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第8話 戦闘・第2ラウンド/凶刃

 センチュリーとアトラスは、フィールからのメッセージを待ちながら再び二手に分かれて歩き出す。夜の暗がりの中、街路灯の限られた明かりの中で二人は目的の人物を探そうとする。そして、フィールと邂逅した場所から200mほど離れた時だった。


〔こちらフィール、ハイロン発見!〕

〔どこだ?〕

〔兄ちゃんたちの居るところから南東に400mくらいの場所! 今、私の視覚映像を送るね!〕


 その言葉の後に、フィールが見えている映像が送られてくる。それを視認してセンチュリーが言う。


〔これ、さっきフッ化レーザーの野郎と戦った場所だ! 直行する!〕

〔分かった、俺も向かう!〕


 センチュリーの言葉にアトラスも告げる。

 二人はフィールからの映像を頼りに駆け抜けていく。明かりの減った深夜のコンテナヤード。コンテナ群が繁華街のペンシルビルのように立ち並ぶ中を駆け抜けて、表通りのような開けた6車線道路へと先に飛び出したのはセンチュリーだった。

 

「居た! 停まれ! ハイロン!」 


 一際、けたたましい声でセンチュリーが叫べば、3人ほどの護衛を付けたハイロンは必死に逃げ去ろうとしている。センチュリーに引き裂かれた片腕を抑えながら走る先には灯りを落として走り寄ってきた一台のバイクがあった。

 別な場所に姿を潜めて逃走担当のメンバーが隠れていたのだ。

 

「くそっ! 逃走用に隠してあったか!」


 焦るセンチュリーの視界の中、護衛の武装要員の3人が人垣となり、センチュリーへの威嚇攻撃をはじめる。手にしていた電磁レールガンのサブマシンガンを腰だめに構えるとセンチュリー目掛けて引き金を引く。

 無論、それはセンチュリーも想定していた事だ。長い間追い続けたあのハイロンを捕らえる絶好の機会だ。多少の無茶は通す事など覚悟の上だ。

 強力な加速や動体制御を可能にする【電磁気気流制御システム・ウィンダイバー】のトリガーを入れる。それと同時に両かかとのダッシュホイールを急回転させた


「逃すかよ! てめえだけは許すわけにゃいかねーんだよ!」


 叫びをあげつつ両腕の前腕を眼前で交差させて顔をガードする。そしてウィンダイバーとダッシュホイールによりセンチュリーは弾丸のようにダッシュする。

 こうなれば多少の弾丸の被弾などで彼を阻止できるものではない。3人のスネイルドラゴンに体当たりする勢いで、全身に浴びる弾丸を弾いていく。

 

「どけぇ!」

 

 怒号をあげるセンチュリーに、3人の戦闘要員のうちの1人が片手を動かした。腰の後ろに小型のハンドグレネードを隠し持っていたのだ。センチュリーもそれにすぐに気づいたのだが躱す余裕はもはやない。

 この場で使われるハンドグレネードならば対アンドロイド用に強化されたタイプなのは間違いなかった。

 敵がハンドグレネードの安全装置を外そうとモーションを始めたその時だ。

 数発の大型拳銃弾が3人のうちの2人を撃ち抜いていく。グレネードを使おうとした1人は頭部に、残る1人は脇腹に被弾した。

 その大型拳銃弾を放ったのはアトラスだ。

 

「行け! センチュリー!」


 物陰から遅れて姿を表したアトラスがデザートイーグルを構えつつ叫ぶ。その言葉に押されるようにセンチュリーがさらに加速を加えれば、上空から2本のナイフが火を吹いて飛来して、残る1人の両肩を貫いていた。

 

「フィール!」


 それは上空から見守っていたフィールだった。

 フィールは主攻撃アイテムとしてダイヤモンドセラミックス製の単分子ナイフを多用する。特にグリップ内に超小型の固体ロケットブースターを備えているので射程・威力ともに拳銃弾に並ぶとも劣らないものだ。


 ブースター付き短分子ナイフ――名称を【ダイヤモンドブレード】と呼ぶ。


 フィールはそのダイヤモンドブレードを二振り取り出して、センチュリーの背後の上空から投射した。これでハイロンを遮る者は残っていない。その手に握りしめているアクセルケーブルで捕らえるだけだ。


「くそっ! こんな所で!」


 急接近するセンチュリーの姿にハイロンは驚きを隠せない。それに予定外の出来事があまりに多かった。

 ディアリオの支援、エリオットと武装警官部隊の参戦、そしてフィール。ハイロンは、センチュリーの背後の上空から見下ろしているフィールの姿を忌々しげに睨みつけていた。

 かくなる上は――死なばもろともだ。

 苦し紛れに残る腕の高圧送電兵器のスイッチを入れるとセンチュリーにかざす。

 

 ――その時だった。


 コンテナヤードの中にはいくつかのコンテナ運搬用の作業機械がある。 

 ガントリークレーン・ストラドルキャリア・トランステナー――、そして、フォークリフトをさらに大型化したような機械であるトップリフター

 詰み並べられているコンテナ群のその陰から3機のトップリフターが姿を表した。

 いずれも巨大なコンテナをアームに掴んだまままで、1つがコンテナヤードの無人化ゲートへと向かい、1つがセンチュリーたちを遮るように割り込んでくる。残る1つはハイロンの頭上へとコンテナを運んでくる。

 

「なんだ?」


 センチュリーは驚きと戸惑いを隠せない。フィールもアトラスも同じだ。

 なぜならば――

 

「なにあれ? 無人?」

「誰が動かしている?」


 ――その3台のトップリフターにはドライバーは居なかった。無人で動き回っている。何者かが遠隔操作しているのだ。

 今、センチュリーの脳裏には不快な予感しか湧いてこない。今の彼にとって最悪の展開が待っているような――気がしてならない。

 必死にさらなる加速をしてセンチュリーは目の前を塞ごうとしている一台目のトップリフターをかいくぐった。そして、眼前あと10mにまでハイロンに肉薄する。

 絶対に生かしたまま捕らえる。それがセンチュリーの警察としての矜持であり、ハイロンが夜の街で暗躍することで若者たちを誤った道に引きずんだ事の罪を償わせる唯一の方法だった。なにより、ヤツにはまだまだたくさんの情報を吐いてもらわねばならないのだ。

 センチュリーの声がこだまする。

  

「ハイロォォン!!!」


 そして、ハイロンとセンチュリーのその頭上には、一基の40フィートコンテナが持ち上げられている。無慈悲なまでに陰鬱なシルエットをそれは伴っていた。その40フィートコンテナが、突如、微塵に粉砕された。

 

 その時、なにが起こったのか咄嗟には誰にも理解できなかった。

 コンテナが粉微塵に切り刻まれ破片をまき散らしている。

 そのコンテナの中から1人の長身の若者が舞い降りてくる。

 その若者は、濃紺の和装の白人で、右手に一振りの日本刀を携えていた。

 

 日本刀――、それをセンチュリーは嫌でも視認せざるを得ない。

 その若者が着地するのと同時に、彼が振り下ろす白刃はハイロンを頭の頂から、真一文字に彼を両断するだろう。まさに痛み無く一瞬の絶技――

 

――ズドッ――

 

 センチュリーは、自らの眼前に立っているハイロンが、真っ二つとなり、鮮血を吹きながら左右に分割されるさまを嫌でも目の当たりにせざるを得なかった。

 左右に両断されたハイロンを挟んで向かい合わせに、その者とセンチュリーは対峙していた。

 今、展開された惨劇を目の前にして、その向こう側に立っている者をセンチュリーは全神経を使って警戒していた。

 

 その者は剣士である。

 和装の侍のようにも見える。

 だが、細部をよく見れば彼が生身の人間では無い事にすぐに気づく。

 腰までかかる金髪のロングヘアに生身の人間と寸分変わらぬリアルな頭部――しかし、首から下は素肌に密着した濃紫のタイツスーツで合わせ目もファスナーもない。むしろ体表の各部に走る接合線の様なラインは彼の身体が人工物である事を物語っている。

 その人工物の肉体の上に濃紺無地の胴着を羽織り、腰から下に纏った黒地の袴には金糸銀糸で、髑髏の群れが地獄の亡者をむさぼる地獄絵図が描かれている。

 足には履物はない。足首から先は金属製の人工の足であり、剣を握る両手ともども、ガンメタリックの鈍い輝きを放っていた。

 日本刀を下げた剣士と言う姿こそ和風だが、それ以外は全て、彼が生身の日本人であることを全否定していた。間違いない、この者はアンドロイドである。

 

 そこであらためてセンチュリーは気づく。

 

(こいつの着物、血飛沫が染み付いてやがる――)


 それも尋常な染みの量ではない。吐き気をもよおすような血の匂いが伝わってくる染みの染まり方だ。その者は顔立ちこそ端整でいわゆる美青年と言えたが、その両目に宿した光には人間性のかけらもなかった。

 本能が叫んでいる。こいつは危険だ――と。

 センチュリーは最大限に警戒しつつ、そいつに尋ねた。

 

「おい、お前どこの生まれだ?」


 センチュリーは左半身と左足を前に、右足を後方に引いて、両腕を腰のあたりでゆるやかに構えた。

 アンドロイドの剣士はセンチュリーを前にして、両足を前後に開いて構えをとり始める。

 

「知らぬ。人を斬る事以外に関心が無いのでな。ただ――」


 そして、刀を正眼に構えて次なるターゲットをセンチュリーに定めた。

 

「――我が主が、極東の剣技に興味を抱いたが故に、我を生み出したとは聞いている」


 センチュリーは感じていた。彼との最初の一合が勝負の分かれ目になると。ひざを曲げ腰を低くして前傾をとる。そして両拳を固めると打撃を狙って構えをとる。

 

「主? そいつの名前って――」


 センチュリーは攻めに出た。両足に込めた力を開放しつつ、両足のホイールを全速で回転させる。

 

「マリオネット・ディンキーか?!」


 その言葉に弾かれるようにアンドロイド剣士の剣が振り上げられ空を翻る。

 鋭利な白刃がセンチュリーの頭部を狙う。と、同時に剣士は強く言い放った。

 

「その名を軽々しく唱えるな!! 下郎風情が!」


 鋭利な刃が振りぬかれる。その刃峰の先にセンチュリーは確かに存在していた。


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