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第5話 赤の瞳

 表世界、ゼルコバ学園。こちらも同じく1年が経っていた。

 ネルの元クラスメイトたちは、みな無事進級し、2年生。


 行方不明になったネルの話は、彼らの耳に届いたものの、そこまで大きく話題になることもなく、1年たった今、ネルの行方を気にする者もいなくなった。

 ————ただ1人を除いて。


 義妹のメミは、厄介者の兄が消えて、安堵していたものの、胸のうちではモヤモヤを感じていた。

 (あの人が悪いんだもの………欲深いあの人が)

 そうして、1学期のテストを終え、夏休みに入る直前の日。


 クラスのリーダー的存在、ハンスからクラスメイトの何人かが呼び出された。その中には学年トップの成績であるメミもいた。

 教室にはメミを含める15人ほどのクラスメイトが集まっていた。


「お前ら、裏世界って知っているだろ?」


 呼び出したハンスはみんながいることを確認すると、話し始めた。

 彼の隣にいたメミは首を傾げる。

 

「知ってるけど………それがどうしたのよ」

「メミ、あっちに行ってみたいと思わないか?」

「え?」

「俺、裏世界の行き方を知っているんだよ。でも、1人じゃ無理なんだ。みんなも興味あるだろ、裏世界」

 

 ハンスはニヤリと笑う。

 他の人は、心配な顔を浮かべながらも、

 

「みんなで行ってみないか?」

 

 その週の週末。

 メミたちは、先生にはレベル上げと報告し、外出をしていた。

 ハンスについて行くと、連れてこられたのは、見知れたダンジョン。


 Lv.40代のハンスたちには、レベル上げにちょうどいい場所だった。

 (ハンスは隠しルートを行けば、巨大な魔石があると言っていたけど………本当にそんな隠しルート、存在するのかしら)


 メミは、隠しルートの存在に疑問を抱きながらも、先を行くハンスについて歩く。

 隠しルートに存在する巨大魔石はオラクルではなく、魔力を大量に封じ込んでいる魔石。

 Lv.40のハンスたちには、魔石オラクルを使っても、大量の魔力がいるということで、このダンジョンに来ていたのだ。

 ハンスについて、進んでいくと、緑に光輝く、巨大な石が現れた。


「本当にうまくいくの? ハンス」

「先生に怒られない?」

「失敗したらどうするのよ」


 いよいよってところで、クラスメイトたちは不安の声を上げる。ハンスは、みんなを安心させるかのように笑った。


「大丈夫だ。俺たちはエリート。さ、輪になって手を繋いでくれ」


 みんなはハンスに言われた通り、手をつなぐ。メミは片手を巨大魔石に、ハンスは右手に魔石オラクルを持った。

 ハンスの隣にいるメミは、もう一方の手を彼の肩に置いていた。


「みんな、行くぞ」


 オラクルが緑の光を放ち始める。

 そして、彼らは光の中に吸い込まれていった。




 ★★★★★★★★




「ここは………」

 

 メミが目を開けると、広がっていたのは見知らぬ地。空は赤く、異様な空気が鼻から入ってくる。 

 強い風も吹き、彼女の紺色髪を大きく荒らしていた。

 メミの頭の中は、混乱状態。それも当然、自分の体を起き上がらせることができなかった。


 (な、なんで起き上がれないの………重力はたったの1.3倍増えただけなのに)

 彼女は、暴れる長い髪をなんとか振り払う。そして、這いつくばったまま、なんとか周囲を見渡した。

 メミの近くにいたのは、先ほどまで一緒に居たクラスメイトたち。でも、彼らも立っていない。自分と同じようにみんな地面に這いつくばっていた。


 立てない彼らは決してめちゃくちゃ弱いというわけではない。これでも、国のエリート。学園ではトップの成績を誇る者たちだ。体力もそれなりにある。


 だが、その話が通用するのは、表世界だけ。


 絶望的な状態で、絶望がまたさらにやってきた。

 ————黒のドラゴン。

 そのドラゴンは、表世界にいるドラゴンたちとは比にもならない、とてつもないオーラを放っていた。

 赤い目をぎろりと向けるそいつは、へばっている人間に狙いを定め、よだれを垂らす。

 メミたちの前には、絶望が見えていた。


 (ドラゴンを倒さないと、襲われる、殺されるわ。でも、こんな状態では無理………)

 そんな状況下の中、

 彼らの前に人が1人、現れた。


 黒髪の少年。とんでもないオーラを放つ少年。

 ドラゴンは、彼の存在に圧倒され、後ろへ下がっていく。

 その背中には見覚えがあった。


「お、落ちこぼれ………なんでお前」


 その人物を見て、小さく呟くハンス。彼がいつも丁寧にセットしているブロンドの髪はぐちゃぐちゃ。だが、直しているどころではなかった。

 なんせ、自分のいじめだった相手が、悠々と立っているのだから。

 しょぼい魔法しかできなかったやつが立っているのだから。


「なんでって………ここ、俺の庭みたいなもんだから」


 彼は、背中を向けたまま答える。

 彼は以前とは違う雰囲気を醸し出していた。黒いような………重たいようなオーラを。


 そんな彼は、光魔法を放ち、軽々と倒す。クラスメイトたちは、いつもの姿を違い過ぎる彼に動揺せざるを得なかった。

 長い付き合いのメミでさえ、彼のこんな姿は今までに見たことがない。

 

「ネル………あなたは一体?」


 彼女は、クラスメイトを守る彼の名前を呼ぶ。声に反応して、メミの方に向いた。

 その目は空と同じ赤色。

 彼の赤い瞳に、メミはギョッとし、肩を震わせる。


 彼はネル・V・モナー。

 1年前は、緑の瞳を持つ、学園の落ちこぼれ生徒だった。

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