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〜ロリド・ジャン・オラリア〜 ④




コンッコンッ……


 遠慮がちに鳴ったノックの音に、相手が誰かわかったロリドは力なく「入れ……」と呟いた。


「失礼致します。ロリド殿下……。見張りを交代して貰いましたので」


 部屋に入ったのは新米執事のマークだ。

 マークは部屋に入るなり、何も言わず部屋の清掃を始めたが、ロリドはそれを見つめながら小さく口を開く。


「……それで? どうなってる?」


「はい。王宮内はギルベルト様の話で持ちきりです。皆がカーティス家をもてなす準備を、」


「そんな事は聞いていないッ!!」



ガッ!!


 ロリドは怒号と共に床を拭いていたマークを蹴る。


(この無能が……! 頭の悪いクソめ!)


 部屋に入るなり嘔吐物に気づき、嫌な顔1つせずに即座に清掃に移したマークの動きは執事としては優れた物である。


 だが、ロリドの頭には嫌悪感を露わにする父の顔と、幼い頃から世話をしてくれたオーウェンのギルベルトへの感嘆の表情、そしてギルベルトの澄ました表情がグルグルと回っており、苛立ちを抑えられない。


「も、申し訳ありません、ロリド殿下」


「少しは考えろ! 『下賤のクズ』は私を貶め、王族に反逆した犯罪者だ! あのクズが災厄級の魔物を討伐したなど嘘に決まっている!」


「はい……」


 マークの怯え切った表情に、ロリドは誰との接触禁止を命じられている事を思い出しギリッと歯軋りをして、声のトーンを下げた。


「……で? どうなのだ? 行ってきたのだろうな?」


「は、はい。3組の暗殺者を見繕いました……。ロリド殿下の指示を聞き、今日の夜、ギルドに足を運ぶ手筈になっております」


 マークは懐に折り畳んでおいた紙を取り出した。


『毒針 ゴンズ・ライデン』

『狩人 ハミラ・ドラン』

『双刃 グリ・プライディン/グラ・プライディン』


 写し絵と経歴が書かれている紙を見つめながら、ロリドはニヤリと頬を緩めた。


 ゴンズは『毒魔法』のギフト持ちでかなりの要人の暗殺を得意としているようだ。


 ハミラは対象者を見つける事に特化した狼人でありギフトはないが、他国での暗殺が多いようだ。


 そして、グリとグラは子供だが、その実力は相当な物なようで、「暗殺者ギルドのランキング1位である」と書かれていた。



 ロリドは口角を吊り上げ、ギルベルトの死体を想像しては瞳を輝かせた。



(ククッ……。笑っていられるのも今のうちだ! ギルベルト・カーティス!)


 


※※※※※



 マークはひどく緊張していた。


 いま、王宮で話題の『英雄』の暗殺計画。


『万が一、暗殺が成功してしまった時には、このオラリア王国を敵に回してしまうのではないか?』


 それほどまでに、今の王宮はギルベルトの話題でいっぱいだったのだ。部屋にこもっているロリドにはわからないのだろうが、自分にはギルベルトの『人気』がわかってしまう。


 マーク本人もたくさんの話を聞き、そのギルベルトの功績と『人知れず国の危機を救う』という生き様に敬服する事しかできていない。


 この計画が、ロリドの立場を悪くするのではないか?

 『英雄』の暗殺で国が危機に陥るのではないか?


『この計画は中止するべきだ』


 マークは、妹や母を養うために手に入れた王宮での職を失いたくなかっただけなのだが、もう自分が引き返せない所まで来ている事も理解していた。


 もし、この計画が露見すれば、投獄、もしくは処刑されてしまうのだろう。逆らえなかったとはいえ、自分はもう手を染めてしまっている。


(でも……)


 マークは決意を固めて口を開いた。


「ロ、ロリド殿下。今からなら、まだ間に合います! や、やはり暗殺などは、」



ドスッ!



 言葉を遮るようにロリドはマークの腹部に拳を振るった。


「くっ……ガハッ……」


「勘違いしてるのか? お前は私と『契約』したはずだろ?」


「……は、はぃ」


「自分のあるじがバカにされて、貶められて、殴られたのだぞ? お前はそれが許せるのか? お前の忠誠はその程度の物なのか……?」


「い……いえ」


 マークは少し瞳を潤ませながら、もう逃げられない事を悟った。頭の中には可愛い妹の笑顔と、「いつもありがとうね」と感謝いっぱいの母の顔が浮かんでいた。


「マーク。私は信じているぞ? いつか私が王になった時、1番信頼のおける臣下として、お前が側に居てくれていると……」


「……」


「マーク。お前が裏切れば、幼女や婦人が『分解』されてしまう『事故』が起きるかも知れないな……」


 ロリドはマークの首を掴んで耳元で囁く。

 マークは涙を加速させ、ゴクリと息を飲んだ。


「……ロリド殿下。ど、どの者に依頼致しますか?」


 マークのひどく掠れた声にロリドは口角を吊り上げる。


「クククッ……。それでは、そうだな……、ここにある、全ての刺客達に依頼してくるのだ」


「……す、全てですか?」


「あぁ! 依頼金は全ての者に支払い、成功報酬は早い者勝ちの競争だ! ククッ……。面白くなってきたな、マークよ」


「……はぃ」


 ロリドは自室の金庫に向かい、その中から金塊を5本取り出し布で包んだ。


「マーク、1本はお前の物だ。他の4本を換金し、それで依頼金を作るんだ。余った金貨もお前にくれてやる」


「……はぃ、ありがとうございます。ロリド殿下」


「マーク。期待しているぞ?」


「……はい、失礼致します」



 マークが部屋を出た事を確認し、ロリドはやっと呼吸ができた気がしていた。膨れ上がった憎悪で息苦しくて仕方なかったのが嘘のようだった。


 先程の青ざめたマークの表情を思い返しながら口角を吊り上げる。


(もうふざけた事を言う事も無くなるだろう……)


 自室の窓からは、オーウェン自らが馬車に乗り込むのが見えた。ロリドはそれを「ふんっ」と鼻で笑い、部屋のソファに腰掛け、3枚の紙を手に取った。


「あと少しでお前の命は終わりだ……」


 暗殺者の経歴書を眺めながら「クククッ」と笑みを噛みしめる。ロリドは久しぶりに心から笑えた気がしていた。




昨日、ジャンル別、1位になれました! 

読んでくださっているみなさんのおかげです。引き続き頑張りますので、よろしくお願い致します。



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[一言] マークよ何故王様にチクらない?謎
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