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第1話 50000m上空にて/未来都市へ

――未来世界構想サミット――


 21世紀を向かえて、世界は切迫していた。何よりも「資源不足」が、21世紀の国際世界に暗い影を指していた。

 枯渇寸前の石油資源、

 一考に遅々として進まぬ新エネルギー資源開発とその実用化、

 国際間での資源確保にまつわる対立、

 自然・天然資源の無駄な消費、……etc.


 その他に、先進国と発展途上国との間の「南北問題」も20世紀の時代から引きずったままであり、また、21世紀になり急速に発達してきたアジア諸国と欧米との間で新たに起こった「東西摩擦問題」も巨大な国際紛争の火種になりつつあった。冷戦終結以後、国際世界における軍事バランスはシーソーゲームのように乱昇降を繰り返し、いつどういう事態に至るのか、予測はまったくつかない。

 もはや政治家や政府レベルでは、これらの問題は一行に解決する兆しは無い。


『――ならば、我々の手で解決しようではないか――』


 そう考え提唱した人々が21世紀になり世界中に姿を現し始めたのである。

 先のケッツェンバーグや、ガドニックの属する円卓の会などを始めとして、世界中様々な人物たちが静かにその行動を起こした。国際コンピュータ通信ネットワーク上で意見交換をし、その後散発的に直接の会合を行ない、次第に賛同を集めてその規模が肥大して行った。

 彼らは、国際コンピュータ通信ネットワーク上での単なるコミュニティーボードから始まり、実際の行動を伴う実動集団へと、その活動を成長させた。

 その彼らの活動の中から生み出されたものこそ、21世紀の国際世界を改善し人類の理想的な発展に向けて導くための『国際社会誘導プログラム』それが『国際未来世界構想』であった。


 それから現在――

 彼らの活動は『国際未来世界構想サミット』と言う形で世界に認知された。

 その第2回サミットが日本・東京の、ここ有明1000mビルにて開催される運びとなった。そしてこの日、そのオープニングセレモニーが正午から開催されようとしていたのである。

 無論、サミットの発起人を多く含む欧州の科学アカデミー諸団体は、活発なサミット参加を行なっていた。彼らは今回も空路を越え、極東の島国へと来訪したのである。

 本来であるなら前日のうちに来日すべきところなのだろうが、それは日々、研究活動や学術活動など様々な役目のために多忙を極めている。日本時間で当日の朝にたどり着くだけでもやっとであったのだ。


 降下中は機体が、乱気流や大気の層により大変不安定になる。今も、機内の乗客向けの警告メッセージランプがチャイムとともに点滅した。


【 すみやかに着席して下さい 】


 そのシグナルに、通路などに立っていた者は自分のシートへと帰って行く。


 機内のスクリーンの映像が切り替わる。

 長い降下軌道も終盤になり、いよいよ空港へのランディングコースへとアプローチする。20世紀の頃は、米軍基地などとの空域官制の兼ね合いもあり、北方面からの空港侵入ルートは厳しく制限されていた。


 しかし現在は違う。海上空港の構築を機に大規模な空域調整がなされ、比較的楽に空港へアプローチする事ができる。今も、都心上空をなめるように機は北西方向から侵入する。

 機内のスクリーンには機体前方の光景が、機載カメラから取り込まれ映されている。

 

 機内のあちこちから感嘆の声が洩れる。時刻は午前7時、太陽もようやく都市に十分な光をもたらし始めたばかりだ。

 その陰影の強烈に浮び上がる光景に、東京は強烈な発展のエナジーを解き放つ。


 スクリーン映しだされる首都圏・東京の都市風景――

 機体から見て、右手に多摩方面をはじめとする新市街地域、左手にJR常磐・東北線方面に延びる旧市街地域がある。

 眼下には、都心の最重要地域があり、そこを核として、放射状にあらゆる方向へと日本の心臓部は延びていた。

 今、スペースプレーンの機体の向かう先に、大きく高い建造物がそびえている。


「あれが、有明1000mビルか」

「今回の我々の目的地」

「今度の首都改造計画の中心シンボル」


 機内の中で散発的に声がする。

 それはまだ、第1期分の区画しか完成していないにもかかわらず、知名度の上では海上空港よりも上らしい。海上空港よりも、その存在を知っているものは明らかに多かった。誰が言うともなく、その建物の名称が囁かれる。

 

『有明1000mビル』

 

 もはや、そこは一種の街だ。

 万単位で人が住み――、職を得て――、学び――、そして自然の営みを続ける。場合によれば、一生そこから出ずに暮らす事も不可能ではない。

 東京と言う街は今、23区と言う狭いキャパシティを捨て、全関東圏へとそのエリアを拡大しつつある。この地、有明は、そのための発信地にして、最大の聖域たらんとしていたのである。

 今、日本は首都東京を全関東規模にまで広げ、機能分散・権利委譲をはじめていた。そして東京湾沿岸のベイエリアは、東京はおろか、周囲の県をまきこんでの、大規模開発の中心地となったのである。

 そんなおりに有明1000mビルは計画され造られた。それは、政治的意味を持って世界に向けて発信されるメモリアルモニュメントである。


 時に、2039年11月3日

『国際未来世界構想サミット』は、その1000mビルにて催される。

 それはまさに、日本と国際社会との歴史的シンクロの瞬間であるのだ。


 機内にシートベルト着用のサインが灯った。ベルトを締める金属音とともに機内に沈黙が訪れる。

 瞬間、機体のコンバインドサイクルエンジンが逆噴射を始めた。機内にジェット噴射の豪音が微かに響いている。

 ガドニックはシートの中で『彼ら』に会える事に、一人、喜びを感じ微笑みを洩らした。


「君にも会えるかな? グラウザー」


 その呟きに気付いた者は誰も居なかった。




<補足データ>――――――――――――――――――――――――――


【 有明1000mビル 】


 21世紀の東京湾沖合展開における中心地である有明の地の外れに位置し、商業/産業/マスコミ/各種情報網の、巨大コミニュケーションエリアとなるべく構築された一大モニュメントだ。


 2030年に建築開始、地下60m、予定地上高1000m、直径380m、現時点の建築高は280mである。

 ビルの基本構造は、基礎構造物から最上階部までを貫通する3本の巨大支柱と、厚さ10mの人工地盤体、そして巨大な外壁からなり、それらの応力で支えられた反密閉式の巨大ボックス構造が主となる。基本的にビルは六角形状であり6つの壁を組合されている。

 そして、1つのボックスが1つのブロックとなり、それらが積み重ねられるように全てで14段で一つのビルとなるのだ

 壁面には、幾段にもなる巨大な可動ルーバーも備り、一年を通じ自然の風がビル内を吹き抜け、光通過性の壁面からは十分な日光も確保できる。夏は十分な涼をとり、冬は完璧な暖をとる。単なる巨大ビルとは一線を隔する自然環境の再現がなされていた。

 各ブロックは機構的にも独立しており、水道・電力・燃料その他の自己完結エネルギーシステムや、物資移送専用の高速シャトルエレベーター、衛星回線・CATV・ビル内情報ハイウェイなどの高機能ビル内LANなどを有している。


 そして、ビル内交通機関として設けられているのが、超大型ゴンドラタイプのリニアエレベーターと、ビル内を連続移動できる螺旋モノレールの2つである。

 ゴンドラエレベーターは巨大支柱表面に設置された3列のレール上を自力で走行するタイプである。ケーブルで牽引されるタイプではないため、列車のようにレール上を複数のゴンドラが連続走行している。さらに螺旋モノレールは各フロアを10階ほどおきに停車する。リニアモーター駆動で最上部と最下層部で上下線がリンクし循環運転を可能としている。

 それはまさに単なるビル内エレベーターの域を超え、1つの都市用交通機関と呼ぶにふさわしいものである。

 

 ビル内の各ブロック毎の空間には、ビル内副建築と言える子ビルも建設可能である。

 避難区画・類焼防止区画としての自由空間やレクリエーションエリアもあり、ビル内空間の民間方面への分割分譲もされている。されらに子ビルなどの諸建築物はスカイデッキや空中台地などで、互いに他の建築物と連結可能となっている。

 

 職場としてビジネス区画、産業工業区画

 教育・学問の場としての教育・研究施設区画

 商業・娯楽の場としてのプロムナード・コミニュケーション区画

 街としての基本たる、居住区画

 そしてビルの管理区画――

 それはまさに既存の超高層建築物とは一線を画す立体化巨大都市であるのだ。


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