょう」
セリアはそう言うと、俺の瞳を見つめて少し頬を染めた。
(いや、それ、俺の死が数秒でって事なのかッ!?)
「そうだね! ギル様に任せておけば、問題ないよね! 『魔力量』はギル様の方が多いみたいだし!」
「……」
(なんじゃあ、そりゃああ! 俺の魔力量が暴虐竜より上?!)
「……魔力量ですか? よくわかりませんが、ご主人様がここにいるので、何も問題ありません」
「ふふっ! うん、そうだね!」
「……」
(メイドとエルフの幼女からの信頼が辛い……)
俺は2人の会話に深く深く息を吐く。
「セリア。もし、俺が邪竜討伐で死んだら即『閃光』でカーティス領に帰れ……」
「……ご主人様がもし死んだら……? それは絶対にあり得ませんが、承知致しました」
「……いやいや、お前、ちゃんと見たのか? 暴虐竜! お前のその信頼はどっから来るんだよ!?」
「ご主人様はセリアのご主人様だからでございます」
「……」
(ポンコツメイドからの信頼に泣きたい……)
「セリアは知っているのです。ご主人様はどんな窮地も切り抜けるお方であると……」
「……」
「ご主人様、ご武運をお祈り致します。今日は寝室の掃除がまだなので、そちらを済ませておきますね?」
「バッカじゃねぇのぉおおお!! ほら、行くぞ!」
俺はセリアの手を取り家を出ると、頭上には暴虐竜が黒い玉を3つ創造して攻撃を放つ所だった。
ドゴォーンッ!!!! ピキッ……。
(ヤバイよ、ヤバイよ!! もう結界壊れそうだよ!)
俺は忘れ物を思い出し家に戻り、ゴブリンロードの大剣と、エルフの宝剣、念の為、護身用ナイフを手にした。
グオオォオオオオン!!
大気を震わせる巨大な咆哮に顔を引き攣らせながらも、死ぬほど無表情で暴虐竜を見つめているセリアに行動を促す。
「『閃光』でチアの屋敷に行くぞ! この距離だと反動も少しだろ?」
「……承知致しました。《閃光》」
「セ、セリアちゃん、ギフト持ちだったんだね! ギル様もさっきの移動法は何かのギフトなんですか?」
すっかり元気になったユノのかわいさに癒されながらも、俺達3人は『世界』を置き去りにした。
明日も頑張りまーす!
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなる?」
「更新頑張れ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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