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彷徨

 もう勇者一行の一人ではなく、彼らの活動拠点である王都には死んでも戻りたくなかった。

 だから死の危険があると知りながら、魔王軍を横切って帝国へ渡ろうと思った。


 捨てられたお手製武具の性能を証明するとでもいうように、手甲を装着し、剣と杖を持って森を進んだ。

 鋭敏な感覚を持つ魔物から身を隠すのは困難で、呆気なく警邏中であろう鳥型の魔物に見つかった。

 程なく、低く不快な叫び声と共に、茂みから小鬼(ゴブリン)豚鬼(オーク)が姿を現す。


 如何に戦闘職ですらないといっても、仮にも勇者パーティーとされる者達に同行していた身であり、この程度の魔物であれば一人でも問題はなかった。

 それは魔物にしても同じ心境のようだった。

 ましてや多勢に無勢。

 下卑た笑みを浮かべながら、先頭のオーク一匹とゴブリン二匹が侮る様子で近づいてくる。


 その様を好機と判断し、ステップを一つ踏んで間合いに入り、格下と侮り反応すら見せない間抜け三体の胴をまとめて横に両断する。

 剣は何の抵抗もなく肉を裂いてみせた。


 そのミーヤに贈ったものだった剣は、蟷螂型の魔物の腕を加工した両刃の刀。

 魔物から作られた剣ということで彼女はこれを嫌っていた。

 報奨金が入ることでこれ以上のものが手に入れる算段が立ったのだろう。

 それは自身の存在意義を否定されたようで、その鬱憤を晴らすかのように、目に付いた魔物を片端から斬る。


 そうする内、道を譲るように魔物が左右に割れたかと思うと、筋肉の鎧を纏い頭部に角を生やした巨漢が現れた。

 その手には、大人の背丈に迫らんばかりの刀身の剣を携えている。

 武具を備え、武術の真似事をする鬼人(オーガ)

 オーガソルジャーと呼ばれるそれは、しかし勇者にとっては造作の無い相手だったと記憶している。


 オーガがおもむろに剣を振り上げ、下ろす。

 その衝撃は凡そ人が止められるものではなく、しかし、その斬撃を受け、そして流す。

 驚きととれる表情のオーガに向かい、次はこちらの番とばかりに地を蹴り攻め入る。

 気を持ち直したオーガは迫る刃を余裕の所作で迎撃し、しかし徐々に対応しきれなくなっていくことに焦りだす。

 完全に対応できなくなったところで、オーガの首は呆気なく空を舞った。


 レメドであれば初撃で仕留めていたのだろうかと思い、そんな余計な考えを頭の隅に追いやった。


 戦闘職でなければ武術を極めることは難しいとされていた。

 極める、ということがどのレベルを指すのかは不明だが、膂力の勝る魔物を相手にするなら非戦闘職で戦場に出るのは無謀。

 それが一般常識。


 だから剣技でオーガソルジャーを圧倒したのは自身の技術ではなくカラクリがある。

 前腕を覆う手甲。

 レメドが手放したがっていたその黒い手甲は、デュラハンのものだった腕を魔物鍛冶師の技術で加工したもの。

 手甲を付けると、不思議と装備者が剣を手足のように振るえるようになった。

 レメドが未熟な頃は文句も言わずに使っていたが、自身の腕が上がるにつれ、操られているようで気持ちが悪いと不満を口にするようになっていた。

 それ以上に、勇者のイメージに黒は相応しくないとも。

 気持ちを理解できなくもないが、製作者としては悔しい。

 何より、あの男が捨てたということが悔しかった。


 オーガソルジャーが倒されたことで、残った魔物は散り散りに逃げ出す。

 逃げたゴブリンどもがどこぞで人を襲う惧れも高く、させじと逃げる群れに向かって魔杖を向ける。

 干乾びた腕が黒い玉を掴んでいる、エレノアが持っていたものだ。


『魔術』というものは、当然剣などよりもさらに才能が重視された。

 戦闘面で何か力になることはできないかと思い書物を漁り、しかし苦労して習得できたのは最も初歩とされる『ファイアボール』のみだった。

 それはファイアボールとして見てもお粗末なもので、野営の時に火熾しぐらいには使えるという評価のものにしかならなかった。


「ファイアボール」


 杖の先端から発生した魔術は人一人を飲み込めるほどの大きさのもの。

 それが魔物の群れに向かって飛び、着弾したかと思うと爆発する。

 結果を見届け、他の方向に逃げたゴブリンにもファイアボールを放つ。

 何発かを打ち込み、見える範囲の殲滅が完了する。

 多くを逃したとは思うが、個人でできることはやったと納得することにする。


 この魔杖は魔力を増幅し撃ち出すことができる。

 それがエレノアの行使する魔術の威力に一役買っていると思っていた。

 それが呆気なく手放され、自身の思い上がりがより一層惨めでならなかった。


 物を作ることしかできず、それを必死に頑張ったつもりだったが、あまりにも呆気なく切り捨てられた。


 動くもののいなくなった場所で感覚だけを頼りに、思い出したように歩みを進める。

 帝国を目指していたが、魔物鍛冶師が不要と痛感した今、どこへ向かえばいいのか分からなくなっていた。

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