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龍の子供  作者: 桃園沙里
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儀式

 荒野をヨウ、リュウナ、セグラントの乗った馬車が、馬に乗った数人の男に囲まれ、進んでいく。

 馬車の中ではセグラント一人が前の席に、ヨウとリュウナが後ろの席に座っている。

 ヨウは、リュウナが浮かない顔をしていることに気付いた。

「どうした。やっと平和になるっていうのに、元気ないじゃん」

「神殿の儀式が失敗しないか、緊張してるの」

「大丈夫だよ。これまで修羅場をくぐり抜けてきたリュウナだもの」

「……」

 セグラントは、二人の会話が聞こえないのか、ただ黙って前方を見ていた。


 旅は三日間続いた。三日目の昼過ぎ、ようやくセグラントが後ろを向いて言った。

「さあ、そろそろ着きますぞ」

 その言葉にリュウナの顔が引き締まった。


 メロットの市街をセグラントを先頭に、ヨウ、リュウナが続いて歩いた。

 神殿へ向かう曲がり角で、セグラントは立ち止まって振り返った。

「こちらで少しお待ち下され」

 セグラントは先に神殿に向かった。

 ヨウは晴れ晴れとした顔をして言った。

「これで本当に平和な世の中になるなんて、何だか夢みたいだ」

「本当ね」

「……あいつらと一緒に見たかったな。魔物たちが世界から消える瞬間」

「……ヨウ」

「ん?」

「……愛してるわ」

「リュウナ」

 ヨウはリュウナを抱擁した。


 やがて、セグラント、戻って来て、二人に言った。

「お待たせいたした。さぁ、参りましょう」


 セグラントに引きつられてきたヨウとリュウナが神殿の入り口に着くと、警備の兵たちが倒れている。

「どうしたんだ、これは」

 ヨウは眉間にしわを寄せて警戒した。

「神聖な儀式のじゃまになりますでの、しばらくの間、眠ってもらいました」

 セグラントが表情を変えずに言った。

「さ、奥へ」

 セグラントは二人を促した。


 三人が神殿内に入ると神殿中央に祭壇があった。祭壇の回りを取り囲む七つの台座があり、そのうち五つには光の玉が乗っている。

 セグラントは空いている台座の一つの脇に立った。

「さあ、光の玉をこれへ」

 ヨウは肩から下げていた袋から光の玉を取り出して、台座に置いた。

 その途端、光の玉が輝きを増したように見えた。

「で?」

ヨウはセグラントを見た。 

 セグラントは空いている台座の最後のひとつを指差した。

「あとは、あそこに龍の玉を捧げるのじゃ」

「どうやるんだ」

「ヨウは聖剣を抜いて」

 ヨウは聖剣を抜いて右手に持った。

「姫様、こちらへ」

 セグラントはリュウナを呼んだ。

 リュウナはつかつかと進み、祭壇の上に仰向けになった。

「さあ、ヨウ、聖剣で姫様の心臓を突き刺すのじゃ」

 ヨウは唖然とした。

「何言ってんだよ。そんなことしたら、リュウナが死んじゃうじゃねぇか」

「これも龍の子供の定めじゃて。龍の玉を取り出すには、清い心を持った人間が、龍の子供を聖剣で殺すしかないのじゃよ。それ以外の方法では、龍の玉もろとも消えてしまうのじゃ」

「そんな」

 とまどうヨウを尻目に、リュウナは祭壇の上から毅然として言った。

「元々は我が先祖、龍王が、魔物に光の玉を盗まれた事が始まり。私は、生まれた時からこの日が来ることを願っていました。私の命と引換に、この世界に平和が訪れんことを」

「姫様、ご立派ですぞ。それでこそ天界人間界を治めた、龍王の子孫」

「さあ、ヨウ、私を刺して」

「できないよ、そんなこと」

 ヨウはまだぐずっている。

 そんなヨウをせかしてセグラントが言った。

「ヨウ、おまえがやらなければ、やがて兵隊が目を覚まし、姫様に剣を突き立てるだろう。そうしたら龍の玉も姫様も消えてしまう。姫様のお気持ちを察しなされ。おまえがやるのじゃ、ヨウ」

 ヨウ、首を横に振る。

「貴方は人間界で最も勇敢な人間だったわ」

 尚も拒否するヨウを、セグラントはせかした。

「さあ、早く。門番が目を覚ましてしまう」

「ヨウ、お願い」

 リュウナが祭壇の上からヨウを見つめた。

 ヨウはリュウナの目を見つめた後、決意したように祭壇の脇に立った。ヨウは聖剣の先をリュウナの胸に当て、尚も躊躇した後、目を閉じると思い切り剣を刺した。

 その瞬間、リュウナの身体から目がくらむ眩い光が放たれた。次の瞬間にはリュウナの身体は崩れ去り、祭壇の上には透き通る玉だけが残された。

 ヨウは目を閉じ、がっくりと肩を落としたまま動かない。

 セグラントは祭壇に残された龍の玉を丁寧に持ち、祭壇に掲げた。その途端、龍の玉は七色に光り輝きだし、四方八方にまばゆい光を放ち始めた。辺りは温かい光に満ちていく。

 光の中で、人々が目を覚まし始めた。

「あああああ」

 ヨウは、光の中で叫んだ。


 メロット城にいた王は、窓から差し込む光に気付いた。立ち上がると、窓の外を見た。

「おお、聖なる光が満ちていく。見よ、平和が戻ったのだ」

 メロットの市街でも、町人が、家から出、喜びの声を上げて光の差す空を見上げている。

 辺りから邪悪な空気が消えていき、荒野は光に包まれ、あちらこちらで魔物が崩れていく。

 炎の谷では中央の神殿が、地面もろとも、炎の消えた谷の中へ崩れ落ちていった。


 街のみんなが歓喜の中にいる時、メロット市の門の外で、ヨウは馬に乗って空を見ていた。ヨウは光の元、メロット神殿の方を見やると、やがて馬を走らせ、いずこへともなく消えた。

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