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始まりの街 06

クリスは思う。

確かに、今までの人生で疑問に思う事は多々あった。何故私にだけ声が聞こえるのか、何故知らない事、この世界に無い物を知っているのか。その答えが先ほどの夢の中にあったのだ。

胸に手を当てて考える。

私が生まれ変わりだとしたら、私は何者なのか。私はクリスなのか、それともあのメガネ女なのか。

おもむろにベットから降りると、静かに部屋を後にする。周りで寝ている他の子供達を起こさないよう、足音に気をつけて。


共用の洗面所で、鏡を見る。本当は顔を洗いたいところだが、まだ井戸の水を汲んできていないため水桶は空だった。


薄い茶色い髪に金に近い茶色い瞳、切れ長の目に薄い唇。夢の中のあのメガネ女にそっくりな顔立ちだった。ただ、メガネ女は黒髪黒目だったことを考えるとクリスは全体的に色が薄いようだ。肌の色だって、メガネ女は象牙色だったが、クリスは新雪のように白い肌だった。


「出涸らしのお茶みたい。」


メガネ女の2回目の人生、私は2回目だから、色が薄いのかなという皮肉紛いの思いを込めてそう呟く。心がかすかにチクリと痛む。


「ねぇ」


胸に手を当て、自分へ問いかける。


「ねぇってば。」


返事はない。


「・・・ねぇ、”ござる”。」


「ござるじゃない。」


ようやく、声が不機嫌そうに答えた。


「ござるでしょ?」


「もうござるは卒業した。」


苦虫を噛み潰したような、苦しげな返答だった。


「あの時の自分を殴ってやりたい。もうござるなんて言わない。

 私は未来(みらい)だ。」


クリスは戸惑いながらも、声の主「未来」との疎通に成功した。



未来はクリスの疑問に答えてくれた。

今のクリスはクリスであって、おそらく未来ではないこと。クリスの魂に、未来が間借りしている状況に近いと言っていた。

だから安心してクリスとして生きろと言ってくれた。

魔法については、クリスはとんでもない魔力と魔法の才能を持っているとのことだった。それは夢に見た女神様の”プレゼント”と言うものらしい。

未来としては、王城の魔術師として名を馳せることを望んでいるらしいが、クリスにその気がない、と言うか魔力を持っている事を知ったのが今なので、何とも想像出来ないから、この件は保留にしておくことにした。


「くりすうぅぅぅ!

 後生だから、後生だから!!一発ぐらい高位魔法放とうよぉぉぉぉ!!」


と煩くしていたが、その一発でクリスの人生が大きく変わる事を考えるとこの願いは聞けそうもない。

要所要所で鬱陶しいぐらいに煩い未来だが、悪い人間ではないらしいということがクリスには分かった。


何をするにもクリスは自由だし、クリスの意思はクリスのものだと言う事が知れたのは良かった。新たは悩み、未来との付き合い方などが生まれたが、先ほどまで悩んでいた事は解決したのでクリスとしてはすっきりした気分になった。


「ところで、転生ってこう、人と魂を共有する事なの?」


クリスは未来に疑問をぶつけて見た。


「いや、私のイメージしていた転生ものとは違うようだ。」


ムスッとした口調で未来が答える。


「異世界転生者といえば、生まれた瞬間から前世の意識を持っていたり、生まれてから数年生きた後、怪我や発熱で意識を飛ばして気づけば前世の記憶が戻っていたり、そう言うものだと思っていた。

 だから、一つの魂に2人分の意識があるなんてややこしい状況は想像していなかった。

 これはクリスを責めている訳ではないよ、責めるべきはあの女神だ。」


女神を責めるとは恐ろしい。クリスは冷やっとしたものを背中に感じながら、未来の言った意味を考える。


「じゃあ、私はこれから怪我か熱を出して、意識を飛ばすのかな?」


なんの気無しにそう口にした。が、


「ふむ、・・・ん?

 もしやあの時・・・?」


未来には何か思い当たる節があるのか、考え込むような、硬い声で呟いていた。


「あの母親か?

 ・・・いや、・・・付き合っていた・・・・あの男・・・

 まさか、・・・村の・・・女どもが・・・

 いや、ありえない、・・・・相手は2歳だぞ・・・?」


2歳とか聞こえた時点で、クリスは色々と悟った。そして、聞かないふりをした。

きっとあの時、未来がクリスを逃さなけれな、クリスは意識を飛ばすほどの目にあっていたのだろう。そして、自分を失い、前世である未来がこの体の主になっていたのだ。

まだぶつぶつと呟いている未来を無視して、クリスは朝の支度を始める。

お読みいただきありがとうございます。

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