野菜パニック
十文字翔太は困っていた。
目の前のサラダボウルに盛り付けられた色とりどりの野菜達を果たして食べても良いものか、非常に困っていた。
これまでの六年間、なんとなしに野菜達を食していたが、今になってよくよく考えてみれば、自分は気が付かない内に罪を犯してしまっていたのではないか。
それも大量虐殺の罪だ。
そう考えれば、肉や魚を食べることは、もっと重罪になるのではないか。
広漠とした大海原を自由に泳ぐ魚達は突如として、その生命を奪われ、雄大な草原を歩く豚や牛たちもある日突然凶弾に倒れる。
そして勿論野菜達も同様だ。
そのことをひとたび想像すれば、どうして自分は今まで食物を食べることが出来たのか、すっかり分からなくなってしまった。
では自分はこれから何を食べて生きていけばいいのか。
それともこれまでの罪を償うために餓死しなければならないのか。
そう思うとどうしようも無くなった彼は、自分の腕へと噛み付いた。