Part37 凶刃と凶弾と凶拳と/堕ちた剣聖
黒い盤古――その地上側は隊長の字田をはじめとして、6つに分かれていた。
字田はベルトコーネ暴走を成立させる為にグラウザーと対峙していた。グラウザーこそが現時点で唯一、ベルトコーネ暴走を阻止できる手段と知識を有しているはずだからだ。字田にはベルトコーネの暴走を成立させる事こそが目的となっていたのだ。
蒼紫、亀中のコンビは、この洋上スラムの根本的な抹殺のためのトラップを構築準備に入っていた。建築物や構造物の破壊はベルトコーネが暴走を成立させれば十分に可能だ。彼らの役目はそれ以前に、隣接する区域の不法滞在外国人たちを一切の情状酌量無く殺害処分することだ。そのためにこそ誰にも気づかれぬこと無くナノマシン人造ウィルスの散布システムを構築成立させることが目的であった。
柳生、南城は、彼らの作戦行動の抵抗要因となりうる者たちの殺害排除。静かなる男の構成員や、ハイヘイズの子どもたち、隣接するエリアへと逃げ遅れた住人たちを処分するべく武装を行使しようとしていた。抵抗勢力となりうる存在は少しでも排除しておいたほうがいい。否、犯罪行為の担い手となりうる存在を看過することなど彼らの価値観からすれば許さざる行為なのだ。犯罪組織構成員、無戸籍残留孤児、不法滞在外国人――皆、黒い盤古には〝狩り取るべき獲物〟なのである。
そして真白は、当該作戦域から逃走を図った4人の中南米系の女性たちを追っていた。このエリアから何者も逃さない。そのために敢えて隣接する倉庫街のセクションへと移動しつつあった。真白にとって広いフィールドよりもビルが密集した構造物のあるエリアこそが最も得意とする場所だからだ。たとえ数で劣っていても彼の能力なら劣勢を瞬時に逆転させる事が可能なはずなのだ。彼もまた狩猟者としての本能を開放しつつあったのだ。
そこに人間的な情緒はない。救いようのない怨讐の果てに彼らの価値観と相反する存在をひたすら消去しようと進軍するのみである。彼らは駒である。蹂躙する駒である。彼らの行動を阻害するものを蹂躙し、地上から排除するためだけに先鋭化し連携し続ける禍々しき駒である。
その邪悪なる駒の一つ――
その手に握るのは日本刀の形状を模している超高機能切断ツール。名称は『荒神』
高周波振動ブレードに電磁破砕素子を組み込んだもので厚さ数十センチの鋼板すら切り裂く威力を有する。だが、それだけに取扱は非常に困難であり、その性能を十二分に発揮するには所持者自身にも優れたスキルが要求される。現時点で盤古はもとより警察組織内でも、この切断ツールを使いこなせた者は皆無であった。
それ故に荒ぶる神――『荒神』の名が与えられたのである。
そしてここに、その荒ぶる神を唯一完全に使いこなせる男が居た。
武装警官部隊盤古・情報戦特化小隊第1小隊戦闘員・柳生常博――
盤古入隊以前から警視庁内部でも指折りの剣術家として知られた男であった。その彼が電磁ブレード『荒神』を手にした時には、すでに彼は〝闇落ち〟していた後だったのである。
負傷により両眼の視力と全身の運動機能にハンデを負った彼は、失われた力を取り戻すかの様に情報戦特化小隊の闇へと自ら足を踏み入れたのである。
そして彼は一切の正義を捨てた。彼に残ったのは――
『敵を斬る』
――ただそれだけであった。
今、彼は新たな敵と対峙していた。彼の前に立ちはだかった敵の名は特攻装警第3号機センチュリー――、大田原国包と言う有数の格闘家を師に持つ特攻装警きっての拳法家でもあった。そして――
「柳生さんよ。大田原の師匠に詫びる言葉は有るかい?」
センチュリーはステルスで姿を秘匿していた柳生へと問いかける。返ってきたのはただ一言――
「愚問」
――センチュリーが内に秘めた怒りの一切を突き放す無情なものであった。
「そうかい」
センチュリーは残された左腕の拳をしっかりと握り直した。敵をその正拳で撃破するため拳を固め直したのだ。その拳を構えながらセンチュリーは告げたのである。
「俺達は法を守り市民を守る。そのために技を磨いてきた。堕ちた太刀筋しか持たねえアンタは死んで詫びるべきだ。俺達の共通の師匠――、大田原のオヤジになぁ!」
柳生のその剣技の師となり、センチュリーの格闘の師となっていたのは、あの大田原国包・格闘技術指導役であった。柳生とセンチュリーは兄弟弟子と呼べる間柄だったのである。それは絶対に避けえぬ勝負であった。
センチュリーにとってそれは絶対に断ち切らねばならない『堕ちた剣』だったのである。
















