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第9話 6号フィール/鋼檻

 エリオットが疾駆する。

 両脚の底部に取り付けたローラーダッシュ用の走行装置で全速で駆け抜ける。

 彼に下された任務であるスネイルドラゴンの制圧制圧は無事完了した。

 次なる任務はアトラスとセンチュリーの後方支援だ。

 

 エリオットは思い出す。今夜の出動の際の流れを。

 

 彼には、彼の身柄を預り指導監督する管理責任者が居る。警視庁警備部警備一課の課長・近衛仁一警視だ。ディアリオと彼が属する情報機動隊経由でアトラスとセンチュリーの動向は近衛の元へと知らされていた。その報を聞いた近衛は、迷うこと無くエリオットに出動を命じた。

 正式な出動ではないが、戦闘装備を準備し第1種レベル待機で臨戦態勢を整えた上で、高速ヘリの出動準備をしろと言う。

 エリオットは任務の指令に対してはイエスがあるのみでノーはない。警備課に配属され。近衛から指導を受けて以来、そうあるべきと信じている。だが、出動命令に足る証拠も無しに現場出動の第1種レベル待機を行えという指示には流石に疑問が湧いていた。

 その疑問を心の奥で押し隠したまま気配を潜めてヘリの機内で待機していたのだが、今、事ここに至って、上司である近衛の判断と状況への読みが正しかったことを思い知った。


 ならば――

 

「自分はその指示を完璧に全うするだけだ」


 それが重武装を施された特攻装警として生を受けた自分に相応しい生き方なのだと繰り返し明確な確信を抱くのだ。

 岸壁沿いに走りぬけ、コンテナヤード中央付近の例の六車線の通りへと差し掛かる。そして、急ターンを切ってアトラスたちの方へと走りだしたその時だった。

 

〔エリオット! あのコンテナを撃て!〕


 特攻装警の長兄であるアトラスの声がする。アトラスが指示する先にはトップリフターで持ち上げられた1基のコンテナがある。

 

〔了解〕


 短くシンプルに返答してエリオットは戦闘装備の1つを起動させた。


【 指向性放電兵器、起動          】


 ハイロンが義肢に装備していた放電兵器とほぼ同等の原理の兵器で、高圧収束放電をピンポイントで狙った箇所へと正確に命中させることが出来る。ただし、出力は比較にならないほど強力だ。

 エリオットは両肩に備わったそれを作動させ瞬時に正確に狙いを定める。そして、体内動力から超高圧キャパシタコンデンサーに電力を蓄え、数秒のタイムラグの後、2つの砲口から二条の紫電を迸らせる。そして、二本の槍で貫くかのようにトップリフターで持ち上げられたコンテナを撃ちぬいた。

 もし、あのコンテナの中に敵アンドロイドが居るとするのなら、火砲による銃撃で狙うよりもこうした雷撃系の兵装のほうが有利だ。コンテナの外板から内部に伝って電気的ショックが制圧対象のアンドロイドにダメージを与えることもありえるからだ。

 

 エリオットが与えた超高圧電撃はトップリフターの油圧シリンダーにもダメージを与えた。

 油圧作動オイルの一部を瞬時に沸騰させシリンダーを破裂させる。トップリフターの昇降アームは力を失いコンテナを落下させて一気に地上へと叩きつけた。

 

――ズドォォオン!――

 

 轟音を上げ40フィートコンテナは地上へと落下する。中に入っているのが生身の人間であるならダメージは免れない。だが、アトラスたちには確信のようなものが感じられるのだ。敵はまだ生存していると。

 そして、アトラスはレッドパイソンを。エリオットは可搬式のガトリングカノンを。眼前で形を歪めたコンテナへと向ける。警戒すること数秒ほど、変化はすぐにおとずれた。


 コンテナの内部から打撃音がする。一撃目でアトラスたちに向いた側が内側から外側へと大きくねじ曲がる。次いで2撃目の打撃で、コンテナの側面パネルは接合面を破壊され数メートルほど吹き飛ばされた。

 スローモーションのように側面パネルが空を回転して、耳障りな残響をまき散らしながらアスファルトの上を幾度も転げまわった。それは人間では成し得ない力。異形の機械としてのアンドロイドであるからこそなし得た結果だ。

 

「これが国際級のテロリストのクオリティか――」


 もはや猶予はない。敵を視認するよりも前にダメージを与えるべくアトラスは攻撃を開始した。

 

「撃て!!」

 

 その言葉と同時にレッドパイソンを最大レベルで引き金を引く。エリオットもアトラスに遅れること無くガトリングカノンのトリガーを引く。レッドパイソンの砲口からほとばしるレーザーの激光が攻撃目標に衝撃波を生む。エリオットのガトリングカノンは赤熱した鉛弾を寸分の狂いなく敵が立っているであろう場所に向けて叩き込む。

 さらにそれに加えてアトラスは腰の後ろからソードオフしたような短銃身のショットガンを引き抜くと白煙の向こうに見えるシルエットの頭部を狙って11番口径のスラッグシェルを数発叩き込んだ。

 こう言う状況下では遠慮や配慮は一切要らない。敵が人間でないと確信が得られた時は、可能な限りの攻撃を先手を切って行うべきなのだ。アトラスは、そう常日頃の過酷な任務体験からウンザリするほど体験していた。


 現状、撃ち込める弾を撃ち込めるだけ打ち込むとアトラスはエリオットにハンドサインで攻撃の停止を指示した。敵が常識の範囲内の存在であるのなら、敵からの反撃はありえないはずだ。

 左手でソードオフショットガンに追加のショットシェルを装填しながら沈黙して反応を覗えば、帰ってきた反応は無力化された静寂ではなく、重く鳴り響きしっかりとした歩調の足取りであった。

 

「これだけ射っても動けるのか!?」


 アトラスは驚愕していた。コンテナの外板パネルをたった2撃で吹き飛ばす馬鹿げた腕力もさることながら、一体どんな防御能力を持っているのかアトラスには見当すらつかなかった。

 白煙が一陣の風で吹き飛ばされる。そして、その白煙の向こうから現れたのは――

 

〔エリオット、来るぞ!〕

〔了解〕


――1人のリアルヒューマノイドタイプのアンドロイドだった。

 

 白髪オールバック、素肌と顔立ちは褐色がかった白人系。彫りが深く異常なまでに眼光鋭い彼はバイカー風のレザージャケットにレザーロングパンツを着込んでいる。ただそれに加えてさらに異様なのはその全身に巻き付いている金属メッシュ製のベルトである。

 腕や足はもとより胴体にも巻き付いていて、その四肢の自由を許す程度にベルトによる拘束は解除され、彼が臨戦態勢を許されていることが読み取れた。

 

「どうやら普段は行動を制限されているらしいな――」


 あれだけの攻撃を加えたのにも変わらず、衣類の各部が傷んでいるだけで、頭部にも胴体にも致命的な傷を負っているようには見えない。その鋭い眼光をアトラスとエリオットに向けてくると、敵である彼は数歩駆け出し地面に転がっていたコンテナの側面パネルを拾い上げた。

 まるで発泡スチロールのパネルでも扱うかのように安々と拾いあげる。そして、それを横薙ぎに振り回すとアトラスに向けて鋭い視線を走らせた。

 今度は彼の攻撃ターンだ。スチール製の大きなパネルをブーメランでも扱うかのように投げつけてくる。


 アトラスは飛来してくる金属パネルを視界に捉えつつ真っ向から迎え撃つ覚悟を決めた。両拳の中に仕込まれているパルサーブレードを作動させると臆すること無く自ら飛び出したのだ。


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