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龍の子供  作者: 桃園沙里
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ケリウィック村

 翌朝早くにメロットを出発したヨウ、シード、リュウナ、エリヤの四人は、朝日の荒野を馬で走っていた。遠くの空で鳥たちが舞っている。

「静かだね」

 シードが馬上から言った。

「このまま魔物に出会わずに行ければいいね」

「のんきだな。あれに気付かないか」

 エリヤが顎で空を指した。

 他の三人が空を見ると、いつの間にか頭上に来ていた鳥の影が、みるみる大きくなり四人の上に襲いかかった。

 四人はそれぞれ手綱を持っていた手を片方放し、剣を抜いた。ヨウ、シード、エリヤは走りながら剣で振り払い、リュウナは手の平から炎の玉を出しては鳥の魔物めがけて投げつける。

 やがて、鳥の魔物を退治した四人は、元のように走り出した。


 荒野を抜け、深い森の中を時折出くわす魔物達を戦いながら、四人は先に進んだ。

 辺りの山々が残光に染まる頃、ようやくケリウィック村の城壁が見えてきた。


 ケリウィック村の宿屋の部屋に着くと、四人は荷物を下ろし、上着を脱いでくつろいだ。

 シードは粗末なベッドに腰掛けると、言った。

「ああ、疲れたぁ」

 他の三人もシードにならってベッドに腰掛ける。その時、ふと、リュウナが気付いた。

「あら、エリヤ、ケガしてる」

 見ると、エリヤの手の甲にかすり傷がある。

「ああ?これはさっき木の枝で」

 リュウナはエリヤの手を取った。

「ヒーリングの魔法、やってあげる。目を閉じて」

 エリヤが素直に目を閉じると、リュウナは、エリヤの手に自分の手をかざした。その手の平からほんのりと白い光が出る。

「どう」

 リュウナはエリヤの顔を見た。

「気持ちいい」

 エリヤはわざとらしく恍惚の表情を浮かべた。

「そうじゃなくってっ。痛みはどう」

 エリヤは目を開いて言った。

「……直った」

「他にケガしてる人いない?シードは?」

 シードは自分の身体をあちこち見るが、ケガはない。

「う、うん」

 尚もシードは諦め悪く、リュウナに背中を向けシャツを捲って見ている。その様子を横目で見ていたエリヤは、ナイフを出し、シードの脇腹に斬りつけた。

「痛っ」

 エリヤは平然と言った。

「ほら、シード、血が出てる」

「まあ、大変。こっちへ来て」

 リュウナが手招きした。シードは不可解な目でエリヤを見るが、エリヤはにやりと笑っている。そんなやり取りに気付かないリュウナはシードの脇腹に手を翳した。

「目を閉じて」

 シードが目を閉じると、リュウナの手から光が放たれ、シードの脇腹に吸い込まれていった。傍らでエリヤは口元に不思議な微笑みを浮かべ、幸せそうなシードを見ていた。

「はい、これでオッケーよ。ヨウは」

 シードの傷口が完全にふさがったのを確認すると、リュウナは手を離した。

「俺はいい」

 ヨウはぶっきらぼうに答えた。

「血が出てるじゃない。腕んとこ」

「舐めときゃ直る」

「やって貰えば。気持ちいいよ。リュウナと楽しいことしてるみたいな気分だぜ」とエリヤが言う。

「なんてこと言うんだよぉ」とシード。

 ヨウは立ち上がり、言った。

「じゃ、俺もしてもらおうかな」

「だめだめ、だーめ」

 シードを気にせず、ヨウはリュウナの横に座った。

「目を閉じて」

 エリヤは、リュウナとヨウが気になるシードを促し、テーブルについた。

「明日の予定、考えなきゃ」

 シードはリュウナとヨウを横目で見つつ、カバンの中から地図を取り出し広げた。

 エリヤは地図を見て言った。

「山の南のルートで行くか、北のルートで行くか」

「それとも近道して山越えするか」

「山は危険でしょ。体力の消耗が激しい」

「やっぱ、遠回りでも平地で行くか、なぁ、ヨウ」

 シードはヨウを振り返った。

「寝ちゃった」

 リュウナが笑いをこらえて言った。そこにはリュウナにもたれ、寝息を立てているヨウの姿があった。


 翌朝、宿屋の部屋で旅支度を始める三人に、リュウナは言う。

「だから、馬を休ませなきゃだめって言ってるじゃない。ずっと走りっぱなしなんだから」

 リュウナの言葉に、ヨウは手を休めず言った。

「そんなこと言ってたら、いつまでたっても目的地に着かないだろ」

「先が長い旅よ。無理したら続かないでしょ。馬なしじゃ旅は出来ないわよ」

「馬なんてまた買えばいい。ごちゃごちゃ言ってないで早く行くぞ」

「私、そういう考え方、だぁいっキライ」

「嫌いで結構。こちとら、おじょうさんのペースで旅してるわけじゃないんだ。イヤなら帰ってもいいんだぜ」

 リュウナはキッとした目でヨウを睨んだ。

「やってらんない。こんな計画性のない分からず屋と一緒に旅をするなんて、こっちこそごめんよ。帰る」

 そう言い放つと、リュウナは荷物をまとめて部屋を出て行ってしまった。

「ちょっと待って、リュウナ」

 後を追おうとするシードを、ヨウが言う。

「シード、行くなっ」

「だって」

 シードが窓の外を見ると、馬にまたがるリュウナの姿が見える。

「ヨウが悪いよ。あんな言い方しなくても」

「本当のことだろう。世間知らずのおじょうちゃんと、ちんたら旅してられっか」

「リュウナは大切な旅の仲間だろ。なあ、エリヤ」

「去る者は追わず」

「ほうら」

「俺、連れ戻してくる」

 シードは立ち上がった。

「行く必要ない」

 ヨウは止める。

「いやだ、行く」

「待てよ」

 ヨウは、今にも走り出しそうなシードの腕を掴んだ。

「お前は行くな。俺が行く」


 ヨウが出ていった後、宿屋の部屋でシードはエリヤに訊いた。

「ねえ、エリヤはリュウナのこと、嫌いなの」

「別に」

 エリヤは相変わらず無表情で、窓の外を眺めている。

「ヨウはリュウナのこと、嫌いなのかな。こんな世の中だから、人間同士は仲良くしなきゃ、ねぇ、エリヤ」

 シードの言葉にエリヤは驚いてシードを見た。魔物に命を脅かされ、自分が生きていくだけで精一杯で、他人のことを思いやる余裕のない、人々の心から道徳心や思いやりが薄れつつあるこの時代である。

「あ、ああ、そうだね」

「俺はリュウナもヨウも好き。だからケンカして欲しくないんだな」

「……」

 エリヤは、シードを不思議な生き物を見るような目をして見た。シードはエリヤと目が合うと、「ねっ」と純真な微笑みを投げかけた。


 村を出たヨウが馬上から辺りを見渡すと、前方の荒れ地に人影が見える。ヨウは馬に鞭を入れた。

 その頃、荒れ地ではリュウナが魔物三匹に追われていた。リュウナは片手を手綱から離して魔法で応戦するが、でこぼこした地形に馬が足を取られ、なかなかうまくいかない。一匹に炎の玉を投げつけた拍子にリュウナはバランスを崩し、馬から落ちてしまった。草むらに倒れ込むリュウナ。そこへ魔物二匹が襲いかかる。

「もう、だめ」

 リュウナが思ったその瞬間、馬に乗ったヨウが現れ、魔物を一撃した。ヨウは続いてもう一匹にも斬りつけ、あっという間に退治すると、馬上から言った。

「大丈夫か」

 リュウナは驚いてヨウを見つめた。ヨウの背後に太陽が重なり、光が差していた。ヨウは馬を降りて、リュウナに手を差し出した。

「単独行動を取るな。戦いの時の鉄則だ」

 リュウナは、ヨウに起こされながら神妙に言った。

「……ごめんなさい」

 思わぬリュウナの素直な態度に、ヨウもボソッと言った。

「……キツイ言い方して悪かったよ」

 ヨウはリュウナを自分の馬に乗せると、その後ろにまたがった。リュウナの馬は、リュウナを振り落とした後、魔物を恐れてどこかへ行ってしまった。

 二人を乗せた馬が荒れ地を走っていく。

「馬が」

 リュウナが呟いた。ヨウが気付くと、リュウナの馬が戻ってきて併走している。リュウナはヨウを振り返り微笑んだ。


 シードとエリヤが待っている宿屋に、ヨウとリュウナが入ってきた。シードは思わず立ち上がった。

「リュウナ、戻ってきてくれたんだ。よかった」

「ほら、みんな心配してたんだ。ごめんなさいは」と、ヨウがリュウナの頭を叩く。

「いいんだよ。大体コイツが悪いんだし」

「何だと」

 ヨウとシードのじゃれ合いに構わず、リュウナはしおらしく頭を下げた。

「勝手な行動をしてごめんなさい」

 ヨウは満足そうな顔をしてリュウナを見ると言った。

「ま、今日は馬を休めて、明日早くに出掛けるか」

「やったー。街へ繰り出そうぜ」とシード。

「ハメはずすなよ」


 ヨウは街の小さな刀剣屋をひやかしたりして時間をつぶした後、夕方宿屋に戻ると、エリヤが一人、宿屋の中庭で剣の練習をしていた。

「なんだ、ここにいたのか」

 ヨウの姿をみとめると、エリヤは腕を降ろした。

「シードは」

「リュウナとちゃらちゃらしてやがる。あいつ、マジかなぁ」

「……」

「まったく女は扱いにくいぜ。連れてくるんじゃなかった」

「そうでもないかもよ」

「え」

「役に立つことがあるかもしれないよ」

「それ、どういう意味」

「さあ、何となく」

 エリヤは、無表情のまま再び剣を構えた。

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