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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/死闘編
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Part39 死闘・ドンキホーテ/副官ボルツ

 散発的に9ミリ弾の射撃が続く。それは無駄なあがきだったのかもしれない。所有していた武器が攻撃対象に対してあまりにも不似合いだったのは否めない。9ミリ電磁放電セラミック弾はサイボーグやアンドロイドを対象とした弾丸である。退却するのが賢明な判断だったかもしれない。

 それだけは絶対にできなかった。

 彼らは静かなる男である。そして、誇りあるロシア軍人である。

 マフィアの尖兵に身をやつしているとは言え、その身に刻まれた誇りまでは汚されない。

 彼らもまた護るもの。

 誇りを、

 尊厳を、

 同胞を、

 そして、命を――

 彼らは護るために今日の境遇を受け入れたのだ。

 

 彼らは知っている。

 失うことを、

 残されることを、

 悔やむことを、

 傷つくことを、

 後悔することを、

 抗うことを、

 足掻くことを、

 受け継ぐことを、

 そして〝戦う〟事の意味を。

 

 彼らは静かなる男たち。ロシア軍人としての誇りある過去を背負いし男たちである

 

 彼らは武器を取る。

 怒りをこめて、

 闘志をこめて、

 誇りをかけて、

 慈しみをこめて、

 そこに諦めという言葉は存在しなかったのである。

 

 ネット回線越しに指令が交わされる。指揮官であるウラジスノフが負傷している今、ステルス戦闘を指揮しているのはウラジスノフの副官を務める男――ボリスである。ウラジスノフより背丈は低いがガッチリした体型であり顎髭が目立ついかつい印象の男である。

 

〔弾種変更! 重比重フレシェット弾だ! 敵の頭部を集中的にねらえ! 首から下は撃っても無駄だ! ステルス機能深度をレベルⅢに深化! なお同軍誤射防止の相互視認ができなくなる! 相互位置の把握は慎重に行なえ!〕

да(ダー)!〕


 戦場において兵が討ち倒されるのは当然のことだ。死を悼むのは戦いが終わってからでいい。今成すことは敵を倒す事、そして、背後の存在を護ること。

 彼らの名はТихий(チーヒィ) человек(チラヴィエーク)――静かなる男――

 ステルス戦闘を得意とする生粋の誇りあるロシア軍人である。

 

――ブンッ――


 微かな電子音を残渣として残して彼らの姿は完全に見えなくなった。ステルス機能の処理深度をさらに高度化させたのだ。たしかにこれなら敵からは視認はさらに困難になる。だが同士討ちを防止するための同軍の視認処理がカットされるため仲間であっても相互位置の把握はより困難になる。位置関係を失念すれば仲間を撃つ危険すらあるのだ。

 だが、彼らはそれを実行した。全ては生き残り勝ち得るためにである。

 かたや襲撃者である情報戦特化小隊隊員の権田の目からは急速に見えなくなっていく。

 

「ちっ! 小細工しやがって!」


 権田は思ず吐き捨てる。それまでおぼろげなシルエットとして視認できていたのだが今や完璧に見えなくなっていた。権田は装甲スーツの視覚システムをチェックする。


【 視覚系統合センサー系統チェック     】

【 光学ステルス映像スクランブル制御    】

【     インタラプト処理ロジック再調整 】

【 プロトコルパターン           】

【 ファイル#0021から#1204まで  】

【            高速照合処理実行 】


 ステルス戦闘をより優位に戦うためには敵の位置を完全に先んじて把握するしか無い。

 今や情報戦特化小隊のステルス装備はシェン・レイにより無効化されたが、それでも権田の装備の持つ防御力はそのハンデを物ともしないくらいに頑強であった。

 そして彼が優位性を保持しているにはもう一つの理由があったのだ。

 

「へへ――、そんなんで逃げれるかよ!」


 下卑た笑いを漏らしながらシステムからのメッセージを待てば十秒も待たずに結果は出る。

 

【 適合プロトコルパターン         】

【 ファイル#0437にマッチング     】

【 ステルス処理機能クラッキング成功    】

【 攻撃目標シルエット光学インポーズ    】


 それは情報戦特化小隊の彼らだけが持ちうる機能だった。

 人間が作り上げたものである以上、それを崩す方法は必ず存在している。ただその方法が簡単か困難かの違いにすぎないのだ。そして――

 

「ビンゴ! 丸見えだぜぇ!」


 彼らのバックには強力な技術力が存在している。世界中に存在する数多のステルス機能システムのプロトコルフォーマット。その膨大なバリエーションに対するデータベース――それは一介の闇社会の住人たちには到底手が出るものではない。絶大な技術力と機動力――それがあって初めて成し得るものだったのである。

 権田の視界に浮かび上がったもの――それはステルス処理を強化したはずの静かなる男たちのシルエットだ。おぼろげな輪郭ではなく、今度は熱サーモグラフィー処理がネガ・ポジ反転したかの様な映像だった。無論、攻撃をするためには位置さえわかればいい。その詳細が姿形が分かる必要は無かったのである。


「1,2,3,4――、まだ居るがとりあえずはここから行くか」


 そう言葉を漏らしたときだ。

 

――バババッ――


 重く響く音がする。サブマシンガンPP-90の9ミリ弾の発射音。比重の重い重金属によるニードル状の球を十数本ほど束ねたもので、装甲の貫通能力が極めて優れている弾丸だ。

 重比重フレシェット弾と呼ばれ、装甲スーツや防護シールドの突破と破壊を目的とした弾だ。これならダメージを与えることも可能だろう。


――ギッ! ギギンッ!――

 

 装甲の表面が削られたかのような音が響く。単に傷をつけたという程度ではない。連続で同じ場所にくらい続ければ貫通されかねない。権田は不意に危機感を覚える。

 

「この野郎!」


 ヘルメットの中で毒づいた権田が、両脚の抗地磁気反発加速システムを再起動させる。速やかに移動速度は上昇し視認に成功した4体の中の1人にターゲットを絞る。その敵意の向かう先は――

 

「俺のハンマーからは誰も逃げられねぇ!」


――副官のボルツだったのである。

 

 ボルツは信じがたいものを目の当たりにしていた。

 敵がこちらを捕らえている。

 敵が攻撃対象を補足している。

 敵がこちらのステルスを喝破している。

 

「ば、ばかな? ステルス戦闘はロシアが最高峰のはず――ステルス深度レベルⅢは破られていないはずだ!」


 だがそれは事実だ。敵である権田は確かにレベルⅢステルスを見破っていたのである。 

 焦り、驚き――指揮官の動揺は部隊全体へと伝わる。攻撃に乱れが生じつつあった。敵の行動を封じていた囲みは敗れようとしていたのである。

 

「どうした? 露助野郎? 自慢のステルス戦闘が見抜かれたんでビックリしちゃったかぁ? ああん? いいか、教えてやるよ! 技術っていうのはなぁ!――」


 そのタイミングで振りかぶられたのはあの電磁破砕ハンマーだ。青白い電磁火花をほとばしらせながら権田はハンマーの狙いを定める。

 

「常に進歩するんだよぉおおお!!」


 そこに復讐と憎悪に己を狂わせた男の雄叫びが響いたのである。


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