表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トランス・パレント・ストライク ―神宿る左腕ー  作者: のんぐら
そして青年は牙を剥いた
2/13

そして青年は牙を剥いた(2)

 翌日。

 村に騎士がやってきた。

 背中に両刃の剣を背負い、プレートメイルに身を包み、兜を目深にかぶった「鋼鉄」の異名を持つ騎士。

「ドネルさまがいらっしゃったぞ!!!!」

 村人たちは口々に叫び、ドネルという騎士の来訪を喜んだ。先頭を歩く10人の兵士に続いてドネルは歩いてくる。ドネルの後ろにも10人の兵が歩いており、ドネルの隣には1人、戦う装備ではなく礼服の若い男が付き添っていた。総勢22人の行列。

「リヒター、あの騎士の隣のやつ。あれ誰だ?すげえ弱そうだけど」

「えっと、たぶん騎士様の仕事を手伝う人だよ。『バトラー』って職業の」

「へえ。なにするんだ?」

「騎士様は戦うだけじゃなくて、戦術指南とか武器の調達とか、戦う準備に色々事務作業が必要なんだって。それを騎士様ひとりでやるのはきついから、バトラーさんが受け持つっていう」

「ふうん。テキザイテキショだな」

 リヒターとレックは兵たちの行列を見ながらそんなことを話していた。天気は曇り。雨は降らなそうだが、洗濯物が渇くのに時間がかかりそうだった。

 兵たちの行列は村の中央付近の広場で止まった。普段はここには露店が並びにぎやかだが、今日はどこも店を畳んで場所を作っている。理由は勿論決まっている。

「これより選抜試験を行う!騎士・兵士候補に名乗り出るものは私のところへ!」

 朗々とバトラーが声を上げた。広場に集まった野次馬たちもざわつく。次々と腕に覚えのある者が前に出た。男ばかりではない。村の剣術指導塾出身の女子の姿も数名あった。

「いくぞ」

「うん」

 リヒターとレックも歩み出た。総勢18名の立候補。この中から何名かが選ばれ、帝都の訓練学校で修練を積んだ後、騎士や兵士として国に尽くすことになる。

「リヒター!がんばって!!」

 アネラの声援が後ろから聞こえてきた。軽く手を挙げて応える。リヒターが選抜されるのを信じて疑わない純真な瞳だった。

「試験内容は簡単。いまから諸君らは我々の隊員と1対1で戦ってもらう。3分後に立っていたものが2次選抜に進める」

 バトラーの声。ドネルの両脇に並んでいた兵士たちがバラバラと歩いていく。リヒターの前に立ったのは、身長が180㎝ほど、頑強そうな体躯の男だった。

「よぉ、可愛い顔の坊主。よろしくな」

 鉄の兜、胸だけを守る鉄のプレート、腰回りには鎖がひらついている。手甲と腕甲は革で作られており、良く手入れされていた。

「はい。よろしくおねがいします」

 全員に木剣が渡される。リヒターが普段振り回していたものとほぼ変わらない感触。2度振ってみる。いける。そう確信し、レックの方を見る。彼もまた自身に満ちた目でこちらを見ていた。

「それでは、開始!」

 バトラーの合図。リヒターは両手で木剣を持ち、中段に構えて相手の出方を見る。

(すごい体格のいい人だ。だけど、装備は防御力より動きやすさを重視してるように見える)

 他の兵士たちと見比べても格段に動きやすそうな出で立ち。鎖帷子を着込む者やプレートメイルを着た者が多くを占めるなかで異質な装備に見えた。

 「ハッ」

 息を短く吐きながら男が斬りつけてくる。単純な袈裟斬り。

 力比べでは絶対に勝てない。体を左前に動かして剣の軌道を避ける。

 追いかけるように横斬りが飛んでくる。足元を斬ろうという動き。

 ジャンプで躱す。両脚を地面から離すのは防御の放棄を意味する。男はすかさず攻撃しようとしてくる。

リヒターはその男の顔面に空中から突きを繰り出していた。

 眼前に迫っていた剣先を男はすんでのところで躱す。

 着地したリヒターはすかさず男から距離を取る。

「ふぅー。やるな坊主。今のはヒヤッとしたぜ」

 にやりと笑って構える男と、返事もしないリヒター。余裕がまったくない。

(一歩間違えれば吹っ飛ばされるぞ)

 空気を切る音が聞いたことがないほど鋭い。そして自分の体の使い方が非常にうまい。

 リヒターが突きを出す直前、男の左足が浮いていた。蹴り飛ばすつもりだった。鎧の兵士にはこうはできない。己の体をよく知り、よく動かせるからこその軽装だった。

 ここまででまだ5秒と経っていない。

(攻めて時間を稼ぐ)

 左に垂らした剣から男を逆袈裟に斬りあげる。

 男はそれを簡単に振り払う。

 振り払われた勢いで体を左回転させ、左手一本に遠心力を注ぎ込み横薙ぎに強振する。

 男は右手を刀身に添えながら受け止める。

 リヒターの手がしびれる。ビクともしない。

 顔面に男の右こぶしが飛んでくる。空いた右手で受け止めたが、肩が衝撃を吸収できない。

 体が後ろに飛ばされる。

 「ぐぅッ…」

 尻餅をつく。すぐに足の裏が地面に着いた。体が弾む反動で立ち上がり、追撃させない。

(ほんとうに手ごわい)

 剣で斬りかかる訓練はレックと死ぬほどしてきた。しかし、体術があまりにお粗末だ。剣の動きを見切る要領で相手の腕の動きは見える。だが足が見えない。今も剣技とは関係ないタイミングで左足が踏み込まれており、リヒターの蹴りを受け止める時点で殴り・蹴りを含めた十数パターンの攻撃準備がされていた。

(どうする)

 倒すのは無理だ。

 斬撃が頭上から襲ってくる。身を翻して避ける。

 すかさず飛んできた横斬りを両手のフルスイングで受け止める。両腕ごと剣が頭上に持っていかれる。 

 胴ががら空きだ。そこに男の回転斬りが飛んでくる。頭上から剣を降ろすのは間に合わない。

 咄嗟、というべきか。それ以外に動かせる部位がなかった。

 左足を持ち上げ、膝で刀身の横っ面を蹴り上げた。軌道を変えられた斬撃は、遅れて降ろされた両手の剣が受け止めた。

「やるな」

 男の素直な賞賛。しかしリヒターには次がない。男の回転切りは左手一本だった。

 右拳が飛んでくる。

「ああああああっ!!!」

 リヒターは頭突きをその右拳にぶち込んだ。

 骨の砕ける音が、リヒターの頭蓋に響いた。

お読みいただきありがとうございました。

本作の主題である「魔術」が出てこないし私が書いているはずなのにリヒターくんは木剣を振り回しているし、これだから小説を書くのは楽しいですね。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ