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始まりの街 04

クリスは昔から、心の中にもう一人の自分がいるように感じていた。何故そうかと言えば、たまに声が聞こえるのだ。


「この親はハズレだ」


初めてその声を聞いた時は、確かそう言っていた。

漸く言葉を話せるようになって、自分の足で歩いて、食べ物も自分で食べれる。毎日新しいものがいっぱいで目につくもの全てにワクワクしていた頃のことだった。

だから戸惑った。この気持ちは自分の気持ちなのか?親とはお父さんとお母さんの事。それをハズレだなんて考えたことはないはずだ。

なのに何故、私の心はお父さんとお母さんを拒否しているのだろう。不思議で仕方なかったし、少し悲しかった。どうして私はそんなことを思ってしまったのか、考えても分からなくて苦しかった。


そして暫く経ったある夜のこと、私の心が叫んだ。


「今すぐ逃げろ」


その声は私を急き立てた。逃げろ逃げろ逃げろと、何度も繰り返す私の心に、自然と涙が溢れた。何も持つな、逃げろ、今すぐ逃げろ、誰も知らないところへ。

丁度お父さんもお母さんも出かけており、私は家で一人。ぼろぼろと泣く私を気にかける者は居なかった。

涙を拭い、声に従う。従わなければ自分が壊れてしまいそうな、そんな感覚があったから。声は私に指示する、人のいる道を避けろ、声を出すなと。

夜の暗がりの中、私の生まれた小さな町はとても静かで、遠くで生き物の声や、草木の揺れる音がして、とても怖かった。でもそれ以上に、私は心の声が怖かった。繰り返される警告、心を食い破りそうな声は、私を夜の闇へと導いた。


泣いて、走って、靴を履かずに家を出たせいで、足はボロボロで、なんで私はこんなことをしているのかと何度も考えた。今家に帰れば、心配したお母さんが優しく抱きしめてくれるかもしれない、お父さんは怒るかもしれないけど、頭を撫でてくれるかもしれない。何度もそう考えた。でも声は、私を遠くへと、もっと遠くへと追い立てた。


2回目の朝日を見た時、私は知らない建物の前で座っていた。色んなことを、ぐるぐる考えていた事は分かるけれど、自分がどうやってここまで来たのかを全く覚えていなかった。

ぼーっとした頭でその建物を見上げ、とても綺麗なところだなと感じた。そして、もう心の声が聞こえないことには気がつかなかった。




それから暫くは心の声に従った。出会った大人たちに名前は名乗らなかったし、どこから来たのかも伝えなかった。そもそも、自分がどの方向から来たのか、町の名前は何かも分からなかったし、何よりお父さんとお母さんの名前すら覚えていなかった。


綺麗な建物はこの街の教会だった。そこには、家を無くし、親を亡くした子供達が沢山いた。私はその子たちの仲間になるようだ。不安な気持ちもあったし、お父さんとお母さんを置いて家を出て来た罪悪感もあったけれど、シスターも子供達も皆んな良くしてくれて、いつしかここが私の家だと思えるようになった。


教会での生活が落ち着くと、心の声は聞こえなくなった。けれど、ふと心に全く知らない事が浮かぶ事があった。

例えば、井戸水で体を洗った後に髪の水を布で拭っていた時、ここに「ドライヤー」があればなぁと思った。

ん?と違和感を感じて、いましがた思ったことを再び考える。私は「ドライヤー」なんてものを知らないし、使ったこともない。でも「ドライヤー」と思ったことは確かだ。ではそれは何か?

考えると、その「ドライヤー」とは何たるかが分かってくるのだ。温かい風を出し、髪を早く乾かすもの。髪を洗った時に使用し、大変便利であること。

そういった事は度々あった。馬車を見て「車」を知り、手紙を見て「電話」を知った。物だけではない。数字を見れば、「計算」が出来たし、文字を見れば知らず知らずの内に読めるよになっていた。

どうやらこの感覚は私だけのようで、教会の子供達もシスターも、そういった事は無いようだった。

知らないことを知っているなんて、怖くもあったがそれ以上にワクワクした。

そして、私にだけ起こるこれが何故なのかを知ったのは私が8歳の時だった。

お読みいただきありがとうございます。

次回、ようやく転生入れられます。

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