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第5話 リクエスト/依頼

 東京湾海上国際空港――

 その海底基礎部からは幾つかの地下鉄道・地下道路がのびている。

 東京、千葉、羽田へと直通ルートを確保し、横浜方面へもトンネルが伸びている。

 その内の一つに、千葉袖ケ浦方向から東京の新木場有明方面に向けて東京湾を縦貫する、沈埋型の高速地下鉄道ルートがあった。


――東京マリーナジオライン――


 沈埋型ユニット式トンネルを多用して作られた世界でも類を見ない形式の海底トンネルである。

 空港の地下を出た高速地下列車は東京湾の海底をひた走る。


 鉄道トンネルの構造は、巨大ブロックが海底に沈められる沈埋タイプと、強化炭素繊維ケーブルで海中に繋ぎ止められる係留タイプとに分れ、それらが状況に応じて使い分けられる。そして、その列車は車輪式のリニアモーター列車であり、最大時速200キロクラスで都心部へと直結される。それは成田の頃とは比較にならない高利便性である。


 サミットに参加予定の欧州科学アカデミーの一行は、海上空港の地下から彼らのために用意された特別列車へと乗り込んでいく。列車は7両編成の特急型列車、空港旅客の大量の移送を目的とした列車で、さしずめ地下を走るNEXの様なものである。


 その日、「クリスタルシャトル№17」は貸切である。

 東京湾の海底をその列車はひた走る。距離にして、約14キロ半である。

 

「ATTENTION PREASE――、本列車をご利用のお客様にサミット開催事務局よりご連絡です。本日の日程に関しまして、若干の変更がございます。詳しくは開催事務局からのメールメッセージをご参照ください」

「なんだ?」


 ウォルターは車内放送を聞き大きく口を開けた。ウォルターは自他ともに認める酒好きである。今も、周囲が止めるのも聞かず車内サービスに一杯求めたところだ。これから国際サミットに望もうと言う時であるから遠慮すべきなのだが――


「軽いものならそんなに酔わんよ」


――と笑うばかりで周りの静止を聞く耳すら持たない。紅一点であるエリザベスはウォルターのそんな態度に渋い顔だった。

 そんなやり取りのさなかに先ほどの車内放送である。英国アカデミーの面々のみならず、他のサミット参加者たちも、スマートフォンやタブレット、あるいは3Dディスプレイゴーグルなど様々な電子メディアを駆使して、それぞれに配信済みの電子メッセージを確認していく。


【送信者:サミット開催本部         】

【件名:                  】

【サミットオープニングセレモニー      】

【          開催時刻変更のお知らせ】

【                     】

【本日、有明1000mビルコンベンション会場】

【にて開催される『国際未来世界構想サミット』】

【のオープニングセレモニーにつきまして、  】

【開催予定時刻を以下の通りに変更いたします。】

【                     】

【有明1000mビル緊急メンテナンスのため 】

【開催予定時刻を午前12時から午後1時に変更】

【                     】

【付記:                  】

【1000mビル内の施設にて休憩場所をご用意】

【いたしました。どうぞご利用ください。   】


 ウォルターはスマートフォンでメール内容を確認しつつ、手にしたグラスをシートの前の簡易テーブルに置く。


「なんだ予定変更か、何をして時間を潰せと言うんだろうなぁ」

「別にかまわんだろ、ウォル」


 ガドニック教授は隣のシートで笑った。


「ちょうどいい機会だ、日本の最先端を見て回るいいチャンスだよ。一時間程度だが、みんなも休憩などと言うつまらない事をしないで、じっくり見学してみないか?」


 ガドニックは、周囲のシートに座っているアカデミーの仲間に話しかける。

 通路を挟んだ隣でエリザベスが答えた。


「いいわね、あたしも賛成ね。確か、有明の1000mビルはまだまだ建築計画の半ばのはずだけど、その規模から言っても一見する価値はあるわ」

「確か、今日のサミットが、ビルの完成式典の一つのはずだな」

「あぁ、有明1000mビルですね? 取り敢えず第1期の工区が完成したはずですよ」


 後ろのシートからトムが身を乗り出して問いかけた。27才で英国アカデミーで最年小のトムは、専門の情報・コンピューターの分野でありそのジャンルでは大変に優秀である。建築関係は範囲外だが、現在の電脳化社会では彼のスキルはいかなるジャンルでも通用すると言っていいだろう。


「そうね、予定建築高さは約1000m、基底部の直径が380m、最高部の直径が160m、第1期の完成高さが260m。構造は通常のビルとまったく違ってて、言ってみれば――そう、巨大な温室みたいなものね。まぁ、口で言うより実際に見た方が早いわね」

「まぁ、しいて例えるなら」


 カレルが口を挟む。


「現代のバベルの塔そのまま、と言った所だろうな」

「あら、マークも来た事があるの?」

「あぁ、内部に入ったことはないが、建築途中の様子を外観から見せてもらったことはある。ただ、あまりにも非現実的で既存のセキュリティがそのまま通用するとは到底思えないんだ」


 カレルは意味ありげな物憂げな表情を浮かべた。それをして、トムが提案する。


「そうだ! 先程のフィールさんに案内してもらえないかな?」

「ん、出来るんじゃないか? だいいち彼女は我々の警護役なんだし」

「いいねぇ、わしもそうしてもらいたいな」


 タイムとメイヤーが答えた。二人の言葉が示すようにフィールは好意的にアカデミーの彼らに受け入れられている。そして、それを合せるかの様にフィールがタイミングよく彼らの所に姿を現した。足早に近付き彼らにメッセージを告げる。


「みなさま、先程の車内放送をお聞きの通り、若干の間、ビル周辺で待機していただく事になりました。一応、自由行動となっておりますが、ご希望がありましたら案内の者を手配させていただきます。いかがいたしましょうか?」


 そのフィールに、ウォルターが問う。


「そうだね。フィールさん、よろしかったらあなたに案内してもらいたいんだが、どうかね?」

「え? わたくしが――、ですか?」


 フィールは言葉を詰らせる。彼らの言葉を耳にして弾かれる様に振り向き、驚きの言葉を発した。加えて、ガドニックがさらに告げる。


「フィール、私からも頼むよ。それに君なら案内ぐらい軽いものだろ?」

「はい。わたくしはかまいませんが」


 フィールは戸惑いながらも頷いた。その顔には、少なからず喜びの表情が浮かんでいる。初対面で、しかも、他国のVIPの人間にアンドロイドの自分がこれほどまで好意的にされる事に驚いている反面、心底からうれしさを感じてもいる。


「かしこまりました。慎んで、お引き受け致します」


 フィールは笑顔で彼らの求めに応じていた。


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