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さよならに憎悪を込めて

初めて!

「コウタロー、悪いがキミはここまでだ」


 魔王軍四天王の一人を下したその場で、勇者の称号を持つ男レメドは言った。

 戦士のミーヤも、魔術師のエレノアも、賢者の伽耶(かや)も、その場にいる誰一人として異を唱える者はいない。

 四人の視線に曝され、心が熱を失っていくように感じた。


「……分かった」


 それだけ言うのが精一杯だった。

 これは誰かの所為とかではなく、自身の身の丈を超えようと足掻いた愚か者の末路だと思った。


 訳も分からず召喚され、『魔物鍛冶師』などという『職』を天より押し付けられ、そして彼らと旅に出たのが最初。

 初めの頃は資金繰りも厳しく、魔物の部位から武器を生み出すという魔物鍛冶師は有難がられた。

 だが金に余裕が生まれるにつれ、戦闘職でないことを疎まれだした。

 各々が剣技、魔術を駆使して戦う中、一人だけ技もなく無様に剣を振り回した。

 そんなことはお構いなしに、一行は着実に功績を増やしていった。

 未踏破遺跡の攻略。

 魔王軍に奪われていた領土の奪還。

 気づけばパーティーリーダーのレメドは、国から勇者の称号を与えられるほどになっていた。

 そして遂に、人類の誰も成しえなかった魔王軍四天王の一角を崩すまでになった。

 将を失った魔王軍の攻撃は苛烈になり、ここからの戦いはさらに厳しいものとなるだろう。

 足手まといはここまで。

 互いにとって、これが最善の選択というだけの話。


「これで莫大な報奨金が出るわね。ようやくこの薄気味悪い杖を捨てられるわ」


 朽ちた腕が黒い玉を掴んでいるような形の杖をかざしながらエレノアが言った。

 それはリッチの腕だという眉唾なものを買い、手ずから作った魔杖。

 彼女のために作った。

 あんまりな言いようだった。


「…だったら返せ」


 だから、肩身の狭い身でありながら素直な言葉が出た。

 そこからは売り言葉に買い言葉の様相となり、子ども染みた罵り合いになった。

 レメドの手甲とミーヤが使う刀も魔物鍛冶師の技能で作り贈った物だったが、未練も愛着もないようで、捨てて寄越してきた。

 残るは伽耶。

 彼女に視線をやれば、自然と顔を逸らされる。


 彼女は共に召喚された幼馴染だ。

 親同士の仲が良く、一緒にいることが多かった。

 だけど、ただ家が近かっただけのそんな関係。

 今さらになってそんな程度の関係だったんだと理解した。


「カヤ。さっさと渡してしまえ」

「鋼太郎には道具を作ってもらって後ろから支えてもらうって話だったじゃん……こんなんじゃ…!」


 彼女にも話は通っていたようだった。

 自分だけが蚊帳の外だったわけだが驚きはなかった。

 彼女はとうの昔に決めている。

 どちらを選ぶのが利口か。


「いいから」


 レメドの言葉に伽耶はおずおずと杖を渡してくる。

 天使の羽と悪魔の羽が紅玉を包んでいるようなデザインの杖。

 記憶の中の彼女は杖を悪趣味だと言い、だけどはにかみながら受け取っていた。

 今は思い出にあるその笑顔が醜悪なものに思えた。


 悔しくて、指輪や腕輪など、贈った全ての物を取り返した。

 その行為は情けなく、これ以上ないくらいに惨めだった。


「…気は済んだか?」

「……ああ」


 俯き立ち尽くす男を横目に、ミーヤとエレノアは城の一室を後にしていく。


「鋼太郎……」

「行くぞカヤ」


 四天王の武具と首を持ったレメドが伽耶の肩を抱き入口へ向かう。


「鋼太郎!いつか一緒に元の世界に―――」

「さよなら伽耶。二度と―――」


 レメドと伽耶の並び行く後ろ姿が、二人が恋仲だという噂通りの未来を連想させるようで。

 だから、彼女の記憶に消えない爪痕になればいいと心で嗤いながら。


「二度と会わないことを、心から祈るよ」


 子ども染みた濁った感情を吐き出した。

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