現実と理想
段ボールの床に居心地の悪さを感じながら、美弥子はすくっと起き上がった。
眠れない。こんな状況で平気で眠れる人が居たらお目にかかりたいわっと思った。
関係者から見たら、明日のイベントはもう終わった事で、愚痴を言えば言うだけ面倒な返答が返って来るのは目に見えている。そして、もう終わった事にして眠るのがいいのは、当然理解している。
でも、生きている人間として、どうしても気持ちの整理がつかない事もあって、理論とか正しい答えとか確率的にとか考えるだけでうんざりするし、どう考えても不運としか言いようが無い災害事故なのに、大雨で皆同情的だからまぁなんとかなるさとか言われると、なんとも言えない気持ちになる。
今日の夜は大忙しでこの会場を駆け巡っていたはずなのに、処理できない思いを抱えて段ボールの床の上で眠らないといけない。全て終わった事にして。
「…あー喉乾いた」
気付けば声に出して、そんな事を呟いていた。
何もかも飲み込めれば、私はもっと幸せな人生だっただろうよ、そう思いながら段ボールの床から離れて水道へと向かった。
蛇口を思いっきりひねって、勢いよくコップに水を入れながら、溢れる水をしばらく眺めている自分に気付いた。大雨で最悪な気持ちが晴れるわけもなく、自嘲しながら蛇口を勢いよく固く閉めて、晴れた空が見たいと純粋に心の底から願った。