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龍の子供  作者: 桃園沙里
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アルメニー村

 その後、ヨウたち四人はアルメニー村に到着した。

 小さい村だが、商店街は充実し、観光客で賑わっている。

 行き交う人々を見ながら、シードは言った。

「やけに賑やかだね。お祭りでもあるのかな」

「私知ってる。ここ、聖剣がある村でしょ。有名だもの」とリュウナが言う。

「聖剣って?」

 シードはリュウナに尋ねた。

 ヨウも訊く。

「この間、エリヤが言ってたヤツのこと?」

「そう、それそれ。言い伝えではね、聖剣がこの村の大きな銅板に刺さっていて、勇敢で清い心を持った人間だけが抜くことができるの。だから、世界中からたくさんの人が聖剣を抜こうと集まって来るのよ」

「聖剣を抜くためだけに、危険な旅をして?」とヨウ。

「聖剣を抜くってことは、まあ、勇敢な人間の証を手に入れるって意味もあるけど、その聖剣を王様の所へ持っていけば莫大な褒美が貰えること間違いなしよ」

「俺だったら褒美なんかいらないから、その剣自分の物にするけど」と、その時まで黙っていたエリヤが言った。

「何で。褒美欲しくないの?」

 ヨウが聞き返す。

「だって、地上に二つとない史上最強の龍の剣だよ。そんなので戦ってみたくない?」

「いいね、いいね。一度持ってみたいね。俺なら自分で使って、飽きてから王様に渡す」とシードははしゃぐ。

「せこいよ、おまえ」

 ヨウはシードの頭をこづいた。


 四人は観光客で賑わう商店街を抜け、アルメニー村の中央広場に向かった。広場の正面には大きな石造りの神殿が建っている。神殿の扉は開け放たれ、周囲は警備の兵がいる。神殿の内外は観光客でいっぱいだ。四人も観光客に混じって神殿内に入った。

「大きな神殿ねー」

 リュウナは高い天井を見上げていった。

 神殿の壁面は絵画や彫刻で飾られ、雅やかである。奥へ進むと、大きな石の台座と、銅板に突き刺さる一本の剣があった。銅板には「聖剣・龍の剣」と彫られてある。

 シードは聖剣の前に立つと言った。

「これが龍の剣かぁ」

 ヨウも続く。

「すごい装飾だな」

「きれいね。戦闘用じゃないみたい」

 エリヤはなぜかしらけた顔をしている。ヨウがエリヤを振り返って言った。

「おまえの剣に似てない?」

「あん?」

 エリヤは眉間にしわを寄せた。

「ほんとだ。この百合の紋、同じじゃない?」

 シードが聖剣を覗き込んで言うと、エリヤは不機嫌な顔でそっぽを向いた。

 そんなやり取りに構わず、リュウナは明るく言う。

「やってみる?誰でも試せるんでしょ、これ」と、台座の脇に立つ警備兵に微笑を投げた。

「ええ、どうぞ」

 警備兵はにこやかに言った。

「ええと」とリュウナは仲間を見渡した。それに答えるように、シードが前に出た。

「あ、はーい。俺やる」

 そう言うと、シードは聖剣の傍らに立った。他の三人を先頭に、観光客達も注目している。リュウナは隣にいるエリヤにこっそり言った。

「これ、抜けたらどうするのかしら」

「絶対抜けないようになってんじゃない」

「私、抜けちゃうかも。魔法で」

 リュウナがニヤッと笑うと、エリヤは軽く微笑み、たしなめるように言った。

「やめときなさい、お姫様」

 シードは一生懸命聖剣を引っ張ったり揺さぶったりしてみるが、一向に抜けない。

「だめだぁ、全然ビクともしない」

 諦めて台を降りるシードに警備兵は笑っている。

「はっはっは。そりゃそう簡単に抜けないよ。今まで何千人という人間が試したけど、みんなできなかった」

「あんたはやったことあるの」

「この街の人間はみんな試したことがあるよ。でも誰も抜けなかった。聖剣は真の勇者じゃないと抜けないのさ」

 シードが降りてくると、エリヤがヨウを見た。

「どう?」

 エリヤは微笑みを浮かべながらも、挑戦的な目をしている。

「おまえはやらないの」

「やらない。剣が抜けちゃって、英雄扱いされても困るし」

 ヨウはあきれたように肩をすくめ、聖剣の側に行く。

「せっかくだから、よーく近くで見させてもらえば?」とエリヤは言う。

「あ、そうだな」

 ヨウは腰を落とし、聖剣を眺め、やがて立ち上がり、聖剣の柄に手を掛けた。

「ウッ……だめだ、抜けねぇや」

 ヨウは台から降りてくると、エリヤに言った。

「エリヤもやれよ」

 エリヤは無言で台に上り、聖剣の傍らに立って眺めた。

「ふうん」

 エリヤはやる気なさそうに聖剣を掴み、抜く動作をするが、見るからに全然力を入れていないのがわかる。

「ああ、抜けない」

「おまえ、抜く気ないだろ。真面目にやれよ」とヨウが言う。

「俺に抜けるわけないよ」

 エリヤは聖剣から手を離した。


 ヨウら四人は、このアルメニー村に宿を取った。

 宿の部屋で、ヨウが自分の剣を手に取り眺めながら言った。

「あれって、もしかして観光用の偽物?」

「ええっ」とシードは驚く。

「そう思う?」

 エリヤは意味深な微笑みをヨウに向けた。

「聖剣にしちゃ、安っぽかった。ごてごて飾りがうるさいし、剣自体はその辺で売ってるのと変わんない」

「結構いい目してるじゃん」

「ホントに?ホントに偽物なの?」

 シードはまだ言っている。

「たぶんね」

 シードに答えるヨウに、リュウナも言う。

「観光客集めるには、いい材料なのよね。ここ以外にも、聖剣を売りにしてる町は多いわよ」

「リュウナも知ってたんだ」

 シードは目を丸くした。

「聖剣って騒がれてるものは、大概偽物よ。今までも幾つか見てきたわ。ひどいのなんか、町の武器屋で三本も売られてた。地上に一本しか存在しないのに」

「あはは。そりゃすごいや」

「リュウナは、本物の聖剣って、見たらわかるの?」とヨウが訊く。

「わかんないけど、わかりそうじゃない?きっと聖剣って言うからには、何か神々しい光を帯びてるとか、そういうのがあるのよ、きっと」

 ヨウが手を叩いて笑った。

「おまえ、いい加減。俺とレベル一緒じゃねぇかよ」

「でもさ、そしたら本物の聖剣って何処にあるのかな」とシード。

「大体、聖剣ってどういう形してんだよ」

「そういえば、さっきの剣とエリヤのって似てたよね。同じ百合の紋章、入ってたし。それ、何処で手に入れたの」

 そう言ってシードがエリヤの剣に手を伸ばすと、エリヤはその手を払った。

「俺の剣に触るな」

 驚いて手を引っ込めるシードの横で、ヨウが殺気立つ。

「何だよ。気分悪いな」

 睨み合う二人の間に、リュウナは両手を広げた。

「まあまあ。剣士にとって、剣は命なのよ。ね、エリヤ」

 リュウナの言葉を汲んで、シードも明るく言う。

「そっか。ごめんな、エリヤ」

「……」

 エリヤは、それらの言葉にも素知らぬ顔をして、窓の外に視線を移した。


 その頃、メロット城の王の間では、王がイライラして座っていた。

「龍の子供はまだ見つからんのか」

 その時、警護隊長が入ってきた。

「王様、大変です」

「なんだ」

「神殿にあった聖剣が、盗まれました」

「なんだとっ」

「部下が言いますには、先程、神殿を掃除しておりましたところ、ふと聖剣の輝きが違うような気がするとのこと、調べましたら、偽物とすり替えられておりました」

「なんと!あれほど厳重に警備してあったのに、どういうことだ」

「申し訳ございません!」

「しかし、あれは普通の人間では引き抜くことができないはず。一体誰が」

 苛立たしく机を指で叩く王に、大臣は言った。

「ここに本物の聖剣があることは、ごくわずかな者しか知りません。おそらく普通の人間ではない、もしかしたら救世主の勇者が現れたのかもしれませんぞ」

 大臣の言葉は、王には気休めにしか聞こえなかった。

「いや、楽観しすぎるな。確かに魔物にはあの聖剣は手も触れられまい。しかし、たとえ勇者の手にあったとしても、あれがここになければ何にもならん。探し出せ。その者を、何としても」

「はっ」

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