『宝剣』? もしかして……。
―――エルフの里
湖が一望できる豪華な屋敷の一室で、俺はただただ目の前のエルフを見つめている。
「あなた様こそが救世主様で間違いありません! よくぞ、よくぞ里に現れてくれました!」
「……い、いえ。全てはユノの導きのおかげですよ」
俺は微笑みながら言葉を返す。
(ユ、ユノは嘘吐きだ!! な、何がチアド『婆様』だ! めちゃくちゃ若い美人じゃないか!!)
里長のチアドはどう見ても20代前半の美しいエルフだったのだ。エルフからすれば200歳くらいなのだろうが、そんな事はもうどうでもいい。
長い金髪にたゆたゆの胸。ユノと似ているグリーンの瞳。エルフ特有の衣装なのかは知らないが、とにかくエロすぎる。
ここに来るまでに出会ったエルフ達はみんな金髪で美形揃いであったが、その中でも群を抜いている。
何より、たゆたゆの豊満な胸はチアドだけだ。
「チアド婆様! ギル様を一目見た瞬間に僕はわかったんだよ? 救世主様だって!」
「フフフッ。ユノ、偉いわ。まだ幼いユノのわがままを許可したのだけど、すごく心配してのよ?」
「ふふっ。大丈夫だよ。僕はチアド婆様の孫なんだからッ!」
ユノは胸を張って誇らしげな表情を浮かべる。
(幼いって101歳の時だろ……? ってか、ユノ……。お、お前ってヤツは……里長の家系だったのか!)
俺はニッコリと愛想笑いを浮かべたまま、ユノに激しくツッコミを入れる。
「ご主人様……。こちらを」
セリアはここに来る前のとびっきりの笑顔などなかったかのような無表情で、俺に護身用ナイフを手渡して来る。
俺はチアドの方に歩いて行き、カーティス家が帝国に住まうドワーフに作って貰った護身用ナイフを差し出した。
「……チアド様。こちらをお納め下さい」
「……な、何をしているのですか!? あなた様にわざわざ足を運んで頂いたのはこちらですよ!?」
チアドは慌てて玉座っぽい椅子から飛び上がった。
「クオラ! 『アレ』を! 救世主様にお渡しする『宝剣』を持ってきてくれる?」
「はい、チアド様」
チアドは側に控えていた女エルフに声をかけるが、俺は誰も受け取ってくれないので、泣きたくなっている。
(な、なんだよ、『宝剣』って。もうなんか……嫌だ、この感じ。し、しんどい……!)
俺はゆるく、のんびり暮らしたいだけであって、持て囃されたいわけではない。
ここに来るまでに出会ったエルフ達は、俺を見ると大きく目を見開き、即座に跪いて祈るように感謝を述べて来ていた。
正直、死ぬほど恥ずかしかったし、死ぬほど勘弁して欲しいのが本音だ。逃げ出すつもりはないが、逃げ道を片っ端から塞がれていく感じが大嫌いなのだ。
「……ご主人様。お預かり致します」
セリアの言葉にハッとすると、護身用ナイフをセリアに預ける。
(は、恥ずかしいッ!)
1度差し出した物を受け取って貰えないなど、死ぬほど恥ずかしい事だが、エルフが貴族の常識を知っているとは思えないし、悪気はないのだろう。
だって……、
目の前には見るからに高価そうで美しい剣を持ったチアドが不安気にこちらを伺っているからだ。
(……も、貰いたくねぇ……。何かわかんないけど、多分、いや、絶対、ヤバい剣な気がする!!)
チアドは片膝を床につけ両手で剣を差し出してくる。
「これは『ユグドラシルの枝』から作られたとされている宝剣なのです。エルフの里に4000年前から受け継がれ続けてきたエルフの宝です!」
「……」
(……はっ?)
「こんな物しか差し出す物はありませんが、どうか邪竜から里を救って欲しいのです……」
「……」
(も、もしかして、『里を救う』って『俺の命と引き換えに』って事なのか?)
「……救世主様? どうか、どうか、これを受け取っては貰えませんでしょうか?」
「……」
(……ぜ、絶対、そうじゃん!!)
チアドはユノと同じグリーンの瞳を潤ませるが、気づいてしまった俺の顔は引き攣っていくだけだ。
あのユグドラシルの枝から作った宝剣?
4000年前から受け継がれて来たエルフの宝!?
なんでそんな大切な物を差し出せるんだよ!?
それは……、邪竜討伐は俺の死と引き換えに実現するからに決まってる!
(おかしいと思ったんだ! こんな上手い話が『俺』に訪れるわけがない! ふざけるな、『世界』!)
泣き出してしまいたい俺はセリアに視線を向けて助けを求めるが、セリアは相変わらずの無表情でコクリと頷くだけだ。
「聞いてないぞ?」とばかりにユノに視線を向けても、不思議そうに小首を傾げているだけ。
そして、チアドは祈りを捧げるようにグッと目を瞑っている。
「……あ、あ、あ、有り難く……!!」
(……死にたくねぇえええよぉおおおお!!)
好意で出された物を受け取らないような者は紳士ではない。カタカタッと震える手で受け取ったのに、恐ろしいほど馴染んでしまう宝剣に更に背筋が寒くなる。
(こ、これに封印するとかじゃないだろうな? いやだぁあ! やっぱり竜種はヤバいって!)
あからさまにホッとしたようなチアドに、ニコッと無邪気な笑顔を浮かべるユノ、そして無表情で信頼の眼差しを向けてくるポンコツメイド。
おそらくユノは知らないのだろう。
言動や可愛さに疑いの余地はないのだから!
ユノの可愛さは正義だ!
『俺の勘』だが、チアドが怪しい。
チアドだけが全てを知っているはず……。
里を守るために俺の命を利用しようとしてるのだ。
「チ、チ、チアド様。『予言』について詳しく話を聞きたいのですが、2人だけで少しお時間を頂けないでしょうか?」
(『予言』の全てを暴いてやるぞ!)
チアドはパチパチと瞬きすると、少し唇を噛み締めて頬を染める。
「……わ、私で良いのなら……、いくらでも……」
「よろしくお願い致します!」
「で、では、みんな! 私は救世主様と『2人』で話があるので席を外して? 誰1人として、覗く事は許しませんからね?」
チアドの言葉に控えていたエルフ達はチアドと俺、それからセリアに頭を下げて消えてしまった。
「チアド婆様? どうしたの?」
「ユノも席を外してくれる? さ、流石に孫の前では……その……無理だから……」
「……?」
「私は救世主様と大事な用があるの。皆に帰郷のあいさつをしてきなさい……」
「……? うん! わかった!」
ユノは笑顔で返事をすると俺に視線を向け、
「ギル様! では、また後で里をご案内しますね!」
「ああ。よろしく頼む!」
無邪気に笑みを浮かべて頭を下げると、トコトコとセリアに向かって走っていく。
「セリアちゃん。先に里を案内するから行こう!」
「……いえ。セリアはご主人様と居ますので」
セリアが呟いた瞬間に、
「え、えぇっ!? あ、いや……、その……」
チアドが急にバツの悪そうな声を上げ、唇を噛み締めている。
(な、なるほど……。よっぽど言いづらい事なんだな……、や、やっぱり『そう』なのか。……クソォオオオオ!)
半泣きの俺はセリアに声をかける。
「俺は大丈夫だから、先にユノと回っておいてくれ」
「……で、ですが、ご主人様、」
「セリア! すぐに俺も行くから、安心しろ……」
(俺の生死の話だ。セリアは聞かない方がいい)
「……承知致しました」
綺麗にお辞儀をして部屋を後にするセリアとユノ。
おそらく里の中で1番、豪華な部屋には【予言】の『ギフト持ち』と里長と2人きり。
「さぁ、チアド様。詳しく聞かせて頂けますね?」
「……チ、『チア』と……、チアと呼んでくれませんか? 救世主様」
「……ん?」
チアドはなぜか恥ずかしそうに頬を染めると、ただでさえ布地の少ない上の服に手をかけ、パサッと脱いだ。
「さぁ、救世主様……。お好きにして下さい」
「……」
(な、な、何してるんだよ!? チアド様!!)
俺は美しすぎるおっぱいを凝視しながら、心の中で絶叫した。
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