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第1話 50000m上空にて/眼下の未来

 ガドニックはシートにゆったりと身を横たえながら、深く思いを馳せている。


「そうだな――」


 ガドニックは一人呟くと、スーツの内ポケットから小型の携帯データターミナルを取り出した。


「モラルと倫理を生まれながらに持ったアンドロイド」


 手帳型のデータターミナルを片手で開くと、親指でそのパネル画面を操作する。


「それは彼らかもしれんな」


 データベースソフトを起動させ文書ファイルを検索する。

 その上をいくつかの文書画像が映し出され、そこには数体のアンドロイドの映像が現れ、そこにはこう記されていた。


【――cooperte to Japan Police Department――】


ガドニックはそれを満足げに見つめる。


【 No.1:Atras = used for MassCriminal Investigation on 4th Criminal Investigation Section. 】


【 No.2:Data Unknown 】


【 No.3:Century = used for Juvenile Delinquency Investigation,TraficMob Arrest on Juvenile Delinquency Section,Trafic Section,(1th Police Detictive Section) . 】


【 No.4:Dialio = used for Information Criminal Investigation on Info-rmation Mobile Party (under the 4th Public Safety Section) 】


【 No.5:Eriot = used for CounterAttack to MechanizedCriminal onMobile Party. 】


【 No.6:Feel = used for Grobal Criminal Investigation on 1th Crimi-nal Investigation Section. 】


 ガドニックは画面に6つほどのデータを出したが、別フォルダーにまだもう一つのデーターがあることを思い出す。


「そうだ、7つ目が」


 データターミナルを操作してさらなるデータを探す。だが、彼の意に反して7つ目はなかなか姿を表わさない。


「どこだったかな? 最近整理して居なかったからな」


 その時、彼の背後から声がする。


「どうしたチャーリー」


 チャーリーとはガドニックのニックネームである。ガドニックは背後を振り向く。そこに、長身で顎髭の豊かな男性が立っていた。


「あぁ、エドか」

「あぁ、じゃねぇだろ! なーに、にやにやしてる。もうすぐ着陸だぜ。仕事なら後にしろよ」


 彼はガドニックと親しいらしく、気さくに砕けた口振りで話し掛けている。その手には、機内サービスの軽い酒の入ったグラスがある。その一方で、彼の視線は、ガドニックの手の中のデータターミナルへと向いている。


「ときにお前、何を見てる?」


 彼はその身を乗り出してきた。それをしてガドニックはさりげなくデータターミナルを閉じた。


「すまんね、プライベートなデータなんだ」


 ガドニックは力強く微笑む。目線の中に厳しさを混ぜ込んだ警告のための微笑みである。男はその視線に気付きガドニックが自らの研究データは他人には容易には見せない秘密主義であることを思い出してため息をついた。


「そうかい、そいつはすまなかった。でもそいつも」


 男は、不意に身を乗り出す。


「お前の作品なんだろ?」

「作品?」

「お前が最近、海外の組織と提携していることは聞いてたんだ。そいつも、お前さんの新しいアンドロイドだろ?」

「ノーコメントだ」


 ガドニックは口元に微かに笑みを浮かべつつそれっきり黙り込んだ。そして、シートの中に深く体を沈めじっと目をつむる。男の方も、ガドニックの口の硬さには慣れているのか、あっさりと諦めて自分のシートへと帰って行った。

 ガドニックはその気配を確認すると、再びデータターミナルを開く。そして、先程のデータ検索を続ける。1分ほどして画面が切り替わり、登録日付の最も新しいデータが現れた。


【 No.7:Glouser … 】


 そこにはその記載で始まる7番目のアンドロイドが記されている。ガドニックは満足げである。

 

 そして、機内放送は乗客にメッセージを告げる。


「申し上げます。当機はこれより、目的地空港に向けまして降下の体勢を取らせて頂きます。なお、降下の際に、成層圏から対流圏へといくつかの大気の層を通過致します。若干の気圧の変化により強い不快感を覚える場合がございますので、いずれのお客様もシートにお付きになりお静かになさいますよう、くれぐれもお願い申し上げます。なおご気分の悪くなられた方が居られましたら、キャビンアテンダントまでお知らせください」


 機体は、機体の頭をゆっくりと持ち上げて行く。ちょうどスペースシャトルの様に、リフティングボディ効果で降下速度にブレーキをかけるためだ。

 とは言え、民間旅客機であるこの機体では、スペースシャトルの様に、急激なまるで落下するような降下は行なえない。機体は長い距離をじっくりと時間をかけて降りて行く。その着陸態勢までの時間、機内のスクリーンには先ほどの広報映像の続きが映しだされている。


 そのスクリーンの中には日本の首都のシンボルとなる建築物の中でも、とりわけ異彩を放つとある2つの物に注目が集まっていた。その映像が流れる最中、ガドニックの座席にもたれかかる人物が居る。軽い香水の香りが漂ってくる方を見上げれば、そこには成熟した英国美女の顔があった。


「ほらこれよ! スノークリスタル! 世界最大の海上空港!」


 スクリーンの中には6角の雪の結晶を模したような、壮麗なデザインの空港が映し出されている。彼女はガドニックの頭の上でその映像に食い入っていた。


「リズ、落ち着きたまえ――」

「大丈夫よ、チャーリー」

「おいおい」


 ガドニックは思わず苦笑する。頭上の女性はガドニックたちの同行者の一人でエリザベスだ。怒るよりも呆れているのは、おそらくはこれが彼女にとって毎度の事だからだろう。


「チャーリーも、あれ見てよ」


 リズと呼ばれた彼女は、顎でしゃくってスクリーンを指ししめす。その仕草に彼女の長いブロンドは揺れる。


「東京湾海上国際空港、アジアはおろか世界でも最大級の海上空港、そして、アジア圏でもトップクラスの国際ハブ空港よ」

「世界一か」

「えぇ、直径が約7キロオーバー、滑走路は3000mクラスが6基、この大気圏外航空機の離発着できる6000mクラスの滑走路もレイアウト可能。そして、最大の特徴がその滑走路のシステムで基本構造体は全てが海に浮かぶ浮体建造物、早い話、超巨大な空母を寄せあつめて空港をつくりだしたようなものなのよ」

「メガフロートだったか」

「えぇ、日本の卓越した造船技術をベースにした洋上構造物のシステム体系ね。それをフルに駆使してあれだけ巨大な人工島を作ってしまったのよ」

「理論としては聞いていたが実際に目の当たりにすると驚くべきものがあるな」

「でしょう?!」


 ガドニックの反応にエリザベスははにかんで見せる。


「それと、あの雪の結晶の様なイカした巨大空港は、単独の建築計画じゃないのよ」

「東京アトランティスか?」

「えぇ、それもあるけど、正しくは『関東ミレニアム』と呼ばれる半世紀スケールの、巨大国際プロジェクトの一部として造られたものなのよ。そのため、日本国内はもとより、汎アジア規模で、各国の巨大企業が押し寄せて来ているの。その辺の事情はチャーリーも知ってるでしょ?」


 ガドニックは頷く。


「あぁ、私も最近は欧米だけでなく、アジア諸国ともつきあいが増えた。むしろ今は、アジアの方が経済・産業ともに活発だな」

「そして、その中心に位置し、アジア経済の中枢となるのが、この日本と言う訳だ」


 2人の会話に、声がはさまれる。頭の禿た老学者のメイヤーだ。


「21世紀に入ってから、アジアの国々は中国・台湾・インドなどを中心に急激に成長した。いずれも、東洋の産業革命とも言われる様な大規模な産業革新が理由だ。その中でも日本は、技術面だけでなく。政治・経済の両面において、意見調整役的な重要な政治ポジションを確保した。その結果、日本は今、世界で最も注目されておる」

「いや、それだけではないな」


 また、人影が増えた。黒髪に黒小丸のサングラスをしたカレルだ。


「21世紀初頭の朝鮮半島を中心とした政治危機、これが日本とアジア圏を国際社会的に強くした。言い換えれば、アジア独自の政治問題の解決システムが確立されたのだ。そしてその背景にあるのは、日本のロボット技術の独占が大きなウェイトを占めている」

「今や――」


 先程のエドが会話に加わる。


「戦争すらロボットに代行されたからな。それに、ロボットの産業や経済への導入で最も成功しているのは、他ならぬ日本と、そしてアジア諸国なんだ。連中たちアジア人種は我々、欧州の者よりもよほどロボットと相性がいいらしい」


 エドは皮肉混じりにわざとヒネたような口振りだ。その意見にガドニックも頷いた。


「まったく、その通りだ。経済や産業はもとより、社会全体におけるロボットのありかたと言える物を示した国、それが日本、我々、世界各国は彼らに大きく学ばねばならんのだよ」


 皆が頷く。その場の4人だけでなく、機内の他の者にも彼らの会話に頷いているものが居る。ただエリザベスだけは、小首をかしげ疑わしげに考えている。そして、ガドニックたちの前のシートの人物が振り向いた。


「そうです、だからこそ我々の『国際未来世界構想サミット』があるのですよ」


 振り向いたのはゲルマン風の風貌の男性であった。彼こそ、この乗客たち欧州科学アカデミー使節団のリーダーである独国のケッツェンバーグである。


「それはそうと『円卓の会』のお歴々も早くも盛り上がってらっしゃいますな」


 ケッツェンバーグはシート越しに語りかける。


『円卓の会』――ガドニックたちはその言葉に照れ隠しも混じってか軽く声を立てて笑い合う。そして、ガドニックはこう返答した。


「いや、これから盛り上がるのですよ」


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