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『エルフの里』と……。



「こちらがエルフの里です!」


 ユノは小さな両手を広げてニッコリと微笑んだ。


(す、すげぇ〜!! でっけぇ〜!!)


 ユノは【幻術】の『ギフト持ち』だったようだ。


 驚いたが、正直それどころではなかった。


ーーーギル様。て、手を繋いでもいいですか?


 顔を真っ赤にしながらお願いされれば、断れるはずがなかった。時折り、上目遣いで俺の顔を見上げては「ふふっ!」と嬉しそうなユノの破壊力に失神寸前だったからだ。


 何の変哲もない山の中に人がくぐれる空間だけを解除して、その中に俺達を入れてくれた。


 俺は離された手にかなりのダメージを受けていたが、目の前の景色にただただ圧倒された。



「アレが『ユグドラシル』! 世界樹です!」



 ただの山の中のはずなのに現れたのは巨大な大樹。

 その木の根には湖が広がり、その周辺にはいくつもの建物が乱立している街がある。


「……ギ、ギル様? セリアちゃん……?」


 2人して絶句している俺達にユノの不安気な声が聞こえた。


「す、素晴らしいですね、ユノさん。とても美しいです」


「あ、ありがとう、セリアちゃん!」


 ユノはホッとしたようにセリアに返すと俺の顔色を伺ってくる。俺は「ふっ」と小さく笑うと、ユノの頭に手を置いて、安心させるように微笑んだ。


「すごくいい里だな! こんな綺麗な所が世界に隠されていたなんて、本当に驚いた!」


「は、はい! 人間を迷わせる結界を張っているので、辿り着く人間はいませんし、このユグドラシルを守護するのが、エルフの使命なのです!」


「……へぇ〜! 最高だな!」


 空高くまで続く世界樹の迫力は凄まじく、人間は俺とセリアだけの夢の里に歓喜に包まれる。


(見つけたぞ! 俺の理想郷ユートピア!)


 気を抜くと涙が出そうだ。

 この逃亡生活に終止符を打つ事ができたかもしれないという安堵は計り知れない。



「じゃあ、まずは『チアド婆様』のところに行きましょう!」


「……【予言】の人だよな?」


「はい! チアド婆様はこのエルフの里の里長です!」


「……そうか。それは挨拶しないと失礼だな」

(……ここの『女王』か。怖くないといいが……)


 トコトコと先に歩き始めたユノを見つめながら少し緊張していると、セリアがグイッと顔を寄せてきた。


(なっ、えっ!? いや……! はっ!?)


「ご主人様、申し訳ありません。手土産を用意出来ていません……」


 セリアは俺の耳元に顔を寄せて小さく呟く。


 あり得るはずもないのに、正直、キスをされるのかとドキッとして損した。


 でも……、


(た、確かに! 手ぶらで来てしまった! じょ、常識的に失礼じゃないか!?)


 心の中で叫びながら、俺は顔を青くした。


 救世主などと言われてここを訪れたが、手土産の1つも用意出来ない無能と思われるかもしれない。


 貴族としてのあまりに礼節を欠く行為だ。


 逃亡生活に必死だったしエルフの里に胸を高鳴らせていて、すっかり失念していたが、


(手土産になり得る物は1つしかない!!)


 即座に頭を回転させ答えを導き、慌ててセリアに確認しようと声をかけた。


「ご、護身用ナイフを献上するか? い、一応、カーティス家が、」



ぷにッ……。


 想像よりもかなりの至近距離にあったセリアの頬に口を当ててしまった。


「……」

(な、なんで、『こう』なった!!)


「……」


 大きく目を見開き絶句しているセリア。


「わ、悪い……」

(ち、近すぎなんだよ! ポ、ポンコツメイド!!)


 心の中で思いっきりセリアのせいにしながらも、セリアの顔色を伺う。


「……」


 セリアは急速に真っ赤になると、グッと唇を噛み締めて、見開かれたままの青い瞳に涙を溜めていく。


「え、あ、いや! ご、ごめんな? わ、わざとじゃなくて、その……。な、泣かないでくれ! 俺が悪かったから……!」


 俺は慌ててセリアから距離を取る。


「い、いえ……。そ、そ、そうですね。あ、あのナイフは、カーティス家の……、そ、そうですね……」


 セリアがうわ言のように呟くと、先程『俺の唇が当たった』場所に涙を走らせた。


(……え、えぇっ!! ご、ごめんって! ちょ、ちょっと当たっただけだろ……!? ってか、そんな嫌なの!? そ、それはそれで何かショックなんだがッ!)


 セリアが泣いているのを見たのは、幼い頃に人攫いから救出した時以来……。あの時からセリアは無表情を装うようになってしまったのだ。


(ヤバい、ヤバい、ヤバい! 泣かせてしまった! 自分のメイドを泣かせてしまうなど、あるじとして最悪だ……!!)


 俺が死ぬほど狼狽えていると下から視線を感じ、ゾクッと背筋に冷たい物が走る。


「セリアちゃん……? ギル様?」


 透明度の高いグリーンの瞳が俺とセリアを交互に見比べている。


(ち、違う! お、俺じゃない! い、いや、俺だが! ち、違うんだよ、ユノ! こ、これは『世界』が……)


 俺の体質など知るはずがない純真無垢な瞳に逃げ出してしまいたい衝動に駆られていると、セリアが口を開いた。


「い、行きましょう、ユノさん。少し目にゴミが入ってしまっただけですので、お気になさらないで下さい。ご主人様に取って頂きましたので」


「なんだぁ〜! セリアちゃんが泣いてるからびっくりしちゃった! ……大丈夫? セリアちゃん、顔が真っ赤だけど?」


「はい。何も問題ありません……」


 セリアはユノの手を取りそそくさと歩き始めると、思い出したかのようにクルリと振り返り俺と視線を合わせ綺麗にお辞儀をした。


「ゴミを取って頂いてありがとうございました。は、早く行きましょう! ご主人様」



バクンッ!



 真っ赤な顔に濡れた頬。


 綺麗に微笑んだセリアの笑顔に今度は俺が絶句する番だ。


 その幸せそうな笑顔は『昔』の面影を残しながらも、当たり前なのだがもう17歳の女性の物で、俺の焦燥や罪悪感は綺麗さっぱり消え去ってしまった。

 

(……あ、あれ? な、なんだ……?)


 トクン、トクンと心臓が音を立てる。


 これまでの動悸とは比べものにならない感覚に、息苦しさすら感じ、その初めての経験に病気にでもなったのかも知れないとゴクリと息を飲む。


 先を歩いて行く2人の背中と、幻想的なユグドラシルに里の街並みを見つめる。


(な、なんだか夢の中みたいだ……)


 非現実的な景色の中、俺の頭にはセリアの笑顔しかなかった。


 身体が熱くなり、少し顔に汗が滲む。

 初めて女性に触れた唇が熱を持って仕方ない。


 俺は上着のポケットからハンカチを取り出し、汗を拭ったが、あまりの違和感に眉を顰めた。


(……あ、あのポンコツメイドめ……)


 手に握られているセリアの純白の下着。


 顔の熱は冷めなかったが、一気に夢から覚めたような気がして小さく笑みを溢した。





ジャンル別3位、1000ブクマ越え、感謝です!

かなりの僅差に涙目の作者ですが、今日も頑張りますので、よろしくお願い致します。



〜作者からの大切なお願い〜


「面白い!」

「次、どうなる?」

「更新頑張れ!」


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