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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/死闘編
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Part34 カエルノオウジサマ/飛べないカエル

「ちいっ! 派手にコンクリが吹っ飛ぶわりには貫通しやがらねぇ! なんか細工してやがんな?」


 狙撃手の才津が忌々しげに吐き捨てる。オートローディング式の弾倉が次弾を自動的に装填するが、手元スイッチの操作で断種を別なものに切り替えた。

 

【 サジタリウス・ハンマー         】

【 弾種変更:               】

【 >超硬化セラミックス弾頭から      】

【           爆薬内蔵炸裂弾頭へ 】


 その表示はステルスヘリのメインパイロットシートにも表示される。メインパイロットの香田がそれに気づいていた。

 

「おい! 才津! たかが不法滞在のガキたちにそんなもん使うな! 勿体ねえ!」

「へっ、邪魔な死体の一括処理だ! ビルごとまとめてふっ飛ばしておしめえよお! 脅かしてもうさぎちゃんは中から出てこねえし、隊長たちの支援もしないといけえねしな。一発で決めるしかねえだろう? 良いじゃねえか! これくらい!」

「どうしても殺るのか?」

「あたりめぇだ! 最高のお楽しみじゃねえか? なにしろ合法的に獲物を狩れるんだからよぉ! まったく盤古様様だぜ!?」


 香田はその言葉に呆れるしか無かった。解ってはいた事だが、この男の嗜虐趣味は常軌を逸していた。たとえどんな状況であろうと、最低一人は殺さずにはいられない、そう言う品性なのだ。

 

「ちっ! さっさと済ませろ!」

「分かってるよ! 相棒!」


 狙撃手という性格上、ステルスヘリのパイロットである香田とはペアで行動をしていた。だが才津とペアということは決して名誉ではないのだ。内心、吐きたくなるような嫌悪を隠しながら香田は才津の行動を見守るしか無い。

 狙撃手・才津はそんな相方の深謀遠慮など全く意に介していない。弾頭が装填されたことを、狙撃スコープ内のインジケーターで知る。

 

【 弾頭:爆薬内蔵炸裂弾頭 > セット完了 】


 そして満足気に口元を歪ませると才津は引き金をひく。それは手榴弾数個分に匹敵する爆破力を宿した建築物破壊用の特殊弾――、壊れかけの廃屋などひとたまりもない。そんな恐るべき弾丸が使用されたことを、ハイヘイズの子供らは誰も知らなかったのである。

 

 

 @     @     @

 

 

 その場に正義の味方は居なかった。

 余りにも沢山の悪意と、困難過ぎる敵が立ちはだかっていたからで、必死に生き延びようとする子供らにまで善意の手が回りきることは無かった。

 だがそれを誰も見ていなかったわけではない。しっかりとそれを見ていた者がいる。

 朴訥でひょうきんな口調の中に、純粋な優しさがにじみ出ていた。

  

「いけない。子どもたち――死ぬ」


 それはカエルだった。

 人間の背丈の半分以下の大きさのバケガエルだ。

 濃い緑色の丸っこい身体の上に、ユーモラスな表情を浮かべる丸目が二つついている。両足は大きく、両腕は申し訳程度で、まさにカエルと言うより他はなかった。

 遠巻きに戦場の情景を見ていた彼だったが、高みからある存在を見つけていた。彼の巨大な目は強力な視覚センサーである。通常光学から望遠遠視、熱工学サーモに、電磁波スキャンと多彩な性能を誇っている。それ故に遠くからでもハイヘイズの子らが、戸惑い、恐れ、そして怯えながらも、生き残る道を探して逃げ惑う姿をじっと見ていたのだ。

 今彼はある場所を見つめていた。ハイヘイズの子らがその身を潜めている廃ビルである。彼もまたその建物の中に子供らの命のぬくもりを見ていた。彼らはそこに確かに居た、当然、彼らを狙う悪意が存在することも。

 高性能のレールガンライフルから何度も撃ち込まれる強力な弾丸を目の当たりにして、バケガエルである彼は焦りを覚えずには居られなかった。

 

「まずい!」


 そして弾丸が一呼吸置いて遅れた事に不気味な不安を抱かずには居られなかった。彼もまた主人であるクラウンとともに世界中を巡り、様々な地で多彩な作戦に身を投じてきたのだ。弾丸や砲弾飛び交う戦場を行き来したことも有る。狙撃手に彼自身が狙われたことも一度や二度ではない。それ故に彼は解るのだ。

 連続して撃たれた弾がさしたる効果を発揮しない場合、取られる判断は二つしか無い。一つは狙撃の断念。もう一つは――

 

「〝弾〟が変わる!!」


――更に協力な弾丸が使用されるケースだ。

 

「ヤツらかならず使う!」


 それも相当に質の悪い物だろう。子供を弄ぶような卑劣漢だ。オーバーキルとなる高威力の武装を使うこともなんの躊躇もしないだろう。そのバケガエルは迷うこと無く決断する。物陰から飛び出すと、敵の攻撃を避ける様に右に左にジグザグに飛び回りながら、シェルター代わりの廃ビルへと接近する。そして、倒れかけのコンクリート柱を視認するとそれを足がかりにして飛び乗り、そこから更にひときわ高く跳躍する。

 

「それイケない!!」


 その緑色のシルエットに気づいたものは皆無だ。ただ狙撃手である才津だけが気づいていた。才津が放った悪意の弾丸――、それは子供らのところに届くことはなかった。

 

 それは大型のナパーム弾に匹敵する熱と炎を撒き散らす。そしてあらゆる建築物を破壊し吹き飛ばす力を持つ。それを食らって耐えられる人間は居らず、無論、アンドロイドやロボットであろうとノーダメージではすまないだろう。

 その小さな緑色のシルエットは瞬間的に爆炎に包まれると、力を失って大地へと速やかに落ちていく。そして薄汚れたゴムまりのように瓦礫と廃材だらけの大地の上へと落ちて飛び跳ねるのだ。

 

 彼の名はイプシロン――、カエルのシルエットを持つ機体の持ち主――

 彼はカエルだった。そして、誰よりも子供が好きだった。彼はただ守りたかっただけなのだ。

 だが彼は――

 正義を語れる王子様にはなれなかったのである


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