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第9話 6号フィール/連携反撃

 トレーラーは角度を大きく変えたが、停止すること無くそのまま走り続けていた。何台かの停車中のトレーラーに接触しながら広いトレーラーターミナル内を縦横無尽に走り抜ける。そして、南本牧埠頭へと架かる連絡橋を登り始めた。

 

「まずい!」


 フィールは強い焦りを感じるが、現状ではフィールにとっては打つ手は無いに等しかった。だがこのまま逃すことだけは絶対に許す訳にはいかない。折れそうになる気持ちを必死に繋ぎ止めるとフィールは上空から距離をとってトレーラーの監視と追跡に専念することを決めた。打開策が、必ず得られると自分に言い聞かせて――

 すると、そこにフィールの体内回線を通じてディアリオの声がする。


〔フィール!〕

〔ディ兄ぃ?!〕

〔埠頭内部の施設制圧は終えた! 湾岸道路付近のカメラ映像と交通システムは耐侵入措置を完了した。今から合流して、なんとしてもそのトレーラーを停める!〕


 兄であるディアリオの冷静で毅然とした声が、折れかけていたフィールの気持ちを強くしてくれた。思わず文句混じりの言葉も出ようというものだ。

 

〔遅ーい! 埠頭の敷地出られちゃったよ!〕

〔静止はできなかったか?〕

〔あたしの装備では太刀打ち出来ないよ、ものすごい電磁波使いが居るの! あたしの装備とすっごい相性悪いのよ!〕

〔そうか、だが諦めるのはまだ速いぞ――〕


 その言葉と同時にトレーラーターミナルの敷地内に停められていた2台のトレーラーがエンジンを始動させた。

 

【ディアリオ内部サブ頭脳:#1/#2    】

【        外部ネットアクセス処理開始】

【ネット回線優先順位度最優先        】

【        都市交通システム制御権取得】

【南本牧埠頭内トレーラーターミナル内――  】

【             停車車輌検索開始】

【  同じく、神奈川陸運局より車両データ取得】

【                     】

【ナンバープレート番号リスト        】

【1:横浜107ふ3144         】

【2:横浜107せ3179         】

【                     】

【自動運転システム用マスターIDキーデータ 】

【         警視庁警察権限により取得】

【体内サブプロセッサー#1により3144を 】

【   同#2により3179を制圧、即時完了】

【各車両、盗難防止システム停止       】

【エンジン始動。走行開始          】


 ディアリオにはメインの頭脳の他に、自我を持たないサブ頭脳プロセッサーが5基備わっている。いわゆる、マルチタスク制御などよりもはるかに高度、かつ自由自在に、複数の作業を同時にこなすことができる。

 今度の場合は、特攻装警としての警察権限を駆使して、トレーラーターミナルに停車させてあったうちの2台を選び出し調べあげると、その自動運転システムを完璧に制圧する。そして、サブ頭脳1基に1台つづトレーラーを関連させるとすぐさまエンジンを始動させる。そして、トレーラーを発進させて、後にフィールへと呼びかけた。

 

〔フィール! こちらもトレーラーを使う。先行してディンキー一味を追跡してくれ、私も合流する! その後に今度こそ停める〕

〔ちょ! 兄ぃ、使うって、それ民間のじゃない!〕

〔大丈夫だ。すでに盗難車両として案件登録した。損害が出ても保険でまかなえる〕

〔はぁ? そういう問題?〕


 フィールは呆れつつも思わず笑い声を上げそうになる。堅物だと言う印象の強いディアリオだが、目的を達成するためなら手段を選ばない事が時折ある。それでいて後腐れの無いように裏工作を忘れないあたり、普段が真面目なだけあってことさらタチが悪い。

 こうなるとなにを言っても聞かないだろう。そう云うところはアトラスやセンチュリーと言った他の兄達と似ている。犯罪制圧と犯人逮捕にかける執念が何より強いのだ。

 フィールは思う、私達は兄弟なのだと――


〔それじゃ私、上空から追跡するね〕

〔頼む!〕


 今度は1人ではない。兄であるディアリオと一緒だ。今度こそテロリストの逃走を静止しなければならない。フィールはこれがラストチャンスであることを感じながら飛翔すると、一路、逃げ去った敵トレーラーの追跡を再開した。

 

 そして――

 

 南本牧埠頭を脱出、妨害工作を振り切った逃走トレーラーは支線道路から湾岸道路の本線へと合流、疾走を開始した。

 今、フィールの眼下では逃走トレーラーがけたたましくクラクションを鳴らし通りすがる一般車輌を威嚇し続けている。いや、威嚇するだけではない。南本牧のトレーラーターミナルで行ったように、逃走に邪魔な一般車両を弾き飛ばすかの勢いでトレーラーヘッドを執拗にぶつけていた。

 上空からの確認では、すでに2台ほど壁面に激突して事故を誘発していた。

 

「酷い――」


 フィールは今、眼下にとらえている物がテロリストであると言う事実をまざまざと見せつけられていた。そう、彼らには『己れの主張』しか存在しないのだ。彼らがそもそも他者を容認するのなら、こんな暴走行為自体するはずがないのだ。

 その暴走トレーラーは、道路の右手に本牧埠頭を望みながら、本牧埠頭ランプを北上していく。その先には本牧ジャンクションがあり左手には山下公園が、右手にはベイブリッジが有り、その先は羽田空港へと続く湾岸線へと伸びている。

 フィールはその逃走トレーラーを眼下に追跡しながら高速道路の状況を視認していく。

 高速道路の案内掲示には――

 

【非常事態発生、首都高速湾岸線B号線、緊急封鎖】


――と表示されているのが見えている。同じく、音声通信に対して耳を澄ませば、地上の高速隊員に対して神奈川県警の基幹系の通信網が情報提供をしていた。

 

〔特攻装警第4号機ディアリオより神奈川県警交通部へ交通規制要請――、現在、首都高速道路湾岸線B号線において暴走車輌案件発生中。これを6号フィール、4号ディアリオが暴走車輌を追跡中。本案件はテロ事件のため一般車両を付近一帯の首都高速線上から一般道路へと退避誘導することを優先する。同時に、暴走車輌の本牧ジャンクション、及び、大黒ジャンクションで、湾岸線B号線以外への侵入を阻止するためバリケードを設置中のため付近の神奈川県警、及び、警視庁の警察車両はこれに最優先で協力せよ〕

 

 ディアリオだ。フィールの兄である彼が、手を回したのだ。 

 そして、その通信を受信した応答の通信メッセージが無線回線上に飛び交っていた。

 

〔こちら神奈川高速1号了解、本牧ジャンクションにて誘導を開始します〕

〔こちら山手2号了解、これより本牧埠頭ランプにて誘導開始します〕

〔こちら加賀町27号了解、交通誘導開始します〕


 事件付近を走行しているパトカーや白バイから続々と返信が返ってきている。視線を変えれば湾岸線を走行する車輌の陰はまばらだ。それだけではない。暴走トレーラーが本牧ジャンクションを通過した辺りから、周辺道路から湾岸道路へと流入する車輌が途絶えていた。逃走するトレーラーを捕らえるには絶好の状況だった。フィールは感謝を込めて一般通信回線へとメッセージを返した。

 

〔こちら特攻装警6号フィール、ご協力感謝します!〕

〔こちら神奈川高速1号、ご武運を!〕


 返ってきたメッセージはシンプルながら誠意に満ちていた。

 ベイブリッジを登り大黒ジャンクションへと向かう。煌々とライトアップされたベイブリッジを、暴走トレーラーが走り抜けていく。湾岸線B号線から大黒ランプへと降りる分岐路には、パトカーが5台ほど並び、バリケードを成していた。

 今、暴走トレーラーは。誘導されるがままに湾岸線B号線をひた走っていた。その先には鶴見つばさ橋が、そして、扇島があるだろう。その大黒ジャンクションをトレーラーが通りすぎた、その時だ。

 

〔フィール、待たせた!〕


 体内回線にディアリオの声がする。

 振り向けば、ものすごい加速で2台のトレーラーがベイブリッジの上を突っ走ってくるのが見える。そのトレーラーの背後には楕円シルエットのライトウェイトクーペが追走してくる。

 エアロパーツを伴ったブルーメタリックのその車両は、警視庁情報機動隊専用で、対電子戦、対電脳戦に特化した特殊車両だ。正式名を〝ラプター〟と言う。


〔やっと来た! 早くしないともっと被害広がるよ!?〕

〔大丈夫だ、すでに湾岸線の封鎖は完了した。一般車両も外部へ退避させた。出入口であるランプも閉鎖済み、残るは犯人たちのトレーラーを停めるだけだ〕 

〔それじゃ被害拡大は防げるのね?〕

〔もちろんだ。敵は袋のネズミだ。もう逃げられない〕


 ディアリオの自信あり気な声がする。だが、フィールはあらためて問う。 


〔でも、どうやってアレを停めるの?〕


 フィールの当然過ぎる疑問を受けて、ディアリオが出した答えが、今、フィールの眼下に広がろうとしていた。

 

〔こうするんだ!!〕


 ベイブリッジのすべての灯りとライトアップが落ちる。 

 次いで大黒ふ頭全域の電灯照明が遮断される。当然、鶴見つばさ橋も灯りが落とされる。

 それに従うかの様に、湾岸線B号線はベイブリッジから川崎航路トンネルに至るまで、すべての街路と照明がシャットダウンする。扇島、東扇島の敷地内の各施設の照明も、湾岸線を孤立させるかのように灯りを止めて、大規模な暗闇を創りだしたのだ。

 

〔先程から、首都高速の管制システムに繰り返し侵入行為が行われている。だが、情報機動隊と神奈川県警の協力を得て交通管制のすべてのシステムに対する防護措置がとられている。ネットを経由した監視カメラ・街頭カメラ映像を封鎖した上で、敵の〝目〟を暗闇で妨害すれば、遠隔操作の運転は困難になるはずだ〕


 つまり――ディアリオは、ディンキー一派の逃走を逆手に取り、この湾岸線と扇島・東扇島を、暗闇に封じられた巨大なトラップに作り変えてしまったのだ。フィールは心のなかで驚愕していたが、ディアリオの策はそれだけにとどまらなかった。

 

〔そのうえで、こちらのトレーラーのヘッドライトも消灯する。だからフィール――、お前の目で暗視して、位置関係データを私に回すんだ! お前の目と私の遠隔操作能力で、暴走車輌に一撃を食らわせるぞ!〕


 策は決まった。ならば、それにかけるしかない。

 

〔了解! こちらの全視聴覚をそちらに回します〕


 フィールは体内回線を通じ、自らの視聴覚で得られたデータをすべて、ディアリオにバイパスさせる。ここからはディアリオの目に徹すると決めた。

 

〔作戦開始!〕


 そのキーワードをスイッチに、サブ頭脳の#1と#2が2台のトレーラーを急加速させていった。


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