Part36 死の道化師・黒の巨人/戦闘準備
彼女たちは思い出していた。ペガソに拾われ、救われた時の事を。
エルバとイザベルは都市部近郊でそれぞれに異なる組織の戦闘員をしていた。抵抗を試み、無残に肉体を破壊され死に瀕していたがギリギリの所で一命をとりとめた。歩くことさえおぼつかなくなった彼女らに再び立ち上がり戦うことを命じたのは他ならぬペガソである。
エルバはその視界にクラウンとイプシロンを捕らえながらペガソとの初めての邂逅を思い出していた。
〔そういや、地下病院だったね。あんたと知り合ったの〕
エルバはその両手にナイフを持ちながら、イザベルに体内無線で問いかける。
〔そうだね。アタシは両足、あんたは両腕、そればかりかほとんど全身をずたずたにされてもう死ぬしか無いって諦めてたのをさ、ペガソ様ったら強引にサイボーグにしようとして地下病院に連れてきやがった〕
〔言いだしたら聞かなくってさあの人〕
〔いつもじゃん。ヤリたい時はいつでも襲ってくるし〕
〔ちょっとそれ言う? 今?〕
〔ペガソ様ならこう言う話笑って喜ぶけどね〕
〔それ言えてるし〕
エルバと与太話を交えて過去を思い起こしているのは、両手に銃器を握りしめているイザベルだった。また少し離れた別箇所ではマリアネラが息を潜めて状況を見守っている。
〔みんな! アレが動くよ。カエルは移動するみたいだけどどうする?〕
マリアネラの言葉にエルバが答える。
〔ほっときな。クラウンが孤立した時を狙うよ〕
〔わかった〕
エルバはさらにもう一人のメンバーへと声を飛ばす。
〔プリシラ!〕
〔うん〕
〔カエルが離れたらあんたの能力で一気にやっちまいな〕
〔もう準備できてるよ。いつでもオッケー〕
〔たのんだよ。あいつを抑える最高のチャンスなんだからさ!〕
〔わかってる――〕
そっとシンプルに、かつ落ち着いた声でプリシラはつぶやく。
【 超高精度仮想実体ホログラムフィールド 】
【 統合管理制御システム 】
【 】
【 PROGRAM ―OZ― 】
【 】
【 作動モード:指定領域完全離断工作 】
【 再現レベル:3D映像・完全音響再現 】
【 仮想触感再現 】
【 】
【 指定フィールド外部への擬装映像投影準備 】
【 仮想実体ホログラムフィールド 】
【 展開プロセススタンバイ 】
【 】
【 開始トリガー ―待機― 】
プリシラは少し高い場所にて居場所を確保すると、周囲を見回しつつ身体の各部を〝展開〟させた。
【 仮想実体再現ナノマシン群体 】
【 《ELEMENTS‐OZ》 】
【 >高速散布準備 】
【 >ナノマシン高速散布マイクロスロット 】
【 [全展開開始] 】
プリシラのマイクロドレスに包まれていない全身各部――腕、肩、背面、両足――それらいたるところから数センチ長さで1ミリ幅のスロットが開く。そしてそこから極めてかすかに銀色に光る霧の如き霞のような物が流れ出て漂い始める。それは、自らの意思を持つかのように速やかに周囲の空間へと広がっていく。
クラウンを中心とする数百メートル程のエリアにその霞は広がる。それはまるで魔法使いの魔法が人知れず仕掛けられているかのようでもある。そしてその技の実体が姿を現したその時、それから逃れることはごく普通の人並みの人間なら、もはや叶うことはない。
〔いつも通り準備OK、いつでもいいよ〕
プリシラはそっと告げる。それに言葉を続けたのはマリアネラだ。
〔アタシもいいよ。退路はアタシの〝レーザー〟でいつも通り遮断するから〕
そしてイザベルもその両手にクリスベクターを構えながら言う。
〔じゃぁ、私とエルバがフロントだね〕
その言葉にエルバが、両手に刃渡り20センチほどのチタンナイフを握りしめてうなづいていた。
〔オッケィ、いい弾たのんだよ!〕
〔任せときな!〕
このチームで動く時、幾度となく繰り返されたフォーメーション。プリシラが領域掌握し、マリアネラが敵の動きを牽制、イザベルが敵の動きを捉え、とどめを刺すのはエルバのブレードテクニックだった。これにもう一人のチームメイトのビアンカが加わる。
息を吸う様に、阿吽の呼吸で、彼女たちは動いていた。それは全てある一つの思いのために――
〔あたしたちでヤツを完全に抑えてペガソ様のところに引きずり出してやる!〕
――彼女たちの主人であるサングレの総帥ペガソへの忠誠心がゆえにである。
















