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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第4章 七星祭編

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第81話 捕まえた

「はぁ~!! あの勇者、やってくれたわねぇ!!」


 クローバーはわしゃわしゃと頭をかきむしる。爆発にやられ、さらには海を泳いだためか、魔王が褒めてくれる艶やか髪でなくなっていた。絡まり、跳ねている。みっともない姿だった。


「奥様、大丈夫ですか?」

「大丈夫なわけがないじゃーん!! あの男、チェケラ族の次はサンセット族なんて頭おかしいのかしら!!」


 自分をサンセット族の島に送り込んだあの勇者を思い出し、クローバーは眉間に皺を寄せる。山脈のようだった。


 正直、あの種族を相手にして、五体満足で帰れるだけ良かったと思ってもいい。


 いくら魔族でもチェケラ族とサンセット族には触れてはならないという決まりがある。あの魔王ですら警戒している異常種族だ。


 たとえ、ロザレス王国を侵攻したとしても、あの2つの種族の里だけは、攻撃しない。


 彼らの中から勇者が1人しか生まれてこなくって良かったとクローバーですら思う。勇者全員がサンセット族orチェケラ族だったら、とうの昔に魔王軍は壊滅していた。


 そのぐらいあの種族は怖い。何とか逃げれて良かったとクローバーは安堵してはぁと息を吐く。


「ほーんと、あの勇者ムカつくわぁ……転移魔法もポンポン使って、おかしいよぉ。勇者でも若いから、そこまで力は持たないわよね……」

「熟練ならあり得ますが、彼は最後に発見された勇者だと聞いております」

「なら、絶対リコリスから力でも借りてるわ……元凶はやっぱりリコリスね」


 リコリスを倒せば、あのアルカイドの勇者も弱体化する。そもそも、リコリスのレベルが低いのは彼にレベルを譲渡しているからかもしれない。


 クローバーはリコリスの顔を思い出し、さらにその親族の顔も思い出してしまい、歯ぎしりをし始める。可愛い顔も台無しだった。


「ああ、リコリスを思い出すと、自然とあの眼鏡野郎も思い出すわ!! ほーんと殴りたくなるやつらなんだから!!」

「リコリス様の兄君の……」

「ええ、そうよ! 名前を言わないでちょうだい!! 名前を聞いただけでイライラするの!! ああ、殺してやりたい!! アイツ、いつも高みの見物で自分は前線に出てこないじゃない?! 戦っても、ほんの少しの時間だけじゃない!!」

「その兄君に奥様はやられていましたよね?」

「………リンデン。あなた、アタシの味方なの? 敵なの?」

「私はいつだって奥様の下僕ですよ」


 クローバーはかつての大戦を思い出す。それは人間対魔族ではなく、魔族対魔族の大戦争。クローバーの主人である魔王(兄)がこちらの世界に逃げることになった理由の大戦。


 そこでクローバーはリコリスにこてんぱんにやられた。それまでにあった矜持(プライド)をズタズタに傷つけられた。思い出しただけで腹底から怒りが湧いてくる。


 あの時のリコリスは完全にクローバーをなめていた。敵にもならないと呆れた目で見られた。あの赤の瞳は忘れられない。


 昔と今とではリコリスの様子は全く違う。ただの人形が生き生きとしていた。目を輝かせていた。


「ねぇ、リンデン」

「はい、奥様」

「リコリスの試合は次はいつなの?」


 何があったのかは知らない。

 ただ、かつての屈辱を晴らしてやるだけだ。




 ★★★★★★★★




 閑散とした夜の街を走る男。酸素が足りない。肺の奥が苦しい。立ち止まりたくって仕方がなかった。だが、足を止めればお終いだ。全てが終わる。


 一瞬だけでも時間が稼げたのならいい。あそこにたどり着けさえすればいい。そう考えた男は、雇っていた人間に足止めをするよう指示した。


 大金を払ったのだ。5分ぐらい稼いで欲しい。


 後から追いかけてきた少女、勇者カトリーナは来なくなる。奴らにはあの針を渡したのだから。

 

 任務としては失敗。どんな折檻を受けるか分からない。それでも生きていく。

 息を押し殺し、存在を消す。師匠にならった魔法だ。男は師匠のように巧みに使うことはできないが、使うこと自体が難しい。師匠ですら何年も鍛錬を行って使えるようになったという。


 とにかく時間が欲しい男。頼りない、だけど敵の意識を少しでも向けることができるダミーを屋根上へ置く。そして、屋根から飛び降りた男は目的の家へと入る。


 暗く埃っぽい廊下を歩いた先に、机と小さな棚しかない生活感が全くしない部屋があった。一つの窓から青白い月光が差し込んでいる。


 机の上には一輪のアザミの花。以前来た時と変わらず紫の花を咲かせていた。


 棚の中には散々使ってきた例のハンカチが数枚あった。このアザミの刺繍が入った絹のハンカチを、男たちは転移スクロールの代わりを果たしていた。


 失敗した時のため、ハンカチを失くした時のため、様々な状況に備えて予備をここに置くよう指示がされていた。


「ランドレガーレ」


 男の詠唱で、アザミの刺繍が光り出す。淡紫の光が男の身体を包んでいく。

 だが、突然何者かに後ろからぎゅっと抱きしめられた。


「やっーと捕まえた」


 男の目が見開く。男は振り向きたくなかった。その声を聞きたくなかった。


「全く見つけるのに苦労したんだぞ? カトリーナがいてくれたからよかったけど」


 男を背後から抱きしめる声の主の手は、つっーと肘から手へと触れていく。男はぞわっと鳥肌が立つ。声の主の手はハンカチを持つ手を掴んだ。


「やっぱりこれがスクロールだったわけだな」


 男は自身の気配を殺していたし、敵の気配も感じなかった。警戒を怠ったわけではない。家に入る前から周囲の確認は重点的に行った。


 なのに、なぜこの敵2人がいるのか?


 男に抱き着いてきた男子学生の脇には、あの勇者の少女。男子学生の服を掴み、額に汗をかき苦しそうに笑っていた。立っているのもままならないはずだ。男の師匠はそう言っていた。


 幻聴を引き起こさせる薬を縫った針だった。強めのものをお願いしていた。なのに、この女は笑って立っている。


 後ろをじろりと見る。そこには睨む赤い瞳があった。白い歯を見せ、邪悪に笑う顔があった。


 こいつは本当に勇者なのか、と疑いたくなるような顔だった。男は転移を中断し、最終手段であった魔法を使おうとした。


「おっと、自爆はさせないぞ」

「うん、させない」


 男子学生の言葉に、うんうんと頷く勇者の少女。男の考えは完全に読まれていた。


「ランドレガーレ……だっけな」

「そうだよ」


 男子学生の言葉に肯定するコクリと頷く少女。その瞬間、光が収まっていたアザミの刺繍がまた輝き始める。魔法を中断しようにも使えない。男の魔法は無効化されていた。


「じゃあ、俺らもお前のアジトに連れて行ってくれ」

「よろしくね」


 男子学生と勇者の少女は、悪魔のようにニコリを笑う。

 そうして、男は男子学生たちを振り払う暇もなく、抱きしめられたまま光の中へ包まれていった。

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