Part39 死闘・ドンキホーテ/放浪の騎士
だがそこに不意に差し込んできた特徴的なシルエットがあった。
「ん?」
そのシルエットにドクターたちが目を凝らす。若者の一人が声を発する。
「襲撃者か?」
敵の正体がわからぬ以上当然の対応だった。残る一人が片手で護身用の拳銃を取り出そうとする。と、その時である。
「そこの者たち、難儀しているようであるな? 手助けが必要かな?」
コミカルな芝居がかった老人の声を発して問いかけてきたのは、その特徴的なシルエットの方である。
そのシルエットはまるでおとぎ話の寸足らずの老騎士のようであった。
プロポーションは三頭身で頭はたてがみ付きの煤けた鈍銀色のフルフェイスの兜、全身鎧で寸足らずの胴体の下には太くがっしりした大きめの足がある。両腕にはごついガントレットが嵌められ、背中には擦り切れたマントがたなびいていた。
そしてその右手には彼の身長よりも大きい2mほどの馬上槍=ランスが握られていた。
その傍らには同じように背の低い幾分小太りのドワーフの様なシルエット。体全体をフード付きのマントで覆っており正体は見えにくい。だが露出した手足からは彼も鎧のような鈍銀色の装甲で覆われているのが解る。せむしで腰が低く、隣の老騎士の従者と言った面持ちである。
そしてランスを手にしていた老騎士が声を発した。それは一切の敵意を感じさせない落ち着いた老齢の達者な人物の声である。
「我輩は放浪の騎士タウゼントである。仔細あってかかる難事を解決せんと馳せ参じた。聞けばそこの少年を移送するために案内役が必要な様子。我が従者のパイチェスをつけるがいかがかな?」
古風かつ丁寧な言い回し。またあまりにも芝居めいて居るが故に、これが悪意を持って行動する者のそれとは到底思えなかった。だが場違いと言えば場違いである。驚き、戸惑いつつも、ドクターは即座に眼前の人物の真贋を見極めようとしていた。
「タウゼントと言ったな。どこから来た?」
内心繊細に選んだ言葉を投げかける。その問いにタウゼントは明確に答える。
「我ら〝クラウン様〟の配下である。我が主人よりこの街に降り掛かった災難から市民を助けるように仰せつかっている。不審がるのは当然である。だが案ずるがよい、我らは低俗な快楽は求めておらん」
クラウン――非合法な世界に片足を入れているならば嫌でも聞かねばならない名前だった。その家臣なのだ警戒して然るべきであった。
「低俗な快楽か――ならば何を求める?」
ドクターが改めて問えばタウゼントは笑い声を交えながら誇らしく告げる。
「我が求めるのは〝人々の笑顔〟、表に居ても、裏に居ても――それは決して変わらん」
「なるほど笑顔か」
よどみ無くタウゼントの意思は告げられる。そして彼は表と裏という言葉を使った。それをドクターははにかみながら受け入れる。
「わかった。貴方を信じよう。従者の方に案内を頼む。表通りにまで出られれば安全は確保できるはずだ」
そう告げながらドクターは二人の若者に視線で同意を求める。無論、拒否するような所作は一切見られなかった。
「うむ。心得た! パイチェス! この御仁たちを安全な場所まで案内いたせ。可及的速やかにな」
「かしこまりました! ご主人様!」
タウゼントに命じられてパイチェスは歩き出す。そして簡易担架を運ぶ二人を手招きした。
「ささ! こちらへ!」
そしてドクターも二人に声をかけた。
「先に行ってくれ。すぐに後を追う」
その声に頷き返して二人はパイチェスに導かれてラフマニを運んでいく。その後に残されたのはドクター・ピーターソンと、オンボロ老騎士のタウゼントだけである。
「よし。これであいつらの方はなんとかなるな」
「そうであるな。軍医どのよ」
















