〜ミーシャとリリムの追跡〜
―――獣人の村 『ギル』
リリムはギルベルトの魔力の残滓にゴクリと息を飲み、ギルが寝ていたと思われる質素な藁の寝床に倒れ込むと鼻息を荒くした。
(こ、ここにギルがいたのね! ……あぁ。最っ高!)
リリムとミーシャ、ストロフ家の執事レム一向は、カーティス領に向かっている獣人達(アイシャ達)一向を見つけ、カーティス領の入り口まで送り届けてから、すぐに『獣人の村 ギル』を訪れた。
最愛の弟の名前が付けられた村にリリムは涙ぐみ、魔力の無駄遣いとも言えるような創造魔法を展開した。質素な村は小規模とはいえ、かなり豪華な町へと変貌を遂げたのだ。
魔力切れによる疲労により、ギルベルトが眠っていたとされるボロボロの家屋の藁の上にダイブしたのだ。
町の入り口には、「ギル」と書かれた看板は一際大きく、リリムの『ブラコン』は止まることを知らなかった。
リリムは獣人達からギルベルトの話しに気分を良くし、父と兄、それからミーシャにしか手紙がなかった事に号泣したが、
(……そ、そうか!! 私は直接会いに来てくれると信じてるのね!?)
などと、無理矢理な思い込みで心の安寧を取り戻したのだった。
程よい疲労感と、出来上がった町の達成感。
生まれ変わった町には、あまりに不釣り合いなボロボロの布だけの家の中で、リリムはギルベルトの魔力の残滓に興奮しながら、ニヤニヤと眠りについたのだった。
※※※※※
森に山菜を摘みに行っていたレム爺こと、ストロフ家、執事のレムは、姿形が全く変わってしまっている村に空いた口が塞がらなかった。
スヤスヤと気持ち良さそうに眠るリリムに、顔を引き攣らせて、苦笑を浮かべた。
「な、何てお方なのじゃ……。ま、まぁ、自由奔放でわがままなリリム様は健在じゃのぉ……。フォッフォッ! 流石、帝国騎士団の団長まで登りつめたお方ですわい!」
レムは感嘆の声をあげ、「ギル……大好きよ……」などと寝言を言っているリリムの寝顔に頬を緩ませると、ミーシャの顔を伺った。
「……そうね。アイシャさん達もとても嬉しそうにギルの事を話していたし、本当に連れて来て貰えてよかったわ」
「ミーシャ様。ギル坊の手紙は読まれたのですか?」
「……いいえ、まだ気持ちの準備が出来てないの。今は手紙を書いてくれた事だけで、胸がいっぱいで……」
「フォッフォッ、そうですか……」
可愛らしく手紙を胸に抱きしめて、嬉しそうに頬を染めるミーシャにレムは(ギル坊は罪な男じゃわい!)などと、頬を緩めた。
先程山菜を摘みに行っていたレムは、オラリアの王国騎士団と顔を合わせていた。
尋常ではない量のゴブリンの死骸を運んでいるのにも関わらず、一切汚れていない騎士団員達の顔はとても晴れやかだった。
―――ギルベルト・カーティス様が、単独でゴブリンキングを討伐なされたのだ! こんな事を出来るのは、『ギルベルト様』だけだ! レム殿! あのお方はどこにおられるのです!?
顔見知りの騎士団長のティグウェルは、少年のように瞳を輝かせおり、レムはティグウェルに普通に引いた。
(全く……。『次』は何に巻き込まれるのじゃ? ギル坊よ)
少しばかり呆れながらも、幼い頃から世話をしてきたレムにとって、ギルベルトの活躍はとても嬉しい事であった。
ふとギルベルトが13歳の頃にオークジェネラルを討伐した時の事を思い出した。あれはミーシャとメイドのセリアを連れて森に探検に行った時の事だ。
―――ち、違うんだ! 本当にギリギリだったんだぞ? レム爺! なんで着いてきてくれなかったんだよ! 死にかけたんだからな!
返り血まみれのギルベルトの言葉。
騎士団員達の尊敬や感謝の瞳は、その時の汚れ一つないミーシャとセリアを思い出させたのだった。
穏やかな表情でリリムの寝顔を見つめているミーシャにレムは声をかける。
「どこに居るのでしょうね、ギル坊は……」
「……さぁ? でもきっとギルなら大丈夫だよ。だって私の『旦那様』だもん!」
ミーシャのブラウンの瞳にはギルベルトしか見えていない。
(やっぱり罪な男じゃわい……)
レムは仄かに頬を染める可愛らしいミーシャを見つめながら頬を緩め、リリムが眠っている間に食事の準備を済ませようと調理に取りかかった。
※※※※※
ミーシャはスヤスヤ、ニヤニヤしているリリムと、食事の支度を始めたレムを前に、ギルベルトを想った。
(ギル……。早く会いたいよ……)
『やはり』と言うべきなのか、改めてセリアと行動を共にしているとわかり、内心は少しだけ焦っているのも本音であった。
セリアの美しさは痛いほど知っているし、セリアがギルベルトの事を深く愛していることも重々理解しているからだ。
セリアに直接聞いたわけではないが、セリアの綺麗な紺碧の瞳は、いつもギルベルトにしか向いていないし、その瞳には見覚えがあったのだ。
ミーシャはドレスに忍ばせていたギルベルトとの写し絵を取り出す。
少し色褪せてしまった1枚の写し絵。
そこにはニカッと笑顔を浮かべる幼いギルベルトと、そのギルベルトを愛おしそうに見つめる幼い自分が写っている。
その自分の瞳は、いつもセリアがギルベルトに向けている物と同じなのだから、気づかないはずがないのだ。
(何で私も連れていってくれなかったのよ、ギル)
少し口を尖らせるミーシャだが、日を追うごとに会いたい気持ちと、愛情が募って行く事が嬉しくも感じていた。
不安しかなかった生活から、リリムの助力のおかげとはいえ、1歩を踏み出せた自分が誇らしかったのだ。
(ギル……。読むね……?)
ミーシャは心を落ち着かせ、何か手がかりが書かれているかもしれない手紙の封を丁寧に開けた。
『ミーシャへ
『帰る』という約束を守れず、すまなかった。
王国から指名手配犯として追われている事はわかっているから、心配はしなくていい。
俺が逃亡することで、ミーシャにも迷惑をかけるかもしれない。本当にすまないと思っている。
だが!! そこは親友の命を救うためだと割り切ってくれ。頼む! すまないとは思っている! でも、俺は斬首は嫌なんだ!
……こんな事を書きたかったわけではないが、書き直す時間はない。乱文、失礼した……。
その後、殿下からの嫌がらせは受けていないか?
少し心配ではあるが、ストロフ家を敵に回すような愚策を『賢王』がするとも思えないから、大丈夫だと信じている。
いざとなれば、「ギルベルトが勝手に殴ったのだ」だとか「その気はあった」などと言って、全ての罪を俺になすりつけてくれて構わないからな?
とにかく自分と身の安全を1番に考えてくれ。
君の無事と幸福を祈って……。
ギルベルト・カーティス 』
ミーシャは手紙を読み終えると、少し涙を浮かべながらも「ふふっ」と小さく笑みを溢した。
そのあまりにギルベルトらしい文と盛大な勘違い、そして自分を気遣うような文面に、笑顔と涙が同時に押し寄せて来たのだ。
『君の無事と幸福を祈って……』
最後の一文を指でなぞり、更に込み上がってくる涙に耐えた。
「……ギルのバカ……。ギルがいないと、私はちっとも『幸福』じゃないのに……!」
手がかりなんて1つもない、盛大な勘違いを繰り返している手紙を丁寧に折りたたみ、2人の写し絵と共にしまうと、それをギュッと抱きしめた。
(会いたいよ、ギル……)
止まらない涙は愛情の証。
ミーシャは溢れる気持ちに蓋をするように、ギルベルトとの思い出を振り返ったが、更に溢れてしまうだけだった。
〜作者からの大切なお願い〜
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