〜ロリド・ジャン・オラリア〜 ③
―――王宮
「自分を見つめ直す時間は充分に与えたつもりであるが、いまお前は何を思うのだ?」
国王である父から呼び出されたロリドは、開口一番に問いかけられた。
「……これまでの横暴な態度や虐げてしまっていた弱者達。私は次期国王にふさわしくないのではと、考え至りました」
「そうか……」
「これからは陛下である父様のように慈悲深い心根で民に接して行ければと考えております」
ロリドは父の前に跪き、頭を下げたまま荒ぶる心を落ち着けるように深く息を吐いた。
(……謹慎はもうたくさんだ! なぜあんな『下賤のクズ』のせいで私がこんな目に遭わなければいけない!)
ただ謹慎生活を終えるために思ってもいないことを口にしたロリドに国王は鋭い視線を向けた。
「……昨日、王宮のメイドが辞めたのだ」
「……?」
「そのメイドはひどく怯えた様子だったが、何か知っているか?」
「……いえ、私にはわかりかねます」
ロリドの頭には3日前のメイドの姿がよぎる。
何一つとして面白くない王国の歴史書や、王政にまつわる書物しか置かれていない自室。
『何もする事がなく』、ただただギルベルトへの憎悪を募らせるだけの日々の中で、唯一の楽しみが若いメイド達との情事だった。
金を恵んでやるとすぐに服を脱ぐメイドから、そんな物なくとも喜んで服を脱ぐメイドまで様々だった。
―――や、やめて下さい、ロリド殿下!
3日前のメイドの泣き顔がロリドの頭にはよぎっているが、それが明るみになる事は謹慎生活の延長を意味する事になると息を飲んだ。
「ロリド、それは誠であるか?」
「もちろんでございます……」
「……ロリドよ。……幽閉しても構わぬのだぞ?」
地を這うような父の言葉に、ロリドは全身の毛を逆立てた。
(ゆ、幽閉……? わ、私が……? 次期国王である、この私が牢屋に……?)
ロリドは気がついた。思ってもいない言葉の数々が自分の首を絞めている事に。
「い、いえ! 違うのです、父様! あれは、」
バタンッ!!
ロリドの言葉はノックもなく開かれた扉に遮られた。
「へ、陛下! お聞きください!! ギルベルト・カーティス様が『災厄級』の魔物であるゴブリンキングとゴブリンの軍勢を単独で討伐を果たしたと……」
執事長のオーウェンは興奮のままに部屋の扉を開いたが、執事としてあるまじき行為をしてしまったと、跪いているロリドを見て、言葉を止めた。
先程、ゴブリンキングの討伐の報告を聞いたオーウェンは、ギルベルトが何十万もの国民を救った事を理解した。
(早く陛下に伝えなければ……!)
いつも冷静沈着で奉仕を執り仕切るオーウェンだが、全身を突き動かすような吉報に、執事らしからぬ行為をとってしまったのだ。
オーウェンは慌てて頭を下げた。
「お邪魔をしてしまい、申し訳ありませんでした。また、お時間が、」
「……そ、それは誠か?! オーウェンよ!」
大きく目を見開いて歓喜を滲ませて玉座から飛び上がった国王に、オーウェンはコクリと頷いて口を開いた。
「……はい。団長のティグウェルは討伐されたゴブリン達を搬送中であると報告を受けております」
国王は深く息を吐きながら玉座に座り込むと、天を仰いだ。
「よくぞ、よくぞ……!! か、感謝するぞ、ギルベルト・カーティス……」
ギルベルトの働きは国民だけでなく、オラリア王国の王国騎士団の命を救った事を意味する。
練兵に練兵を重ねた精鋭200人での討伐作戦。
指揮官級の団員達の死は国の武力を著しく落とすことに繋がるはずだったのだ。その隙に、対立国から攻め込まれれば、多くの国民が路頭に迷う事になると危惧していたのだ。
だからこそ、国王は心底ギルベルトに感謝し、深い安堵に天を仰いだのだ。
「そ、それで? ギルベルト・カーティスはどこにおる!? この愚息の件も含めて、最大の褒賞を与えなければならぬぞ!」
「それが、また姿を眩ませたようで……。ティグウェルの見立てでは、『おそらく、新たな異変を察知し、そちらに向かった』との事です」
「……なるほど。姿を消していたのはゴブリンキング討伐のためであったか……。そして、また『国のため』、身を粉にして旅立ったのだな……?」
「はい。本当に底が知れない者であります……。優秀であるとは存じておりましたが、これほどまでとは……」
「……ふむ。カーティス家に早馬を!」
国王はまた立ち上がり声を張った。
「ギルベルトの父アルマと、兄イルベールを王宮に招くのだ! 先んじて『カーティス家』に褒賞を与え、ギルベルトが戻り次第、盛大に論功行賞を執り行う!」
「なるほど。それは良き考えであります、陛下」
盛大な勘違いを繰り返した国王とオーウェンは、姿を見せてくれないギルベルトを頼もしく思い、人知れず国の安全を守ってくれているギルベルトの騎士としての在り方に胸を熱くした。
「オーウェン! 早急に行動に移すのだ!」
「はい、承知致しました」
オーウェンは綺麗にお辞儀をすると早足でその場を後にし、また国王とロリドが2人になる。
「本当によくやってくれたぞ、ギルベルトよ……」
独り言のように呟かれた言葉にロリドは嘔吐してしまいそうになるほどの気分の悪さを感じていた。
(ふ、ふざけるな……。ふざけるな! ふざけるなぁ!! あ、あのクズめ! 絶対に……、絶対に許さぬぞ!!)
ロリドの頭にはギルベルトの澄ました顔が浮かんでいる。心の中で憎悪と憤怒を更に募らせるロリドの表情は、とても王になる者の顔ではなかった。
「……お前もギルベルトを見習ってはどうだ? 民を救い導く……。ギルベルトには、王の器が備わっておる」
「……」
「……メイドの件はこちらで調査する。自室にて軟禁……。誰との面会も許しはせぬからな?」
「……」
「下がるのだ、ロリド。いまはお前の顔を見ていたくはない」
ロリドは何も言葉を発する事ができずに立ち上がり、ギリギリと歯軋りをしながら自室に戻ると、あまりの気分の悪さに嘔吐した。
「ハァ、ハァ、ハァ……。クソッ! クソッ!!」
自室の外の廊下には、忙しなく使用人達が駆け回っている音が響いている。
(ギ、ギルベルト・カーティス……!!)
ロリドは深い憎悪に狂乱してしまうのを抑えながら、汚れた口元を拭った。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなる?」
「更新頑張れ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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