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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/死闘編
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Part34 カエルノオウジサマ/狩人の弾丸

 彼は特別頑丈というわけではない。だがしぶとさは彼の隠れた持ち味だった。切られようが撃たれようが容易には殺られない。だが――

 

「ゲロッ……」


 まさにガマガエルが押しつぶされたような鳴き声が響く。淡い緑色の丸いボディが紅蓮の炎に包まれる。爆発の衝撃が同心円状に広がり爆炎を吹き飛ばす。凄まじい爆音が東京湾上の闇夜に響いていた。

 

「グゲッ……」


 瞬間的に炎にまみれていたが、すぐに焼け焦げとなって消えさり全身に黒煙をなびかせながら地上へと落下していく。その両目の光は消えかけている。流石に彼と言えどそのダメージは計り知れないものがあり、微動だにせぬままに落下し続け、廃ビルの瓦礫の上で大きくバウンドすると薄汚れたゴム鞠の様に飛び跳ねるとそのまま横たわったのである。

 彼の名はイプシロン――、滑稽さだけが持ち味のただの〝カエル〟である。

 その彼の上では人々の目から姿をくらませている一機のヘリがある。そのヘリの胴体脇から眼下の地上を見下ろしている男が居る。情報戦特化小隊の狙撃手の財津である。電子スコープ越しに自らの狙撃に割り込んできた物の姿に驚きつつ不愉快そうに吐き捨てた。


「あぁ。なんだぁ?」

「どうした?」


 財津に声をかけるのはヘリパイロットの香田だ。


「なんか飛び出てきやがった。しかもレールガンの射速に追いついてきやがるほどのどエラい跳躍力だぜ」

「サイボーグか?」

「いや――」


 財津は自らが撃った物の姿をあらためてたしかめる。ゴム鞠のように飛び跳ねる光景は到底人間とは思えなかった。


「違うな――」


 財津の視線は自らが撃った物の姿を追い続けている。冷静に、冷徹に、そしてかすかな憤怒を宿して。彼は自らの狙撃を妨害したものに対して本能的な怒りを感じずには居られなかったのである。


「――カエルだ。でけえバケガエルだ。だがただのカエルのアニマロイドじゃぁねえ」

「なに?」


 アニマロイド、あるいはアニマトロニクスロボットと呼ばれるもので動物そっくりに作られたいわゆる動物ロボットのことだ。


「特別製の炸裂弾頭食らっても焦げただけですぐに動けるアニマロイドなんて聞いてことねえよ」


 言い捨てる財津の声はすでにふざけては居なかった。自分が撃った相手の素性を本能で悟ったのだ。どんなにイカれていても彼もまた狙撃手としてはプロなのである。

 そして財津はさらなる弾体を装填する。


【 サジタリウス・ハンマー         】

【 弾種変更:               】

【 >爆薬内蔵炸裂弾頭から         】

【  分離外殻式ジルコニアサーメット    】

【            高貫通ニードル弾へ】


 発射後空中にて外殻サボが分離し、直径2ミリの極めて細いニードル状の超硬質弾芯を打ち込むもので瞬間的な貫通力のみに威力を絞った特殊弾だ。


「次で仕留める。機体安定に専念しろ」

「やるのか?」

「あぁ、非常識な跳躍力だ。このヘリに到達しないまでも奥の手を持ってると厄介だからな。次弾電力充填は終わってる3秒で撃つ」


 その言葉と同時に財津は速やかに射撃姿勢に戻る。サジタリウス・ハンマーをほぼ垂直に真下に向ける。そして義肢を駆使して射撃姿勢の精密調整を行う。心肺機能はサイボーグ化されており、呼吸と脈拍はフルオート制御。指先の引き金を引き動きを最優先して呼吸は最低限で安定化し、心拍も急な拍動を抑止する。ただその視力はサイボーグ化されておらず生身の肉眼のままだ。その生の視力と高解像度の電子スコープによって狙撃対象を正確に捉えるのだ。


「3‥‥2‥‥1‥‥」


 無言に近い小声でカウントする。そしてカウントゼロで財津はトリガーを弾いた。狙い撃つのは地上にはいつくばる不気味なシルエット。非常識な大きさのバケガエル、そしてそれは到底民生用とは思えないほどの防御力を備えているのだ。


――キュバッ!!――


 鋭い電磁ノイズを響かせながらそれは打たれる。レールガンの放電レールを焦がしながら、直径2ミリのジルコニアサーメットのニードルは、眼下の獲物を狙うのだ。

 そしてそれがイプシロンのボディへと命中するその瞬間、財津は吐き捨てる。


「死ね」


――それは言葉として最も強く他者を排除する言葉だった。その言葉は鈍い銀色のニードルに込められた呪詛だったのである。


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