怖すぎる『予言』
ユノはニコニコと笑顔で俺を見上げてくる。
「救世主様の名前はなんですか?」
「ギルべ……、『ギル』だよ!」
(あ、危なッ! 危うく本命を名乗ってしまう所だった! そ、それにしても、『救世主』ってなんて恐ろしい響きなんだ……)
「『ギル様』ですね? とてもいいお名前です! 24年間、ずっとこの地でお待ちしておりました!」
ユノはパーッと弾ける笑顔を浮かべる。
確かにエルフは長寿であると歴史書に書いていたが、12歳前後の小さな子供なのに、俺より年上だという事実に顔を引き攣らせる。
「ちょ、長寿だもんね。えっと……ユノちゃんは何歳なのかな?」
「……? 僕は125歳です! ギル様、『ユノ』で問題ありませんよ?」
「ふ、ふぅ〜ん……。え、えっとユノは何で俺を待ってたのかな?」
(は、はちゃめちゃ可愛いがッ!)
「ギル様はエルフの里を『邪竜』から救って下さる、救世主なのです! チアド婆様の『予言』で出たのです!」
「……よ、『予言』……?」
「はい! 『黒髪黒眼の大剣を携えた少年が、美しい従者と里を訪れ、邪竜を討ち果たし里を救う』と!」
「……」
(……は、はい、死にました!!)
俺は微笑ましくユノを見つめたまま一瞬で悟る。
竜種は世界に7体存在しており、『天災級』と呼ばれる最悪最強の生物として人類は匙を投げているのだ。
(無理、無理、無理! 全人類が諦めてんのに、俺1人でどうこうできる物じゃないだろ!)
ゴブリンキングの災厄級でも、泣き叫びたくなるくらいの化け物だったのに、『竜種』なんて、いよいよ死ぬ。
「……ユノ様。ご心配には及びません。ご主人様に任せておけば、全てが上手くいきますので」
セリアはサッと俺の前に出ると、ユノと視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
(な、何言ってくれちゃってんの! このポンコツメイド!!)
俺は心の中で絶叫するが、セリアの表情を見てドクンッと心臓が跳ねる。
とても美しく、果てしなく優しい微笑みのセリア。先程の頬の熱は冷めていないようで、それはそれは、可愛らしい笑顔だ。
「ふふふっ。セリアさんはギル様をとっても信じているんですね!」
「……はい。この世の誰よりも信じております」
「さっすが、救世主様の『お嫁さん』ですね!」
ユノの言葉にセリアはまた顔を真っ赤にして、唇を噛み締めながら無表情を装っているつもりのようだ。
「……ユ、ユノ様。セリアはご主人様の専属メイド。『お嫁さん』ではありませんよ?」
「そ、そうなんですね!」
「ユノ様は大変無邪気で、とても可愛らしく……、とても良い子ですね」
「えっ? えと……、ユ、『ユノ』って呼んでください! さ、『様』なんて僕にはもったいないです!」
「……? では、ユノさんとお呼びしましょう」
「え、は、はい! あ、ありがとうございます、セリアさん……」
ユノは顔を真っ赤にして照れまくっている。
(何、この2人……。可愛さと美しさの最強コンビかよ)
俺は2人を見つめながら、諦めのため息を吐く。
おそらくもう、『そう』なっているんだろう。ユノと出会った時点で、もう『そう』なんだろう。
(ど、どうせ、もうなんとかしないといけない流れなんだろ? はいはい、わかってますとも……。だてに18年間『俺』を生きてないからな)
話を聞いて、「無理です」と逃げるのは簡単だが、『予言』はおそらくギフトの力。
『救世主』という事は俺が救った『未来』があるっていう事だ。めちゃくちゃ不安で、死ぬほどビビっているが、可愛い幼女からの信頼を裏切るわけには行かない。
「ぼ、僕はセリアちゃんって呼んでいいですか?」
「ええ、もちろんでございます。それに敬語は不要です。ユノさん」
「えへへ……。あ、ありがとう! セリアちゃんも敬語をやめてくれる?」
「……いえ、セリアはご主人様のメイドとして相応しくあるために、言葉は崩しませんので」
「そ、そっかぁ〜……。で、でもでも、僕達、友達になれるよね?」
「もちろんでございます」
「や、やったぁ〜!! ぼ、僕……『人間』の友達、初めてだよ!!」
安定の無表情に戻ったセリアと、見た目通りの無邪気なユノを見つめながら「ふっ」と小さく笑みをこぼす。
(仕方ないよな……)
俺は紳士として幼女の頼みを無碍にすることはできないし……、それにメイドからの信頼に応えるのは主人として当然の事なのだ。
顔は引き攣りっぱなしだが、覚悟は決まった。
それに、『予言』という保険もあるし、隠されているエルフの里はかなり魅力的だ。
(……上手く行けば、一生、働くこともせず、至れり尽せりな自堕落な生活が送れるかもしれないぞ!)
などと、内心では救世主にあるまじき事を考えてしまっている『下賤のクズ』とは俺の事だ。
セリアは急に振り向くと、小首を傾げる。
「ご主人様が求める『安住の地』が、本当に見つかったのかも知れませんね」
そこにはいつもの無表情のセリアがいた。
(……お、俺にも笑いかけろよ! ……ま、まぁセリアらしいがッ!)
心の中では悪態を吐きながらも、きっとセリアの頭には俺の願いを叶える事しかないのだろうな……などと思えば頬は自然と緩むものだ。
「……ご主人様?」
「……行くか? エルフの里」
「はい、どこまでもお供します。……里に着いたら、先程の『翼の生えたトカゲ』から守って頂いた感謝と、メイドにあるまじき行為をしてしまった謝罪も込めて、全身をマッサージ致しますので」
「……」
(ぜ、全身って……、『全身』?)
ゴクリと息を飲む俺にセリアはキョトンとする。
「……? 今日の下着は淡いピンク色ですよ?」
「バ、バカッ! べ、別にそんな事は聞いてないだろ!」
少し顔に熱を感じながら狼狽えていると、こちらの様子をジィーっと見つめているユノと目が合った。
(……!! こ、こんな子供の前で何言ってんだよ、このポンコツメイド!!)
一瞬で顔を引き攣らせる俺だが、ユノはニカッと屈託のない笑顔を浮かべた。
「あぁっ! なるほど! 『夜伽』ですね? 僕も奉仕しますよ、ギル様!」
「……」
「は、初めてなので、上手くできるかわかりませんが、満足して貰えるように頑張りますね、ギル様!」
「え、いや……。だ、大丈夫……だから……。べ、別にそんなんじゃないから……」
(……こ、この幼女、ギャ、ギャップがエグいって!!)
ユノは少し頬を染め、大きくてキラッキラのグリーンの瞳で俺を見つめて、眉を垂らした。
「あ、案内してくれるかな? エルフの里」
「……! は、はい! お任せ下さい! ギル様! 邪竜の襲撃はいつになるかわかりませんが、『いつか』必ずありますので、それまではゆっくりと里でお休みになって下さいね!」
「……そうなのか!? よ、よし! 早く行こう!」
「はい! こちらです!」
エルフは長寿。つまり時間の感覚が人間とは違う。
『いつか』という事は、つまり……、
(もしかしたら数十年はゆっくり過ごせるかもしれないという事だ!)
俺は淡い期待を胸にユノの小さな背を追った。
〜作者からの大切なお願い〜
「面白い!」
「次、どうなる?」
「更新頑張れ!」
少しでもそう思ってくれた読者の皆様。
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