1.公爵家嫡男――ジーニアス、学園へ。
テンポよく行きましょー!
(*‘ω‘ *)
成長するにつれて、俺の記憶はより鮮明になる。
それに加えて、状況もだんだんと理解できるようになってきた。
「ジーニアス・アークレイト――俺は、王都のアークレイト公爵家の嫡男に、転生したってわけか」
周囲に誰もいないことを確認してから。
俺は、自分の置かれた状況を確認するようにそう呟いた。
貧困街でイジメられていた子供が、貴族の中の貴族、そこの子供に転生するなんて。まるで、どこかの物語の主人公のようだった。
思わず苦笑いしてしまうが、現実なのだから仕方ない。
そう考えてから、俺はふと自分の手のひらに意識を集中してみた。
すると――。
「これが、魔法……」
眩い輝きが、そこから放たれた。
これは一番単純な魔力の具現、その光。俺が生まれた時、周囲を取り囲んでいた大人たちはみんな、度肝を抜かれていた。
何故なら俺の魂にある潜在魔力の数値は、計測不能。すなわち、この身には――【∞】の魔力が秘められている、ということだったのだから。
「もっとも、貧困街では宝の持ち腐れだった、ってことだけど」
俺はそう口にして、思わず苦笑いをした。
あそこで生きていくには、力こそがすべてなのだ。いくら潜在魔力を秘めていようとも、貧相な身体をしていては生き残れない。その証拠に俺はあの時、一方的な暴力を受けて命を落としたのだ。
運がなかったといえば、そこまでなのかもしれない。
それでも、悔しいことには変わりなかった。
だから、今度こそはと思うのだ。
「この命はもう、あんな意味のない終わり方にしない……!」――と。
俺は、自分に誓ったのだ。
この新たな生涯では、必ずや意味を残すのだ、と。
「ジーニアス、そろそろ出るぞ?」
「……分かったよ。父さん」
そう決意を固めた時。
ふと、俺に声をかける人物があった。
長身痩躯の彼の名は、アンソン・アークレイト公爵――俺の父親だ。
「今日から、お前は公爵家の嫡男として王都立魔法学園に入学する。緊張はすると思うが、ジーニアスなら優れた成績を残せると、信じているぞ」
「もちろん。任せてよ」
廊下を歩きながら、そう語り掛ける父さん。
俺は一つ深呼吸をしてから、真っすぐに前を向くのだった。
◆
そして、馬車に乗って学園へと向かう。
到着するとすぐに、入学の式が執り行われた。
この王都――ガリアでは貴族や平民など関係なく、魔法の素質がある者ならば、王都立魔法学園に入学する権利が与えられる。
「――さて、と。式も終わったことだし、寮に移動するか」
そして、入学する生徒はみな寮に入ることが義務付けられていた。
もっとも貴族と平民は、分けられていたが……。
「俺の部屋は、東棟の――ん?」
そんなことを考えつつ、自分の部屋に向かっていた時だ。
「や、やめてくださいっ! ゆ、ゆるして!?」
「平民のくせに、その口の利き方はなんだ!」
「そうだぞ。お前のせいで、私の服が汚れたのだからな!」
「そ、そんな! アタシはただ、普通に歩いていただけなのに――」
「空気が汚れるのだ! 平民が私の横を歩いたのだからな!!」
なにやら、不穏な会話が聞こえてきたのは。
俺は気になって声のした方を覗いた。
すると、そこには――。
「ほら、そこの無礼な女! この私に跪け!!」
貴族であろう男子生徒たちが、平民と思しき女子生徒を足蹴にする姿だった。