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幕間 知る人々/スラムの一角

■東京湾中央防波堤外域埋立地・東京アバディーンにて――


 東京の大都市圏のはみ出し場所。そして。湾岸エリアを東京湾中央へと大きく張り出した土地――

 かつてはゴミの最終処分場としてごみ収集トラックが列をなして押し寄せていた場所であったが、今となっては未来を標榜する都市となること無く行き場をなくした者たちが集積する、最悪の街へと変貌していた。

 その名は『東京アバディーン』

 またの名を『ならず者の楽園』と呼ばれるスラム街である。

 

 その東京アバディーンのメインストリートの南側一帯は様々な違法外国人たちが居座る外国人居留地である。様々な民族毎に別れて暮らしており、その中で最も勢力があるのが中華系の民族たちである。さらにその中で台湾系の人々が集まるエリアが有る。その一角にあるのが台湾系の妙齢の女性が切り盛りしている中華料理店『天満菜館』である。

 その軒先にて店の人々と談笑していたのはアラブ系の血が入っていることが解る少年――ラフマニであった。

 夜越しのひと仕事を終えての帰宅途中だ。天満菜館で買っているのは中華まんのたぐいだろう。

 それをねぐらで待つ子供らの分を買い込み店を後にする。中華系の人々が多いエリアだが、この界隈の人々はラフマニのようなハイヘイズの混血孤児の子らに対して良心的だった。彼らとて社会のどこにも行き場が無く、決して豊かとは言えない暮らしをしているのだ。同じ様な境遇のハイヘイズの子らに同情するものがあったとしても不思議ではない。アラブ系の血を引くラフマニの事を疎むような者は居なかった。

 そして多くの人々の流れる雑踏をラフマニが歩いていたときである。

 

「ラフマニ」


 その背後から声がする。振り向こうとするがその声は制止する。

 

「振り向くなそのまま聞け」


 声の主には聞き覚えが有る。彼の兄貴分である〝神の雷〟の異名を持つ男である。だがその姿は誰にも見えない。おそらくはステルス機能を行使しているのだろう。通行人のじゃまにならない路傍に移動するとそのまま言葉を続ける。

 

「有明で事件が起きた。箝口令が敷かれていて情報収集が困難になっている。どんな組織も同じだろう。だが俺が得た情報がある」


 その言葉と同時にラフマニの着ている薄汚れたハーフコートの内ポケットにねじり込まれたものが有る。

〝手紙〟である。

 

「これをあの連中に渡せ。大きく恩を売れる。そしてそれは後々、お前にとっても利益となる」


 そう囁かれてラフマニは確かに頷いていた。周囲に視線を走らせるが、彼と神の雷との会話に気づいた様子は誰にもなかった。音声の到達領域を指向性音波で制御しているのだ。こんな事ができるのは神の雷・シェンレイしか居ない。

 

「行け、ここから先はお前の仕事だ」


 その言葉にラフマニは再び頷いていた。それと同時にラフマニが手にしていた子供らへの土産をシェンレイはそっと受け取る。

 

「これは俺が子供らのところへ届けておく」


 それが最後だった。音もなくシェンレイの気配は消え失せて行く。そしてあとに残ったのはラフマニだけである。だがラフマニの意思は固まっていた。やると決めた事をなすだけだ。ラフマニの脚に俄然力が籠もる。

 ラフマニは無言のまま走り出す。向かう先はロシア系住民の多いエリアである。


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