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第5話 広域武装暴走族スネイルドラゴン/FUCK OFF!

 だが、アトラスは、ハイロンのその態度と言葉に不快な違和感を感じずにはいられなかった。

 

〔おかしい――、なんだ? この男の余裕は?〕


 自分自身のことを過信するわけではないが、武闘派として戦闘実績のある特攻装警が2体も挟み撃ちにしているのだ、警戒はすれど安易に殺害行為などすべきでないと誰でも判るはずだ。だが、その戸惑いはセンチュリーも同じであった。センチュリーはそのアンドロイドらしからぬ野性的なセンスで、この場に漂っている違和感をつぶさに感じっていた。笑みがない、冗談も出せない。その真剣な表情が彼の心理状態を現していた。

 しかし、そんなアトラスたちの警告すらも意に介さずハイロンは抑揚を交えた余裕に満ちた声で語り始める。

 

「お前たちに謹んで申し上げる。そろそろ備品の役割を終えて廃棄処分になってはどうかな?」

「なんだと?」


 ハイロンが指を鳴らす。暗い寒空の乾燥した空気にその音はよく響いた。

 残響を響かせる指鳴りの音は合図だ。予想外の場所に仕込んでおいて隠し球が今この場に出現するのだ。

 アトラスたちがハイロンたちと退治するその場の片側、5段に積み上げられたコンテナ群の扉が一斉に開いた。5段のコンテナが5列――5×5の扉が開き、そこから現れたのは小型の速射電磁レールガンを構えたスネイルドラゴンの戦闘要員、総数で100人以上は居るだろうか。

 個人であることを放棄し悪意の集団の〝駒〟であることを喜んで受け入れた尖兵たち。武装暴走族スネイルドラゴンの下級量産型の戦闘サイボーグ要員である。

 そして、コンテナの最上段からもう一人姿を現す。極彩色のウィンドブレーカーを着たドレッドヘアの黒人系。目にはガーゴイルスタイルのメタリックなサングラスをしている。そして、その両手は鈍い銀色に輝く総金属製の義手だった。その義手の手のひらには銃口の様に穴が開いている。センチュリーはその者の姿を明確に記憶していた。

 

「てめぇ! 横浜の!!」


 横浜の福富町西公園での遭遇戦――あそこで鉢合わせた新顔の武装サイボーグだった。

 彼の方もセンチュリーの事は先刻承知だった。センチュリーに挑発的な視線を送るとにやりと口元を歪ませて侮蔑の笑みを浮かべる。そして右手を握りしめ、中指を立てながら明らかにセンチュリーに向けてこう叫んだのだ。

 

「Hey Dumb!」


 DUMB――間抜けと言う意味の口汚いスラング。その言葉が合図となり、100以上の小型速射電磁レールガンの銃口がアトラスたちへと向けられていた。。

 ハイロンはコンテナの最上段に立っている電磁レールガンの男に視線で合図を送った。電磁レールガンの男は実働部隊の兵隊たちの指揮役を担っているらしい。ハイロンの視線を受けて殺意を現すのに最もふさわしい言葉を吐き捨てた。

 

「FUCK OFF!」


 その言葉は引き金だった。

 黒いツナギに黒いフード付きジャケット。素顔を隠す黒マスク。ジャケットの背中にはのたうつように身をくねらせる龍が銀糸で縫い込まれている。統一化されたシルエットで記号化されたその戦闘員たちは統率のとれた動きで岸壁の路上に踊りだす。


 下段のコンテナの者は路上に躍り出るとアトラスたちを正面から襲った。安易に散開せず数人づつの集団に分かれ、複数で同時に畳み掛けていく。そして、上段のコンテナの者はやや大型のロングバレルの電磁レールガンで上方からの援護射撃を行う。


 それは強化セラミック製の弾丸の弾雨だ。電磁気の力で火薬銃火器を超える射速で射ち放たれたものだ。それは鉛弾など比較にならない。フレシェット形状の矢のような弾丸は、特攻装警としての彼らの強靭なボディすらも傷つける攻撃力を有する。

 センチュリーはバイクを反転させ急速に距離をとった。そして一基のガントリークレーンの支柱の陰にその身を隠す。かたやアトラスは、自らの乗っていたダッジの元へと駆け戻ると跳躍し、愛車を遮蔽物にして、その陰に隠れるしかない。

 

〔兄貴!〕


 センチュリーは体内回線を通じてアトラスへと呼びかける。


〔やられたぜ! 連中、俺たちが嗅ぎつけるのを端っから織り込み済みだ!〕


 センチュリーが身を隠す巨大な鉄柱がセラミック弾丸の猛攻を受けて火花を散らしている。幾つかの弾がセンチュリーの体を掠めるが今は耐えるしかなかった。

 片やアトラスは弾雨にさらされるダッジを気遣う余裕もなく、次の一手を思案している。


〔そのようだな!〕


 失策だった。完全に裏をかかれて罠にまんまとはめられたのだ。腹の底から煮えくりかえるような怒りと身を焦がすような屈辱感が湧いてくる。意図的に情報を流し、市街地カメラに写った自らの姿すら〝餌〟にする。さらに自らの組織の失っても困らない〝駒〟をこれ見よがしに殺すことでアトラスたちが焦りと怒りを抱いて突っ込んでくる事を計算済みだったのだ。

 積み重ねられたコンテナの最上部に2つのシルエットが立ち、缶コーヒーのデミタスサイズの物がいくつも投げ放たれた。

 それを視界に捉えながらセンチュリーの叫びが聞こえた。

 

〔くそっ! 流れてきた〝情報〟も巧妙な〝撒き餌〟だったって事かよ!〕


 おそらくはセンチュリーに親しくしている若者たちがセンチュリーへと情報を提供するであろう事すら意図しての事だったのだ。この期に及んで頭に浮かぶのは情報提供をしてきたアイツらの安否だ。証拠隠滅のために口封じされる恐れもある。

 センチュリーの声が回線に響いたその時だ。投げ放たれた物が強烈な電磁ノイズを含んだ爆風を伴って炸裂したため〝新型手榴弾〟だと分かった。電磁ノイズは通信回線を遮断し電子機器の機能を阻害する。アンドロイド化が進む戦場で対機械戦闘に開発された物だ。


 爆風と衝撃にかき消されてアトラスの視界からセンチュリーの姿が消える。さらに、コンテナの中段のあたりから紫色の液体が詰められた瓶型の容器が投げ放たれた。瓶の先端には点っているのは炎である。アトラスはその武器の名前を知っていた。

 

「火炎瓶かっ!!」


 恐ろしく古典的だが、確実に効果のある武器だった。しかも内部に詰められているのがよくあるガソリンでないことは液体の色を見れば確実だった。

 

「糞ォッ!!」


 多勢に無勢――強化型火炎瓶が炸裂した瞬間、アトラスの脳裏をよぎったのはその言葉である。

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