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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第4章 七星祭編

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第71話 顔面蹴り

 戦い始めたリコリスと魔王軍幹部クローバー・スノードロップ。観客席には、ようやく意識を取り戻した者が、悲鳴を上げながら逃げていた。


「ごめんな…俺が無茶を言ったから、お前のせいじゃない」


 この騒ぎはメミのせいではない。すぐに気づけなかった俺の落ち度でもあり、元はといえば突然やってきて攻撃を仕掛けてきたあの幹部が悪い。


 ならば、さっさと倒して“いつも通り”に戻さなければ。今は関わりたくないとか言っている場合ではない。


 メミやラクリアから離れ、壇上へと上がる。後ろから、とてとてとカトリーナもついてくる。


「お前は戦闘も行けるのか?」

「うん、人の攻撃を読むのは得意だから」

「そっか」


 カトリーナは勇者だ。裏での仕事が多いので前線は無理なのでは、と思ったのだが、戦闘もいけるらしい。魂の声が聞こえるので攻撃が読めるのだろう。彼女の回避が楽しみだ。


「おお…? これはこれは?」


 いつの間にか、クローバーの従者であろう男の前にたった1人の男子。

 その後ろ姿は勇ましく、魔王幹部相手であっても圧倒しそうな背中。普通の男よりも小さくはあるが、決して弱々しさはない。


 彼を見てるだけで「この人ならやってくれる」と期待してしまう。

 きっと彼は————。


「この競技場を汚すものは許さない」


 男子は腰にかけていた刀に手を添え、鋭い刃音を立てながら取り出し、両手に構える。刀先が銀に輝いていた。


「メラクの勇者イツキ・ニトベ————私が貴様の相手をしよう」

「ほう、勇者ですか」


 驚く様子もないおじ様執事は、感心の声を漏らす。


 ああ………彼がメラクの勇者さん。

 名前を勝手に使ったせいか、凄く気まずい。

 バレてはないと思うけど。


 メラクの勇者こと、イツキが持つのは一本の刀剣。綺麗に研がれている美しい刀だった。いつも使う剣とは違い、緩やかな弧を描いている。


 間違いない。あれは日本刀だ。日本というものが何か分かってはいないが、あの刀の名だけははっきりと分かる。


「アルカイドの勇者、貴方はあちらへ」


 イツキはちらりとリコリスたちの方へと視線を向ける。

 ここは俺に任せろということだろう。


「悪い、任せた」

「気にするな」


 おじ様執事をイツキ・ニトベに任せ、俺は雨のように降ってくる黒い光を避けながら、リコリスへと近づいていく。リコリスも逃げ回っているので、一瞬手を掴めそうになってもすぐに離れていく。


 まるで邪魔をするなと言っているようだ。無理に止めると、逆に暴れられるかもしれない………だが、こちらも放置するわけにもいかない。


 しかし、暴走気味なリコリスを変に刺激をすれば、リナの件の時のように正気でなくなるかもしれない。


「リコリス!目を覚ませっ!!」


 しかし、声は届かない。一瞬こちらを向いたが、リコリスの目に映っているのはただ一人————魔王軍幹部クローバーのみ。


 なら、先に幹部様をやるしかない。


 こんな人の多い場所で、覇気で逃げることもままらない人ばかりの場所で、戦う気には慣れなかった。


 ならば、どうするか?

 ぶっ飛ばす(・・・・・)しかない————。


 使用者が限られる高難易度魔法、転移魔法。飛距離が伸びれば伸びるほど、魔力消費が大きくなる。だが、今の俺にはどんな距離だろうと、どこまででも転移させられる魔力がある。


 リコリスとの戦いに夢中で、笑いながら宙を舞うクローバー。手から放たれる魔法は爆発からビーム―までハチャメチャな攻撃だった。闇の雨が壇上に降り注ぎ、地面を黒く染めていく。


 そんな汚れた地上を走り避けるリコリスは、集中しなければ追い付かない速さだ。一般の人には残像しか映っていないだろう。足に付与魔法をかけている。


 いつもはへんてこりんな動きか、ここぞという時に失敗しているかの残念な姿のリコリスしか見ていないが、今のリコリスはまるで別人だ。


 ちゃんと戦闘ができる人みたいに見える。幻だろうか。


 一方、羽を広げ舞うクローバーの動きは思った以上に素早くない。


 ネルはバキバキに壊れた地面を駆けあがり、蹴って、空へと飛ぶ。ネルお得意の光の槍(レイジャヴェロット)を放つ。


 白い光が闇の雨の中をかいくぐり、風を切り、そして、餓鬼女の頬をかすめた。白い頬に一筋の傷ができ、たらりと血が垂れていく。


「————は?」


 クローバーから困惑の声が漏れる。リコリスに集中していた彼女は、俺に見向きもしなかった。眼中に入っていなかった。


 そこに油断があった。


 光の槍(レイジャヴェロット)を放ち、すぐさま俺は転移魔法でクローバーの背後を取る。人差し指を伸ばし、トンと背中に————。


「アタシに触ろうだなんて、この勇者————」


 触れられなかった。音をも置いていく速さでクローバーは振り向く。闇を纏ったパンチが飛んでくる。遠距離魔法だけかと思ったが、近接もいけるらしい。


 だけど、反応できないわけじゃない。


(ネル、右に避けて)


 脳内で響く声。その声のいう通りに避けると、パンチの手は俺の横を通り過ぎていく。大きく振ったクローバーの正面はがら空きだ。俺は豪快にクローバーの顔を蹴り、くるりと宙返り。


「く、っ!!」


 クローバーは無様な声を漏らす。顔を思いっきり蹴ったので、鼻は真っ赤だ。トナカイさんだ。鼻血まで垂らしてる。


「こっ、のっォォ!!!! よくもアタシの可愛い顔に傷を!!!」


 クローバーは鼻血を手で拭うと、射るような鋭い目つきで俺を睨む。可愛い顔が台無しだ。


「さっきからちょこまかと動いてムカつくわ!!!!」


(次は左だよ、ネル)


 クローバーの動きを教えてくれる少女の声。声の主の手は、俺の肩に振れていた。


 カトリーナは俺について来ていた。俺がカトリーナを浮遊させ、カトリーナはクローバーたち敵の思考を読み取り、それを俺が感覚共有し、教えてもらう。


 いくら素早い相手でも、次の攻撃が読めれば何でもなくなる。ただ相手が体力を消費していくだけだ。


 俺が動くと同時に、カトリーナの動きも付随する。白銀の髪が弧を描き揺れる。近くで天使が待っている。


 クローバーは物理で戦いつつ、魔法を放ってくる。が、パンチや蹴りに意識を集中させているためか、魔法攻撃も合ってないようなものだった。


 簡単に避けることはできたが、回避してしまうと観客席に当たる可能性もあった。なので、同じ魔法を放って打ち消した。


 クローバーの意識は俺ではなく、リコリスにあった。二人を相手に頑張っていた。小さい癖によくやるもんだ。さすが魔王軍幹部とでもいうべきだろうか。


 クローバーにも限界があったのだろう、次第に隙を見せることも多くなり、そして、リコリスに攻撃しようとしたところで、俺は人差し指でクローバーの額に触れた。


「じゃあな、魔王の嫁さん。今日はチェケラ族に遊んでもらいな」


 おさらいだ。チェケラ族は複数魔法同時展開を得意とする種族だ。舞うように戦い、可憐に確実に敵の息の根を止めていく。


 相手は弄ばれているように思うこともある。とある者は、天女が天国に導くために舞を舞っていると思う。


 敵が空を飛んでいたところで大したことではない。魔王軍相手でも何度か蹴散らしたことのあるチェケラ族。魔王軍幹部一人がやってきた所で大したことはない。


 あの里の子どももきっと鼻で笑って、戦うだろう。現にラクリアは心配しているものの、怯えている様子はない。


 これが里では日常茶飯事だったのかな?


「チェケラ族!? ふざけん————」


 シュンと音が鳴ると、クローバーの姿は消えた。途中まで何か怒鳴り散らかしていたのが聞こえたが、もうどうだっていい。今頃はチェケラ族の里のど真ん中にいるだろう。


 俺はすぐさまおじ様執事とイツキ・ニトベの所へと降りる。ジグザグに進み、おじ様執事へと接近。

 そして、人差し指で触れようとした瞬間、おじ様執事は急に振り向き人差し指を伸ばして————俺とおじ様執事の指先が触れた。


 え、なんだこれ? このおじ様、何してんだ。


「奥様ァ!! 今、リンデンも参りまぁす!」


 おじ様執事もシュンと一瞬にして消える。クローバーと同じチェケラ族の里へと送ってやった。なんであのおじ様執事、自分から触ってきたんだ…………謎過ぎる。


 これでおしまいと言いたいところだが…………まだ禍々しいオーラを放つやつがいる。


「…………」


 後ろを振り向くと、鋭い赤い眼光と目が合う。リコリスはぎろりと睨んでいた。


「リコリス、目を覚ませ」

「…………」

「おい、俺の声聞こえてるか?」

「…………」


 さっきからリコリスは喋らなくなっていた。俺を敵と認識しているのか、いつでも戦えるように構えている正気を失っているのかもしれない。


 俺は冷静に、バキバキに壊れてしまった地面をゆっくり歩き、近づいていく。リコリスは腰をぐっと下げる。肩に力が入っている。まだ瞳も赤い。ギリギリと歯ぎしりをしている。


 バリバリ警戒されているな……。

 それでも俺は歩みを止めず、リコリスの前に立ち。


「いい加減に目を覚ま、せっ!!」


 そして、すかさずチョップ。リコリスの頭に綺麗な手刀が入った。


「ふぇ?」


 反撃してくると思いきや、リコリスは間抜けな声を出す。

 同時に電源が切れたのか、気力がゼロになったのか、その場にぱたりと倒れた。

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