表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
龍の子供  作者: 桃園沙里
3/14

第一の冒険

 旅立ちの朝、メロットの広場に集まったリュウナ達を見て、ヨウは唖然とした。

 リュウナはつばの広い黒い帽子に、黒い魔法使いのマント、その下はショートパンツと腿まである編み上げのブーツ、と、まるで物語に出てくる魔法使いだ。

 一方、エリヤはといえば、金糸銀糸で刺繍が施された黒の丈の長いジャケット、派手なシャツにふくらはぎまであるブーツ、宝石の散りばめられた豪華な剣、と、どう見ても魔物狩りに行く格好には見えない。

「俺、こいつらと並んで歩くの、やだな」

 ヨウは頭を抱えた。

「リュウナちゃんだけなら許すけど」

 シードも苦笑した。


 メロットの城門から続く荒野を、ヨウ、シード、リュウナ、エリヤの四人が馬に乗って走っていた。かつてはこの辺りもメロット城下として街があった場所である。魔物に襲われて街は破壊され、今では砂に埋もれた建物の残骸があちこちに見えるだけである。

「城から二十マイルだって。そんなに近くにあって、なんで今まで取り戻せなかったんだろうね」

 隣りを走るヨウに、シードが話しかけた。

「強力な魔物がいるとか」

 ヨウは前を向いたまま、厳しい表情で答えた。

 その時、エリヤが顔を上げ、遠くを見た。エリヤは速度を上げ、シードに並ぶと言った。

「魔物の気配がする」

「え」

「ほら、あっち、砂煙が」

 シードとヨウがその方向を見ると、遙か遠くの荒野に砂煙が近付いてくるのが見える。

「たくさんいるみたい」

「やばい、ここじゃ不利か。あの林まで走るぞ」

 ヨウはそう言って、皆をせかした。

 林の中に入った四人は、馬から降り、馬を大きな木の陰に隠すと、それぞれ木の陰に身を潜め、様子を窺った。シードはリュウナを守るように寄り添っている。四人は自分の剣を抜いて身構えた。やがて、十匹ほどの魔物が走ってきた。

「来た」

 一番手前に隠れていたエリヤが言った。エリヤは、魔物達を一旦やり過ごすと、最後の魔物が通り過ぎた時、背後から斬りつけた。エリヤの鋭い剣が魔物の身体を貫通する。魔物はうめき声を上げて霧散した。その声に他の魔物達が振り返り、エリヤめがけて襲ってきた。エリヤは、ヒラリと軽く身体をかわすと、魔物の首を切り飛ばした。続いて、魔物の横からヨウ、シード、リュウナが襲いかかり、次々と魔物に斬りつけていった。

 魔物の背後に回ろうとしたリュウナは、切り株に足を取られ、転んでしまった。

「大丈夫?」

 気付いて助け起こそうとしたシードがリュウナの手を取った時、魔物がシードの背後から覆い被さった。

次の瞬間、ヨウの刀が魔物を一撃。魔物は霧となって消えた。

「気ぃ抜くな。自分の身は自分で守れ」

 エリヤは、華麗な剣さばきと無駄のない身のこなしで魔物を倒し、やがて、エリヤが最後の一匹に剣を突き刺し、「これでラスト」と剣を一降りした。エリヤは息一つ乱していない。そんなエリヤを見て、ヨウは言った。

「なかなかやるじゃん」

「まあね」

 エリヤは口元に微かな微笑みを浮かべながら、剣を鞘に収めた。


 林を抜けた四人が、荒野を三十分ほど走ると、やがて木々に囲まれた古びた塔が見えてきた。

 四人は塔の入り口で馬を降り、馬を木につないだ。ヨウ、エリヤに続いて塔に入ろうとしたシードが、リュウナがすぐに来ないことに気付いた。リュウナは地面に木の枝で何か書いている。

「リュウナ、何してんの」

 リュウナは、つないだ馬の周囲に、星形を書いていた。

「結界を作ってるの。強力な魔物には通用しないけど、その辺にいる魔物なら充分これで大丈夫だわ」

「へぇ、そんなことも出来ちゃうんだぁ。だったら、町もみんな結界で囲えばいいのに」

「大抵の町は、もう囲まれてるわよ」

 先に行ったはずのヨウが引き返して言った。

「あったりまえだろ。そうじゃなかったら、夜眠れねぇよ」

「ヨウだって知らなかったくせに」

 リュウナは、結界を書き終えると、木の枝を地面に突き刺した。

「完成。さ、行きましょ」


 入り口の重い鉄の扉を押し開けると、塔の中は薄暗く、螺旋階段が上まで伸びている。四人はヨウを先頭にそれぞれ剣を手に、一歩一歩警戒しながら昇っていった。

 階段の途中で、物陰から小さなゴブリンが現れ、先頭を歩くヨウに飛びかかってきた。が、ヨウは剣を一降りすると、難なくゴブリンをやっつけた。尚も慎重に昇っていくと、時々小さな魔物が飛んできたが、それらは四人の敵ではなかった。やがて、四人は塔のてっぺんらしき部屋へ辿り着いた。

 ヨウは厚い木でできた扉に手を掛け、他の三人に目で合図した。三人が頷くと、ヨウは勢いよく扉を開けた。

 扉を開けた瞬間、部屋の中から沢山の小さな鳥のような魔物飛び出してきた。魔物達は一斉に飛びかかってくる。飛びかかってくる魔物を、ヨウ、シード、エリヤは華麗な剣さばきで、次々に魔物を斬っていき、部屋の中へ進んだ。リュウナは魔法で、魔物を三、四匹まとめて炎に包んでいく。魔物は数が多いが弱く、四人はあっという間に全て倒してしまった。

 魔物のいなくなった部屋で、四人は荒い息を整え、辺りを見回した。部屋の中は何もなく、隅には宝箱があるだけであった。

「あれがそうかな」

 ヨウは宝箱の前に立った。

「開けるぞ」

「気を付けて」

 ヨウが宝箱をそっと開けると、何事も起こらず、開いた。中には光の玉が一つ入っていた。ヨウは慎重に玉を取り出すと、シードに渡した。シードは肩から下げた袋に玉をしまいながら言った。

「思ったよりあっけなかったね。何か拍子抜けしちゃった」

「試されてたりして。光の玉を持ち逃げしない人間かどうか」

 シードの背後からエリヤが言った。

「そうかもね。これ、本物の光の玉じゃないもの」とリュウナも言う。

「え」

 シードとヨウは顔を見合わせて、袋の中の光の玉を見た。玉を見ただけでは特に異常はない。

「何でわかる」

 ヨウはリュウナに向き返った。

 リュウナは袋を覗き込みながら言った。

「光の玉は真っ暗闇の中でも自ら光を放ち輝いているもの。ほら、これはただの水晶玉」

「よくそんなこと知ってるな」

 感服した様子のヨウに、エリヤが冷やかすような口調で言った。

「常識でしょ。誰でも知ってる。そんなんで、この先大丈夫なの?」

「……」

 ヨウはむっとしてエリヤを睨んだ。エリヤはそんなヨウを口元にあざけるような微笑みを浮かべたまま見返した。


 メロットへ帰る道々、ヨウはエリヤの様子を窺っていた。

 あの戦いぶりは、素人ではない。独学で剣を練習したヨウとは違う、明らかに本格的な訓練を受けた剣だ。一体エリヤは何者だ?王の部下か、それとも世界を乗っ取ろうとする反乱軍の一味か。それにしては、派手な格好をして目立ちすぎる。

 考えてもヨウにはわからなかった。ヨウは、メロット周辺から離れたことがなく、世界のことを知らなかった。


 メロットへ戻った四人は、街中を城へ向かった。道の真ん中で、突然、リュウナがしゃがみ込んだ。

「いたたたた」

「どうしたの」

 シードが心配そうな顔をして、リュウナの顔を覗き込む。

「急にお腹が痛くなって」

「大丈夫?すぐ医者に行った方が」

「少し休んでいれば直るわ。宿屋で休んでいるから、お城へは三人で行って」

「送っていこうか」

「シード!」

 ヨウが咎めるような口調で言った。

 その時、エリヤがリュウナの手を取り、言った。

「俺が送ってくよ。お城とか好きじゃないし」

 ヨウは一瞬怪しむ目でエリヤを見た。

「……じゃ、頼む」


 メロット城の謁見の間で、ヨウがうやうやしく光の玉を差し出すと、王は満足そうな微笑みを浮かべた。家来から光の玉を受け取った王は、玉が本物か偽物かを確認することもなく言った。

「よくやった。ヨウ、シード。褒美を取らせよう」

 王の言葉に頭を下げるヨウとシードに、控えていた家来が金貨の入った袋を差し出した。その袋を神妙に受け取る二人に、王は鋭い目つきで言った。

「これで残るはあと一つとなった。最後の一つは、さらに危険な場所にあるという。その方ら、光の玉を取り戻してくれるな?」


 一方、メロット市内の宿屋の部屋では、エリヤが剣の手入れをしていた。その脇でリュウナが横になっている。

 丁寧な手つきで手入れをするエリヤが、手を休めずに言った。

「いい加減、起きたら?仮病はばれてるよ」

 その言葉に、リュウナは照れくさそうに笑いながら身体を起こした。

「えへへ、わかった?だって、お城とか、ああいう堅苦しいとこ好きじゃないのよね」

 エリヤは無言のまま、リュウナの顔を横目で見た。

 その時、ヨウとシードが部屋に入ってきた。

 部屋に入ってくるなり、シードは言った。

「リュウナ、身体の方はどう?」

「うん、大丈夫。もう直った。王様はなんて?」

 シードは、褒美の袋から金貨を出して見せた。金貨は十枚あった。

「これしかくんなかった。最後の一つを手に入れろって。残りの褒美はそれからだって。なんか、騙されてんのかな」

「やっぱり王はもともとあれがニセの光の玉だって承知してたようだった。おまえ等の言う通りだよ」とヨウが言う。

「で、最後の一つって」

「どうやら、光の玉あと一つ取り戻せれば、魔物を消滅させる儀式を行えるらしい。でもその場所は世界で最も魔界に近いところとして恐れられていて、今までも数え切れないほどの勇者が挑戦したけれど、誰一人戻って来なかった、危険な旅になるから充分気をつけて行けって」

 ヨウの言葉を真剣に聞いていたエリヤは、何か考えるような顔をした後、訊いた。

「龍の子供は?龍の子供の事、何か言ってなかった?」

「さあ。龍の子供の事なんて、一言も言わなかったぜ、なあ、シード」

「うん。龍の子供って何」

「龍の子供は」とエリヤが言いかけた時、リュウナが横から口を挟んだ。

「龍の玉を持つ、龍の子孫よ」

 三人は驚いて、リュウナを見た。

 リュウナは平然とした顔つきで言う。

「龍の玉と光の玉を全て神殿に揃えれば、この世界から魔物が消えるの。龍の玉は、龍の子供の体の中にある。聖剣を使ってそれを取り出して、儀式を行うの。そうすれば世界は平和になるのよ」

 ヨウとシードは始めて聞く話に目を丸くしていた。その一方で、エリヤは考えるような顔をしていた。

「聖剣って?」

 シードの問いかけに、エリヤが答える。

「龍王が地上に残していった剣だ。この世界のどこかにあるという」

 ヨウは、エリヤをいぶかしげに見ながら訊いた。

「なんでお前ら、そんなこと知ってるの」

 そんなヨウの疑惑の目に、エリヤはすました顔をして言った。

「博識だから」


 その頃、メロット城の王の間では王と大臣が話していた。

「で、龍の子供はまだ見つからんのか」

「はっ。申し訳ございません。ただ、カルレオンの使者の話では、近郊をくまなく捜索しましたが魔物に襲われた馬車はなく、無事にどこかの街へ着いたと思われると」と大臣は頭を下げた。

「ならばカルレオン周辺の街をを全て調べよ。とにかく、早く探し出せ。何としても身柄を無事確保せよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ