始まりの街 05
ようやく転生来ました。
この作品はギャグタグついてます。
クリスが8歳のある夜に、彼女は夢を見た。夢と言えるのかは分からないが、寝ている間に見たものだからそれは夢だったのだろう。
◇
「ふむふむ、これが俗に言う”異世界転生”ってやつでござるな?女神殿」
女は独特の格好をしており、クリスが知る限り貴族か大店の商人しか身に付けることが出来ないと言われているメガネをかけていた。
メガネの蔓を指でつまみ、メガネを上下にクイクイ動かしながらもう一人の女に言葉をかけていた。
「何この子、なんでこんなに食い気味なのかしら・・・。
えぇ、そうよ。清くして生涯を終えたあなたは、新しい世界で新しい人生を送る権利が得られるの。」
もう一人の、女神と呼ばれた女は、それはそれは眩いばかりの美しい女性であった。流れる金の髪は川のせせらぎの様に輝き、白い肌は透ける様、潤んだ瞳は初夏の新芽の様に瑞々しい黄緑色で、細く長い体躯に豊満な胸。女のクリスが見ても息を呑むほどだ。
そんな女神に、メガネの女は詰め寄る。
「はぁ〜!!拙者はまだあの世界でやり遂げるべき事があったんでござる!新しい世界とか新しい人生とかはいらんので、元に戻して欲しいでござる!!」
どうやらメガネ女は嘆いている様だ。
「それはダメよ。元の世界であなたの身体はもう焼けちゃってるんだから。工場の爆発に巻き込まれたの。
でもそうね、あなたは近年では珍しく、とても清い身体を保っていたから、ご褒美として容姿やステータスに融通を利かせてあげてもいいわよ。」
「ん?その、さっきから言っておる”清い”とはなんでござるか?」
「あら?あなた自分でわからないの?
あなたはが最後に自らの意思で異性の体に触れたのは幼稚園のお遊戯会。それ以降は電車で肩が触れるとか、その程度。さらには異性への興味はなく、20年以上の偶像崇拝を続けているでしょ?」
女神は片手を頰に当てがいながら不思議そうに答えた。すると、メガネ女は慌てた様子で次の言葉を捲したてる。
「せ、せ、拙者は!い、い、異性には興味がないわけではなくッ!
むしろ20年以上も一途な愛を貫いていたのでござる!!
一昨年には念願の箱根旅行でカ○ル君に会って!!むしろあれは新婚旅行でござった!!
確かに、体育の授業とか文化祭とか体育祭とか修学旅行とか、男子との交流は極力控え・・・、決して避けられていたわけではござらぬからな!?控えた結果、女神殿の言う様に多少清くはあったかもしれないでござるが、それでも!そのおかげで余計なよそ見をせずに20年、カ○ル君を愛する事が出来たのでござる。これは純愛でござる!」
メガネ女の激しさが止まらない。クリスはこの女に恐怖さえ感じ始める。
「そうそう、そう言うところよ。あなたはその一途さを貫いた結果、”いつか東京に攻め入る未知なる生物から人々を救いたい”という夢を持って、人生の全てをその夢に捧げてたでしょ?
えーっと、大学、大学院では物理工学を学んだ後、自衛隊との取引をしているらしい重工系の企業に絞って就職、大型船舶のタービン開発に関わる部署に入るも、その暑苦しい性格のおかげか数年で海外支部へと移動。そこで、軍用機メーカーの存在を知り転職・・・。
もう私からすると狂信者の部類に入るわよ。
とにかく、そんなあなたは転生して新たな人生を送るの。私からのプレゼント付きでね。」
女神は明るく言い放つ。メガネ女は何か小声でブツブツ言っているがクリスには聞こえない。表情を見る限り、ろくな事は呟いていないのだろう事だけは分かった。
「もう、諦めなさい。あなたが100歳まで生きたって、あの世界には未知なる生物なんて現れないのよ?東京を守りたいなら気象予報士にでもなった方が良かったわよ。全く。
でね、次の世界はなんと、魔法があるのよ!魔法!!心踊るんじゃない?」
むふふと笑った女神がメガネ女に近づいてそう言う。そう、この世界には魔法があるのだ。クリスの様な孤児や貧しい家庭ではあまり見る事はないが、魔法を使ったランプや水桶、お湯が出る湯浴み場などもあるらしい。さらには、魔法使いや魔導師がおり、そう言った者たちは王城や貴族の屋敷などで働いているらしいのだ。
「ま、魔法でござるか?
そ、そ、それはあの、”ファイヤー”とか、”ヒール”とか出来ちゃうでござるか?」
目を、いやメガネを光らせたメガネ女がガタガタと震えながら女神に詰め寄る。先ほどから詰め寄りすぎてもう二人は抱き合いそうな距離にいる。
「近いわよ。
そう、出来ちゃうの。そういう世界なの。やっぱり、あなたは魔法が使えた方がいいかしら?モンスターもいる世界だから、剣とか体術とかあっても便利だと思うけど。」
メガネ女を押し返しながら女神が言う。ふっふっふっと低い笑い声が聞こえる。どうやらメガネ女が覚醒したようだ。
「いい!いいぞ!魔法だ!魔法に全振りでござるよ女神殿!!!
拙者魔法チートがしたいでござる。全ての敵を薙ぎ払ってやるでござるよ!!
女神殿?いいでござるか?剣とか体術とか、そんなのはいらぬでござる。
身体は動けばいいでござる。溢れんばかりの魔法の才をこの手にあたえるでござる!!」
大きく両腕を広げ恍惚とした表情で演説する様に、クリスはさらなる恐怖を感じる。女神が、納得してくれたみたいで良かったわと軽く流しているのには大物感を感じざるを得ない。
「そうと決まれば、もうちょっと細かいところを詰めちゃいましょう。
この世界はこういうところで・・・」
女神とメガネ女の声が遠くなる。二人の姿も徐々に霧に消えていく。クリスはゆっくりとどこかへ落ちていく感覚にとらわれ、そして目が覚めた。
◇
太陽はまだ完全には登らず、静かな街を白く照らすばかり。クリスは薄いカーテンから差し込む朝日をなぜか疲れている目で認識する。
夢の内容がぐるぐると回る。深く思い出そうとすれば逃げていく様なそんな感覚の中、それでもクリスには分かったことがあった。
「私、あれの生まれ変わりだ。」
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