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控えめに言って、天国です……。



 7日間のスローライフは控えめに言って天国だ。


 エルフ達はみんないい人ばかりで、狩猟や畑、空き家まで用意してくれたし、跪いて祈る事もなくなった。


 呼び方は『ギル様』で統一されたようだし、毎日のように食糧を分けて貰ってるが、隣人として接してくれている。


 毎晩のようにユノにベッドに忍び込まれ、セリアの食事に舌鼓。ゆるくのんびりとした日常の中、セリアとユノとドタバタしながらも、幸福な日々を送っている。




 そんな中、俺はかなりビビっていた。


(……お、おかしい。幸せすぎるぞ!)


 忘れてはいけないのは俺が『俺』である事だ。


 どう考えてもおかしい。


 こんなにのんびり出来ている事に対して、(反動が半端じゃないんだ!)などと勘ぐっては邪竜にビビり倒していた。



 エルフの里に入った時の丘の上。


 セリアとユノと共にピクニックに来ている俺は、ユグドラシルや里を見つめては、(死にたくないなぁ)と深く息を吐く。


「ご主人様。お休みになられますか?」


 隣に座っているセリアは膝枕を促すので、俺はごく自然にセリアの太ももの上に頭を置いた。最近ではこれが普通になっていて、至福の枕にいつもご満悦だ。


「心地よい風ですね」


「ああ」


「ユノさんは少しはしゃぎ疲れてしまったようです」


「……ふっ。そうだな」


 死ぬほど可愛らしい顔でスヤスヤと眠っているユノに頬を緩めながら、穏やかな空気感を噛み締める。


「これがご主人様の求めておられた『理想郷ユートピア』でございますか?」


「……あぁ。……少し眠る」


「承知致しました。ゆっくりとお休み下さい」



 俺はそっと目を閉じた。


 これこそが理想郷ユートピアで間違いないんだが、邪竜が恐ろしくて仕方ない。もういっその事、来るなら来るで早く来て欲しい。


 手放しでスローライフを満喫するためには憂いを取り除かないといけない事に気づいたのだ。



 アイシャ達はちゃんとカーティス領に行けただろうか? 俺が逃亡した事で、父様や兄様には多大な迷惑をかけてしまったが、今どうなっているのだろうか?


 ミーシャは無事に過ごせているのだろうか? 


 綺麗なブラウンの瞳をクシャッとさせて綺麗に笑う親友の笑顔を思い出しながら、自分の身勝手な行動を振り返る。


 斬首は嫌だと必死に逃亡を続けて来たが、穏やかで幸せの毎日は、残して来た者達の事を思い返させるのだ。



フワリッ……


 唐突に頭を撫でられる。

 セリアの細い指に俺の髪をするりと滑る。


(……セリア?)


 急な事に驚きはしたものの、優しい指先はとても心地よく、すぐにでも眠りに落ちてしまいそうであり、ひどく懐かしさも感じる。


「ご主人様……」


 小さく呟かれた声に、俺はそのまま眠っているフリを続けるが、母である『マリア・カーティス』を思い出して泣きそうになったからではない。


 7年前にこの世を去った母様。


 幼い頃はカーティス家の屋敷の庭でこうして頭を撫でられ昼寝するのが好きだった。



―――これから先、ギルの人生に……《幸あれ》……。



 最期の言葉と笑顔は、とても優しく愛情に満ちた物だった。【言霊】のギフトによる母からの《祝福》。


 幼い頃から巻き込まれ体質だった俺を心配した母様は、死の間際、カーティス領に《守護》を宣言し、俺に《祝福》を授けた。



 セリアに頭を撫でられながら、懐かしい記憶に頬を緩める。不幸体質が治る事は一切なかったが、きっと俺が今も生きていられるのは母様のおかげだ。



「セリアは本当に幸福でございます……」


 セリアの声はとても小さく、誰かに伝えるためのものではないと理解する。


「……」

(それはいい事だな……)


「毎日が夢のようでございます、ご主人様」


「……」

(ふふっ。逃亡に勝手について来たが、本音を言えばなかなか感謝しているぞ!)


「ふふっ……。ここはセリアの『理想郷ユートピア』にございます」


「……」

(……ん? 笑ってるのか?)


 目を開けて確認したい衝動に駆られる。


(まぁいつもの仕返しだと考えれば、急に目を開けて驚かせてやるのも一興だな!)


 俺が笑みを堪えながら瞳を開くと、


「……セリアの全てを奪って、」


 至近距離に迫ったセリアの顔がピタッと止まり、大きく見開かれた紺碧の瞳と目が合った。


(……はっ?)


 俺はドクンッと鳴った心臓の音に困惑し、セリアの美しい紺碧の瞳をただただ見つめる事しか出来ないでいると、セリアは背筋をピンッと伸ばして俺から視線を外した。


「お、おはようございます、ご主人様」


「……」

(な、なんだよ……、今のは……)


「そろそろ帰る支度に取り掛かりましょう……」


「……」

(何だよ! 今のはッ!?)


「ご主人様、ユノさんを起こして頂けますか?」


「え、あ、あぁ……」


 身体を起こし、もう一度セリアに視線を向けると一切こちらを見ずに、顔を真っ赤にさせたセリアの無表情がある。


「セリア。お前、いま……」


「ほ、本当にいい天気ですね……。邪竜は姿を見せませんし、おそらくご主人様に恐れをなしてしまったとセリアは判断します。……では、帰る支度を済ませますので」


 セリアはそう呟くと、サッと立ち上がり持って来ていた荷物を片付け始めたが、その顔は無表情ながら耳まで真っ赤なままだった。


(『セリアの全てを奪って』……? キ、キスしようとしたのか……? セリアがッ!!?? 俺にッ!?)


 セリアはいつも無表情で、昔からの俺のメイドで、いつも変な事を言って俺をからかって……。


 嫌われてはいないと思っていたが、特別好かれているとも思っていなかった。専属メイドとしてあるじである俺に尽くしてくれているのだと思っていたのだが……。


 テキパキと後片付けを続ける真っ赤なセリア。


 ミーシャのように友達としてでなく、姉様のように家族愛のような物でもなく、あるじとしての信頼のような物でもなく……?


(……す、好きなのか? 異性として……。俺をッ!? この不幸まみれの俺をッ!? こんな美女がッ?!)


 正直、モテた経験はない。

 学園では基本的に1人で過ごしていた。


 男爵家の令嬢からの婚約の話は知らぬ間に流れていた。侯爵家への婚約申込みも、何の返事もなかった。(※姉のリリムが認めなかっただけ)


 一生、誰とも結婚する事なく過ごす物だと思っていたが……。

 

「ユノさん。そろそろ帰路に着きますよ?」


「……ん? 僕、寝ちゃってた? ん? ふふっ、セリアちゃん、毛布ありがとう……」


 セリアの動きを目で追うが、一切交わる事はない。


(……セリアと結婚? い、いやいや……えっ? ど、どうなんだ? それ、どうなんだ?! ってか、本当に好きなのか? どうなんだよ、おい!!)


 心の中で絶叫していると、ユノがとびっきりの笑顔で駆け寄って来た。


「ギル様ぁ! 今日、一緒にお風呂に入りませんか?」


 はちゃめちゃ可愛いユノの笑顔に笑みを返しながら、


(ま、まぁ、またいつか確認すればいいか……)


 などと3人で帰路に着いたが、安定の無表情に戻ったセリアに(あれ? 夢だったんじゃないか?)などと首を傾げた。





―――『天空島』




グオオォオオオオン!!

 


『クハハハッ! ヨウヤク、メガサメタワ(ようやく、目が覚めたわ)……』


 300年の安眠で魔力を過剰に溜め込んだ【暴虐竜】。


 黒々とした全身の鱗に真紅の瞳。


 世界に7体存在する『天災級』の生物はバサッと天空島から飛び立った。




総合6位、感謝です!

今後ともよろしくお願い致します!



〜作者からの大切なお願い〜


「面白い!」

「次、どうなる?」

「更新頑張れ!」


 少しでもそう思ってくれた読者の皆様。

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