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はめられて強制退学をくらった俺 ~迷い込んだ(地獄の)裏世界で魔物を倒しまくったら、表世界で最強魔導士になっていました~  作者: せんぽー
第2章 兄妹編

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第29話 ASET ZERO

 お兄様はずっと本当の力を隠していた。

 お兄様のレベルは退学になる前から高かった。

 なのにお兄様はずっとレベル12のふりをしていた。

 それは私だけが知っていたこと。

 

 これは事件が起きる前の話。

 初等部にいた頃の私、メミ・C・モナーはよく王立図書館に通っていた。成績優秀なお兄様に憧れ、そのお兄様に追いつくため図書館で1人勉強をしていた。図書館は思っていたよりもずっと静かで、集中がしやすく、すぐに私のお気に入りの場所となっていた。

 

 そうして、図書館に通い始めて3ヶ月経った頃だっただろうか? 彼女に出会った。

 私が机の上で本を広げ読んでいると、彼女から声を掛けてきたのだ。見上げると、そこにいたのは白銀の髪を持つ女性。


「ゼルコバ学園の生徒さんですか?」

「…………はい、そうですが」


 恐る恐る答えると彼女はフフフと笑みをこぼす。

 一体何の用だろう? 本を探しているのなら司書さんに声を掛けてもらいたいところだけど。


「私はよくここに足を運ぶのですが、ここずっとあなたをお見掛けするので思わず声を掛けてしまいました」

「そうですか」

「ご熱心に勉強されていますね」

「…………そうですかね」


 彼女はお兄様たちと同じエメラルドグリーンの瞳を持っていた。

 その日は彼女とちょっとした会話を交わしただけだったが、次の日も彼女に声を掛けられた。


「そういえば、名乗るのを忘れていましたね。私はベルティア。あなたのお名前は?」

「…………メミ、メミ・C・モナーです」


「モナー家の方だったのですか。メミ様、今までのご無礼大変失礼いたしました」

「いえ、お構いなく。メミで構いません」


 それから私たちは連日会うようになり、そのうち私はベルティアさんから勉強を教えてもらうようになっていた。


 毎日図書館に運んでいるベルティアさんはきっとご隠居された魔導士の方。外見は20代に見えるけど、話している様子はまるで70代のおばあちゃん。

 これでもしベルティアさんが20代だったら失礼だけど。


 そして、その日も私は図書館へと足を運び、ベルティアさんとともに読書、勉強をしていた。


「ベルティアさん、何の本を読んでいるのですか?」

「これ? これはね、レベルについて書かれている本だよ」

 

 ベルティアさんは自分が見ていたページを私に見せてくる。


「メミちゃん、ここ見て。面白いものが書いてある」


 その時知った。

 レベルを奪うことができる魔法があること。

 その魔法の難易度が異常に高いこと、少ない魔力で展開できること。






 その魔法「レベル剥奪魔法(レベルシッパーレ)」はレベルを奪われた人間を殺すこと。

 





 あの事件が起きさえしなければ、その魔法は私に無関係なものだった。

 でも、事件は起きた。

 みんなは他の人たちのせいと考えていたようだけど、私は事件に関して別の結論を出していた。


 お兄様はあの魔法で私たちの大切な人を殺した、という結論を。


 そして、お兄様に復讐を誓った私は、今日本気を出したお兄様に負けた。

 鼻に入る土の臭い。地面に這いつくばっての敗北は初めてだった。

 

「お、おにいさま…………」


 手を伸ばすが、彼の背中が遠くなっていく。

 あなたは言った、私が兄妹の仲を壊したのだと。


 そうなのかもしれない…………いやそうなのだろう。私はお兄様との関係を破壊した。


 でも、あなたも私たち3人の仲を壊した。

 それは事実だ。




 ★★★★★★★★




 メミと勝負をした次の日。

 俺はクラスメイトたちから声を掛けられる…………ことはなかった。

 以前より増して不気味なものを見るかのような視線を終日向けられた、今日はそんな一日。彼らの視線はまるで怪物を見るかのような目だった。


 もちろん大勢の人たちが集まって変に日常を壊されることは嫌だったが、全員に避けられるというのも嫌だった。

 ああ。これでは一時、俺には男友達なんてできやしないんだろうな。


 一方、俺がボコボコにしたメミはというと。

 俺が強制退学について学園側に言っていなかったので、彼女が退学することはなかった。もちろん、生徒会も抜けることも。


 あの会長の耳に昨日のことが入っていないことはないので、生徒会から降りる可能性は十分考えられたんだが。


 ていうか、先生たち俺たちの行動に興味なさすぎじゃね? 昨日のこと知っているのなら、メミに少しは罰を与えてもいいんじゃね?

 被害を被った俺が何も言わないから動かないんだろうけどさ。


 でも、なぜか俺はチクる気になれなかった。

 心のどこかでそれを止める自分がいた。


 ボコボコにしたメミは1人静かに過ごすようになっていた。メミの後ろにいることが多かったハンスは多少関わっているようだが、ずいぶんと2人で一緒にいるところは減った。


 そりゃあ、メミは身内を貶めたんだから、自分の身を守りたくて誰も近づかないだろうな。

 そんなことを思いつつ、多くの視線にやられ変な疲れがたまった体を動かし、寮へと向かう。


「なんでお前がいるんだよ…」


 無人なはずの自室に戻ると、そこには黒髪赤メッシュの悪魔女。のんきに俺のベッドの上でゴロゴロしてやがる。


「うーん、暇だから?」

「どこから入ってきたんだよ、ったく」


 帰ってすぐに寝ようと思っていたのだが。

 俺は仕方なく勉強机の方の椅子に座る。


「それで何の用だ? 何もないのならとっとと帰ってもらうぞ。寮監が来たら厄介だからな」

 

 一刻も早くベッドで寝っ転がりたい。

 

「単刀直入に言うわ。あんた、私に隠し事をしているでしょう」

「…………俺だって隠し事の1つや2つあるさ。そういうお前も隠し事をしているだろ?」


 リコリスは分かりやすく目を逸らす。本当に分かりやすい。


「なら、お互い様だ」

「私が秘密を言ったら、言ってくれるのね?」

「そんなこと誰も言ってない」


 俺の意見をスルーし、リコリスは勝手に話し始める。

 悪魔女の秘密なんぞ、ろくなことがないから聞きたくないんだが。

 しかし、悪魔女は自分の秘密ではなく、別のことを話し始めた。


「私ね、今日保健室の先生から聞いたの…………ネルは凄い人の子どもだって」

「そりゃあな。俺の義父(親父)はすごいぞ。王国の騎士団副団長でモナー伯爵だからな」


 リコリスの赤い瞳がギラリと光り、


「私が言っているのはその父親(・・・・)じゃない」


 はっきりとそう言った。

 リコリスの言葉に俺は思わず立ち上がる。


「…………おい、それ誰に聞いたんだ」 

「保健室の先生って言ったじゃない。2度も言わせないでよ」


 あのことを知っているのは俺を含め、ごく数人。この学園の生徒や先生が知るはずもない事だ。かといって知っている人間が保健室の先生なんかやっているはずがない。

 

 しかし、俺は1人だけ保健室の先生なんかをやっていそうな人物が浮かんだ。

 まさかあの人がこの学園の保健室の先生? 

 アハハ…………ありえない。


「よし、今から保健室の先生に会いに行くぞ」

「今から?」

「今からはダメなのか?」

「…………別に私は暇だからいいけど、先生はきっと帰ったわよ。あの先生、何も用事がなければ定時には絶対帰るからね。今日は特に会議もなかったはずよ」


 もし、あの人がここにいて、尚且つリコリスたちと話していたら……あぁ、嫌な予感がする。


 次の日。

 保健室の先生が予想の通りの人物か確かめたくて仕方なかった俺は、リコリスとともに保健室に来ていた。

 悪魔女が扉を開けると、


「リコリスさん、今日も来てくれたのねー」

「今日は1人じゃないの、ほら」

「はぁ……やっぱあんただったか」


 保健室にいたのはお下げヘアーの女。カジュアルな服をまとう彼女は書類整理に追われているようだった。


「やっほー。久しぶりだね、ネルくん」


 やっほーと気の抜けたような挨拶をしたこの女。こいつはこの国、ロザレス王国の第1王女ステファニー。

 今の姿は変装しているせいか王族らしさを全く感じられないものの、俺はステファニーであることはすぐに分かった。


「あんたが『やっほー』とかこの国どうなっているのやら……」

「何を言ってるのー。私はただの保健室の先生だよ」

ただの(・・・)? あんたは正体を隠した名門校の保健室の先生じゃないのか?」


 なんでこの王女と俺が知り合いかっていうと、色々あったんだが、簡単に言えばかなり前に滅多に出ない社交界の場に出てしまい、この人と出会ってしまった。


 当時の俺は王女様と関わる気なんてさらさらなかったのだが、彼女があまりもしつこく構ってくるから仕方なく交流をするようになった。

 ……まぁ、表の場ではないがな。


「ネル、フィー先生と知りあいだったんだ」

「まぁな……ここではフィーって名前なんだな。お久しぶりです、フィーせんせー?」

「リコリスさん、来てもらってすぐで悪いんだけれど、2人で話したいことがあるから、少し部屋を出ていてもらえるかな?」

「大丈夫だよ、フィー先生。先生、ネルに襲われないようにね」


 そう言ってリコリスは大人しく部屋を出ていく。

 リコリス(アイツ)いっつも一言多いんだが。

 

 一旦リコリスのことは忘れ、俺は彼女の方に向き合った。聞かなければいけないことが山ほどある。


「それで…………なんで総司令官のあんたがこんなところにいるんだよ? 『ASET』はいいのか? ていうか、なんでやたらとリコリスに構うんだ」

 

 そう問うと、ステファニーは楽し気に笑った。

 

「リコリスさんが『ASET』に入ってくれたら、ネルくんも入ってくれるんじゃないなーって思ってさ」


 それだけのためにここに来たのか……スカウトなんて王女様直々にすることじゃないだろう。

 突飛もない行動に、俺はステファニーに呆れた目を送る。


「それでリコリスに接触したのかよ…………どうしても俺を入れたいんだな」

「以前私が言ったよね? 『ASET』に入る気はないかって」

「言った…………だが、俺は断った」

 


 『ASET』——それは国内外で活動しているこの国の王専属のスパイ集団である。

 この『ASET』の中でも国内で活動するのが『ASET ZERO』、一方国外で活動を行うのが『ASET EIGHT』。

 そして、この目の前にいる人物こそが『ASET』をまとめる総司令官。


「そうだね、君はNOと答えた。まぁ、あの時の君はレベルがかなり低かったし、私は見送ったのだけどさ。でも、今のネルはレベル高くなって王国でも屈指の魔導士だ」

「やったぜ」


 俺が冗談でガッツポーズを決めると、ステファニーは、ぴしゃりと否定する。


「『やったぜ』じゃないよ。君の存在が世間に知られれば君が望んでいた平穏が手に入らなくなる可能性があるんだよ?」

 

 そんなこと分かってる。


「今の君は正直戦争の火種になりかねない…………だから、私はもう1度言うよ」

 

 ステファニーは真っすぐこちらを見る。彼女の目は真剣そのものだった。


「ネルくん、今からでも遅くない。『ASET ZERO』に入らない?」

「遠慮する。入ったとしても俺の平穏はなくなってしまうからな」

「…………相変わらず即答だね。まぁ、いいや。予想はできていたし。とりあえず、その話はまた今度ということで」

「また今度なんて俺にはないぞ」


 しかし、ステファニーは俺の意見を無視。コイツ、また『ASET』に誘ってくる気だ。全く、勘弁してくれよ。

 彼女は別の話がまだあるのか、話を続ける。


「今や君はフォーセブンのオッカム様を超えるレベル」

「そうだな。幸い世間には広まっていないがな」


 意外にも俺が適当に言った一言に彼女は怪訝な顔を浮かべた。


「そう、そうなの…………どういうわけか、君が史上最高のレベルに達していることが世間に知られていない。陛下にそのことを報告したけど、何もおっしゃらなかった」

 

 確かに…………メミの件でいっぱいになっていて放棄していたが、俺はもっと世間が騒いでもおかしくないと以前から思っていた。


 ゼルコバ学園には寮こそあるものの、生徒と外部との接触を断たせるような規則・制度はない。俺のレベルの話は容易に外に流すことはできるのだ。


 国外は知らないが、少なくとも俺のレベルは国内で歴史上最高のレベル。自分で言うのもなんだが、新聞の一面を飾ってもいい話だろう。

 

「確かに随分とおかしな話だな」

「そうでしょう? それは今調査中。もしネルくんが分かったら、私に教えて」

「はいはい」

「あ。あと、これはネルくんに言っておかないと」

「?」

 

 ステファニーは満面の笑みを向ける。

 …………なんか『ASET』の話の時以上に嫌な予感がするぞ。


「最近北部のエーサー学園にアリオトの勇者が見つかったんだ。そんでもって、国中の貴族たちは発見されていない最後の七星の勇者アルカイドを、自分の手元に置こうと必死に探してる。言っている意味分かるよね?」

「…………やだな」


 ああ、神様。

 なんで俺を平穏ルートに通らせてくれないんだ。

 俺はリコリスたちとそこそこスリルのある平穏な学校生活を送って、地方の自治体の魔法課に就職して…………そんな人生を俺は送りたいだけなのに。

 なんでそんな将来が消えそうなことばかり起こるんだよ、ほんとにもう。


 俺はステファニーがくれた情報にため息をつくしかなかった。

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