Part35 死闘・正義のシルエット/極秘内規規定
その狭いヘリの機内に存在するのは3人だけである。
一人はクラウンの配下でカエル型の存在であるイプシロン
一人は盤古・情報戦特化小隊の狙撃手である財津
残る一人は、2重反転ローターステルスヘリのメインパイロットである香田である。
香田はヘリの操縦に全神経を注ぎつつも、背後で行われている荒事に苛立ちを感じずには居られなかった。そして、その濃と直結された秘匿会話回線にて情報戦特化小隊の隊長である字田へとシグナルを送る。
【送者:ヘリパイロット・香田 】
【受者:隊長・字田 】
【極秘内規規定、E-23 】
【適用対象:狙撃手財津 】
【判断を求む 】
暗号化されたそれを独自の拡散通信アルゴリズムにのっとって、隊長の字田へと送ればレスポンスは即座に帰ってきた。
【送者:字田 】
【受者:香田 】
【E-23、適用許可 】
【即時執行せよ 】
【送者:ヘリパイロット・香田 】
【受者:隊長・字田 】
【了解。即時執行する 】
【ヘリ機内、特別第3種装備を使用する 】
その通信は僅かな時間の内に行われた。そして、パートナーである狙撃手財津の知らぬところで、もう一つの正義は起動しつつあったのだ。
その正義の名を――
『粛清』
――と言う。
【情報戦特化小隊特殊装備総括プログラム 】
【AUTHER:香田 】
【多重人格並行処理プロセス起動開始 】
【第1処理:ヘリ操縦 】
【第2処理:アバター体独立起動 】
【 】
【多重化プロセス ―スタート― 】
そして、無情なる〝組織の論理〟が稼働し始めたのである。
@ @ @
「――の野郎っ!!」
狙撃手・財津は明らかに冷静さを失っていた。彼にとって絶対のスキルであった狙撃をことごとく跳ね返されたのみならず、このステルスヘリの機内にまで突入されてしまったのだ。この失態をそのまま認めるわけにはいかなかった。彼とて職務に対するプライドはあるのだ。
「舐めてんじゃねえぞ!」
その叫びとともに財津の左の手首の表皮が複数に分割され内部が展開される。そしてその内部から露出したのは――
【 超高圧スタンロッド展開 】
【 最大瞬間電圧:200万V 】
【 電流波形モード:殺傷 】
――超高圧の戦闘用のスタンロッドである。
財津は両足を開きスタンスをとる。
「こいつは特別製だ。たとえ高絶縁のゴム素材でも電流を内部浸透させる事が可能だ」
さらに目の前のバケガエル目掛けて飛びかかろうとする。
「お前の防御能力がどれほどのもんか試してやるよ!」
左腕を振り上げスタンロッドの先端をバケガエルのイプシロン目掛けて叩きつけようとする。イプシロンはそれを這いつくばるような低姿勢で身構えると丸い両眼で敵である財津の動きを詳細に観察していた。いかなる攻撃にも即応できるようにするためである。
「やってミロ」
一見してはわからないが、イプシロンのその胴体に比して巨大な両足に力が込められている。両足の底面は吸着式。飛び出すためにしっかりと床面に吸い付いている。
「ゲッ!」
ガマガエルの呻きのごとくイプシロンはノイズを吐き出した。それは財津に向けられたものであり威嚇と敵対を明確にする物であった。だが自らは動かない。財津が先に動いてから即座に反応するつもりだ。
対する財津は狭いヘリの機内で超高圧スタンロッド特有の性能によりイプシロンを封じるつもりであった。それは――
――ブォォォオオン――
スタンロッドがその放電部から青白い稲光を解き放っている。単なる犯人の無力化を目的としたものではなく、その放電の効果範囲を飛躍的に伸ばすのが目的の物であった。
当然、電圧のみならず電流値も大幅に強化されている。それは目的物と接触せずとも接近させただけで十分に威力を発揮しうる代物だったのだ。
一気に飛び出しイプシロンへと迫る財津。スタンロッドを備えた左腕は上へと振り上げられいつでもイプシロンがどの方向へと退いだとしても即応可能であった。ゴーグル越しの狂気ばしった視線で敵を見据えながら財津は一気にイプシロンへと迫ったのである。
















