第59話 泣くに決まってるだろ
変態幹部を倒した俺たちは、途中休憩を挟みながら、転移魔法で帰っていた。
一方、いつまでも帰ってこない俺を心配したメミは、ラクリアと捜索を開始。
先生にも事情を話し、知り合いにも協力をお願いしていたため、そのうち話が大きくなり、学園内では勇者が行方不明になったと大騒動になっていた。
だから、俺たちが学園についた時には。
「勇者が帰ってきたぞ!」
「なんだよ! その格好! 遊びに行っていただけかよ!」
「誘拐とかかと思ったのに!」
学園のみんなから、大ブーイングを受けた。
それもそう。
俺は着ぐるみパジャマで、リコリスはサンバの格好。
遊んでいたと思われてもおかしくない。
その大ブーイングの中から1人の少女が飛び出して、俺に抱き着いた。
「兄様、心配しましたよ!」
「メミ……」
抱き着かれて顔は見えないが、すすり泣く声が聞こえる。
「心配させてごめんな」
俺は優しくメミの頭を撫でた。
「私は……兄様がまたいなくなったと思いました」
「本当にごめん」
「こんなことはもう嫌なので、次からアスカさんに頼んで、兄様にGPSをつけます」
「それはやめてくれ」
「じゃあ、私が兄様とずっと一緒にいます」
「ずっとは無理だろう……」
「嫌です。ずっと一緒です」
ぎゅっとメミの抱きしめる力が強くなる。
昔のこともあるし、それほど心配で不安だったのだろう。
俺はそんなメミをなだめていると、ラクリアもこちらにやってきた。
彼女も心配だったようで、俺たちを見るなり安堵の表情を浮かべていた。
「結構心配したYO」
「ごめんな」
「まぁ、無事ならOKさー。それで君たちのその格好はなんだーい? ハロウィーンでも行っていたのかーい?」
「いや、服を奪われたから、変身魔法でこんな服になっているだけだ」
「そうなのー? リコリスさんの服、とってもいいYO!」
「え、そう?」
そうかな……?
「マジいいYO」
「ありがとう! ラクリア!」
リコリスはラクリアの誉め言葉を素直に受け取り、にひっと笑う。
「ねぇ、ラクリア聞いてちょうだい! 私たちね、魔王軍幹部を倒したの!」
リコリスがどデカイ声で言うと、帰ろうとしていた周囲の人たちがざわつく。
ラクリアも驚いて、サングラスをずらしていた。
「それは本当かーい?」
「ああ」
本当は公にしたくなかったんだが、どのみちあの人には言わないといけない。
あの人に言えば、確実に新聞に載せられるだろう。
「じゃあ、場所を変えて……保健室に行くか」
そうして、俺たちは保健室に向かい、ASETの総司令官フィー先生に今回の全てのことを話した。
「そうだったのね……」
「すみません、総司令。謝罪したところで私の罪は変わりませんが、本当にすみませんでした」
リナは深く頭を下げる。
そんな彼女に対し、フィー先生は何も言わず深刻な面持ちで考え込む。
長い時間考えて込んでいたが、リナは頭を下げたまま。
一時して、フィー先生が口を開いた。
「……そうね。あなたの処罰は後で話し合いましょう。でも、セスが無事でよかったわ。みんな、無事に帰ってきてくれてありがとう」
話を受けたフィー先生は、各部署に指示を出し、魔王軍と繋がっていた副会長はASETに連行。
目を覚まさないリナのお姉さんは、身体検査のため病院に行くことになった。
そうして、俺たちが学園に帰還した数日後、アスカが復帰した。
「本当にすまなかった」
研究室に向かうなり、リナはアスカに土下座をして謝った。
アスカが倒れたのはどうやらリナのせいだったらしい。
リナの思考を読み取り、ASETを裏切って魔王軍と繋がっていたこと、俺とリコリスを生贄にしてレベルを献上することを知ったアスカは、リナを魔道具の銃で殺そうとしたんだとか。
だが、リナはうまいこと避けて、アスカの頭を殴って失神させた。
正直、俺たちが双子先輩と戦っている間に、随分物騒なことがあったのかと俺は驚いた。
リナの謝罪を受けたアスカは俺とリコリスを見る。
なぜ俺たちを見ると言いたくなったが、すぐにリナの方に目線が戻ったので、黙って見守った。
「リナ、次からあんなことはしないで」
「ああ、しない」
「1人で抱え込まないで」
「ああ、抱え込まない」
「……あと、あたしも謝らないといけないわ。あんな状況だったとはいえ、あなたに銃を向けるべきではなかったわ。ごめんなさい」
「でも、私はお前を……」
「そうね。だから、おあいこ」
「……」
「ねぇ、リナ。顔を上げて、立って」
そう言われたリナはゆっくりと立ち上がる。
だが、まだ申し訳なさそうな顔をしていた。
そんな彼女に、アスカは右手を差し出す。そして、ニカッと笑った。
「どうか、これからも友人でいてもらえるかしら」
しかし、リナは手を取らない。
リナの目から、ぼたぼたと涙が溢れていた。
「え? 泣くの? リナって泣くの?」
「……な、泣くに決まってるだろ。私には友達なんていなかったんだぞ」
「え? いなかったのか?」
1人や2人いそうだなと思っていたんだが……意外だな。
柄にも合わず、子どものように泣きじゃくりながら、リナは話した。
「お前たちを関わるよう゛になって、正直楽しかっだっ。特にア゛スカとは意外と話が合ったがら゛、本当はこのまま友達でいる゛のも悪くないな゛ど思って゛っ……」
すると、アスカは差し出した手をぶんぶんと振る。
「じゃあ、握手!」
「う?」
「『う』じゃないわよ! 握手しましょ! 友達になった証として!」
だが、リナはアスカの手を取らなかった。
その代わりに抱き着いていた。
「ああ! あ゛りがとう、アスカ!」
「ちょ、あたし握手を求めたのに! 急に抱き着かないでよ! リナ! 苦しいわよ! リナ!」
「あ゛あぁ――ん」
「ちょっと! 顔をすりすりしないで! 鼻水ついちゃう! ネル! リナをどうにかして!」
「やだね」
「リ、リコリス!」
「やーよ」
「うぅ、メミ! お願い!」
「遠慮しておきます」
「な、なら、ラクリア!」
「熱い友情だYO~」
「も、も――!! 誰かこの子を離してよ!」
そんな風に怒って大声をあげるアスカ。
でも、彼女はまんざらでもないのか、嬉しそうに笑っていた。




