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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第3章 裏切りの少女編

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第50話 鏡

 俺は双子先輩とのバトルで、あまり勝つ気はない。

 だけど、手を抜くときっと先輩たちが怒る。

 絶対に怒って、「もう一回戦え!」とか言ってきそうなので、手は抜かない。

 でも、早く終わらせたい。だから、さっさと勝つ。


 早く勝つためには、早く攻撃をする。

 そう考えた俺は、開始と同時に光魔法を的に向かって放つ。


 光線は的へと真っすぐ伸び、1枚目の的はやれたと思った。


「好戦的でええな!」


 しかし、カイ先輩に焦る様子はなく。


「でも、甘いなぁ」


 笑みを浮かべていた。


「ミラーラリフィッシオーネ」


 カイ先輩が詠唱をした瞬間、彼らの的の前に鏡が出現。

 俺が放った光線はその鏡に当たり、跳ね返る。


 おい、マジか。

 瞬時に高度な鏡魔法使ってくるとか……って、ヤバい。

 こっちの的に返ってくる。

 

 俺は光魔法でシールドを作り、防御。

 的が壊されることはなかった。


 危ない……あっちの的をするために放ったのに、俺らの的が危なくなるとか。


 対策を練るため、俺は双子先輩の情報を思い出す。


 カイ先輩は炎魔法、ヨウ先輩は緑魔法を得意としているという、それぞれの特徴がある。

 でも、双子ということもあって、共通することもある。

 それは2人とも鏡魔法が得意であるという点。


 鏡魔法は、鏡の特徴からヒントを得て、生み出された光魔法の1つ。

 光魔法にも、攻撃を消すシールドがあるが、鏡魔法は完全に攻撃を跳ね返すという特徴を持つ。カウンターにはもってこいの魔法だ。


 その鏡魔法のほとんどは上級。使える人はそうそういない。


 鏡魔法で打ち返されるとなると、魔法攻撃で的を壊すよりも、直接自分でやった方が手っ取り早いかもしれない。


 ――――だが、その前に。


 俺は土魔法を応用し、的の前に岩の壁を作る。

 最近は、魔法制御がマシになってきている。

 だが、それでも校舎の3倍ほどある高さの壁ができた。


 これで防御はいいかな。


「おおぉ! あいつ、でかい壁を作りやがった!」

「あれは壁というより山だね」


 先輩が岩の壁を乗り越えようとしても、その途中でこちらが攻撃をする。

 もちろん、双子先輩が的に転移した場合のことも考えてある。

 ちゃんと罠を仕掛け、転移返しできるようにした。


 悪魔女リコリスはというと、俺が光魔法を放った時にはいなくなっていた。

 的を守る気がないのか、一直線にヨウ先輩の方へ走っている。


 リコリスは無詠唱で闇の玉を放つ。ポンポン、ポンポン、玉を出していた。


「へぇ……お姉さんの方は闇魔法なんだね」

「そうよ! 闇魔法ばっか使ってあげる! マリモ!」

「え? マリモ?」


 ヨウ先輩はリコリスに「マリモ」と呼ばれて驚いたのか、目を見開く。

 しかし、隙ができるというわけでもなく、リコリスの攻撃をさらりと避けていた。


「よそ見はあかんで! ネル!」


 そんな声とともに、炎の玉が飛んできた。

 下を見ると、カイ先輩が走って来ている。

 やはり跳ね返された。


 ――――なら、今のうちに的を壊せてもらおう。


 土魔法で的近くの地面から大きな手を作り出す。

 そして、振り上げ、的に向かって打ち込んだ。


「セブロッコ!」


 しかし、カイ先輩が土魔法を解除。叩こうとした瞬間に、土の手は崩れた。

 こっちに炎魔法を打ってきながら、解除するとか……さすが勇者だな。


 先輩が壁を上って来られても困るので、俺は飛び降りる。

 そして、先輩を腕で巻き込んで、地面にたたき落とそうとするが、振り切られた。


 風魔法を駆使して地面に着地した俺は、離れたところにいるカイ先輩と対面する。

 先輩もこちらの動きを窺っているようだ。


 …………うーん。どうしようか。

 遠距離からの攻撃もダメ、魔法攻撃をしようとしたら鏡魔法で返されるからダメ。

 幸い先輩たちが俺らの的に攻撃を仕掛けてきていない。


 これから仕掛けてくるかもしれないが。

 それなら、先輩を戦闘不能にさせた方がいいかもな。


「ほう? 格闘すんのか?」

「魔法は効かないと思いまして」

「なら、こいや」


 先輩も胸ポケットに杖をしまう。

 その間に俺は近づき、みぞおちを狙って拳を入れる。

 

 ――――当たったと思った。

 

 だが、先輩はうんともすんともしていなかった。

 大体俺の拳は先輩に当たっていなかった。


 杖をしまったと思われる先輩の手には、手のひらサイズの手鏡。


 俺の手はその鏡の()に入っていた。

 じゃあ、手に当たっているのはなんだ?


「う゛っ――」


 離れた場所から、聞こえてきたうめき声。

 それは相棒リコリスの声。


 見ると、ヨウ先輩も手鏡を持ち、そこから俺の手が出ていた。

 手はリコリスの腹を殴っていた。


 …………手鏡、魔道具だったのか。


 俺は即座に手を引っ込め、カイ先輩に蹴りを入れる。

 先輩の体制を崩せたが、先輩は側転しすぐに持ち直した。


「何すんのよ! マリモ!」

「僕は殴ってないよ。殴ったのはネルだよ」


 マリモ先輩がそう言うと、リコリスが睨んできた。

 ……いや、俺もリコリスを殴るつもりなかったし、カイ先輩が魔道具使ったせいだし。

 カイ先輩にジト目を送ると、先輩は肩をすくめた。


「魔道具はなしってルールはないやろ?」


 確かにそうだ。七星祭でも魔道具の使用は許可されている。

 なら、先輩たちが魔道具を使ってもおかしくない、か……。


 俺はカイ先輩から一旦距離を置き。


「モーメントスポースタ」


 罠に飛び込む覚悟で、転移魔法を使った。

 的近くに移動した。


「レベル4ケタとなると、転移魔法も使えるわな」


 とカイ先輩の余裕の声が聞こえてくるが、先輩がこちらに追いかけてくる気配はない。


 …………やはり罠を仕掛けているのか?


 しかし、罠とかはなく。


「え?」


 難なく的を壊せた。

 なんかめちゃくちゃ簡単だったけど、一つ目を壊せた……残りは1つ。


 もう1つの的の前には、リコリスとヨウ先輩。

 俺は攻撃を仕掛けてくると思い、カイ先輩を警戒する。

 しかし、彼は突っ立ったまま。しゃべりもしない。


 彼が今壊した方を守っていたんだろうが……先に壊されて起こったかな。


 だが、彼は笑みを浮かべ、誰もいないフィールド中央にしゃっーと杖を横に振る。

 そして、唱えた。


「ミラーシンクロノ!」


 その瞬間、バキッという音が後ろからした。

 俺らの的が割れた? 

 どうやって?

 

 ――――もしかして、鏡魔法か?


 また、カイ先輩は杖を斜めに振る。


「ミラーシン――」


 嫌な予感がした俺は、先輩の杖に向かって、風魔法を放つ。

 だが、勢いがあり過ぎて、杖だけじゃなく、カイ先輩までも吹き飛んだ。


 カイ先輩はもう動けなくした方がいいな。


 そう思った俺は、カイ先輩顔以外を氷漬けにした。

 それでも、氷がパキパキと割れそうになる。

 出てこれないように、土をかぶせ、さらに守りが必要なくなった岩の壁の一部を壊し、それを土の上に乗せた。


「うげっ――! 動けねぇ――!」


 という声がしたので、多分殺してない……うん、大丈夫だ。

 手が空くと、リコリスの方を見る。

 珍しいことに、リコリスはまだ倒れていなかった。


 蔓を避けるためか、ヨウ先輩から距離を置いている。どちらとも様子を窺っているようだった。


「ネル……あのオレンジは?」

「生き埋めにした」

「殺してないの?」

「殺すわけあるか」


 殺したら、バトルどころじゃない。殺人だ。しかも勇者殺し。


「へぇ、ネルなら相手を殺しかねないと思ったんだけど」

「制御はしてるさ……それよりも、リコリス。お前、的を壊せ」

「私が? まぁ別にいいけど……さっきの魔法を使われるんじゃない?」

「俺がヨウ先輩を止めるつもりだから、大丈夫」

「それなら、分かったわ」


 作戦を練りなおすと、俺とリコリスは同時に走り出す。

 俺たちが動き出すと、ヨウ先輩も。


「ヴィレーノソーンビーテ」


 と詠唱し、棘のある薔薇の蔓を伸ばしてきた。

 あの蔓、毒を付与してるな。

 俺は蔓に絡まないように炎魔法で燃やす。


「何これ!? 毒!? ちょっとピリピリするんだけど!」


 ついでに、早速蔓に捕まっているリコリスの蔓も燃やす。

 悪魔女に毒耐性はあるっぽいから、回復はしなくてもいいだろう。


 そうして、蔓を燃やしていくが、ヨウ先輩は蔓を伸ばし続ける。

 俺が杖を奪おうとしても、先輩は棘のない蔓で自分の体を巻きあげ、逃げていく。


 ――――もう鏡魔法は使わせたくない。


 俺は蔓を燃やして、燃やして、そして、風魔法で先輩の杖を奪った。

 よしっ。これで、高度な鏡魔法は使えないだろう。


 杖なしで鏡魔法を使えるんだったら、意味のない行動だが、先輩は逃げていたから大丈夫だろう。

 しかし、ヨウ先輩は諦める様子はなく。 


「カイ!」


 弟の名前を叫び、手鏡を出す。

 生き埋め状態のカイ先輩の方から、「おう!」という声が聞こえてきた。


「ミラーコネッテシィ!」


 ヨウ先輩がそう叫ぶと、鏡が光り出す。


「よっしゃっ! 出られる!」


 そんな声とともに、ヨウ先輩の手鏡から飛んで出てきたのは、俺が生き埋めしたカイ先輩。

 だが、カイ先輩の体は小さく、少年のよう。


 まさか、カイ先輩の鏡とヨウ先輩の鏡をつなげて、さらにカイ先輩は体を小さくして出てきたのか?

 そんなことすぐにできるか?


 少し高い声のカイ先輩が話しかけてきた。

 

「ネル……ごっつう驚いてるようやけど、俺らは転移魔法を使えんけどな、この鏡がある場所ならどこでも移動できるんや」

「危ない綱渡りですけどね」


 ここで2人復活するとか……ちょっとヤバくね?

 そんなことを思っていた矢先、カイ先輩はヨウ先輩の鏡を持って、リコリスの方に走り出した。

 一方、ヨウ先輩は杖がないながらも、蔓を作り出し、俺を拘束しようとする。


 まずい――――このままだと、カイ先輩がリコリスに追いつく。


「リコリス! 魔法で的を壊せ!」


 蔓から逃げながら叫ぶと、リコリスは頷き、闇の玉を放ってくれた。


「壊させんで! ミラーラリ――」


 それもさせない!

 俺は2人の下に穴を作った。

 それも深い深い、底が見えないような大穴。


「モーメントスポースタ!」


 そして、先ほど自分に使った魔法を2人に向かって唱え、双子先輩を穴の一番底に転移させた。


 …………これでもう大丈夫だろう。先輩たち、生きてるか分からないけど。


 先輩たちが転移させたのと同時に、バキッという音がした。


「壊した!」

 

 リコリスが叫ぶ。見ると、的はバキバキに壊れていた。

 俺がフィールドの端にいた審判に視線を送ると、彼女は優しい微笑みを浮かべ、うなづき。


「そこまで!」


 と終了の合図を出した。

 そうして、双子先輩のバトルが終わり、俺たちは勝った。

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