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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/死闘編
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Part34 カエルノオウジサマ/悪い狩人

 それは一方的な悪意である。

 敵意というのは2つに別れる。一つは正当性のある有るべき敵意、報復、正義、断罪、やる返すだけの正当な理由があって行使されるべきもの。多くは人々の理解を得ることも可能だろう。だがもう一つは正当性のない敵意、差別、嫌悪、虐待、侮蔑、そして加虐的快楽

 その敵意と暴力を振るうにたる正当なる理由がないものだ。

 今、大空から下される敵意は正当性の無いものだ。


 半ば吹きさらし多様な瓦礫と化しつつある廃屋、その1階と地下階に子どもたちは身を寄せ合っている。物陰に身を隠しているが高度な光学センサーを有した者たちからは丸見えに近い状況だった。ましてやそのまま瓦礫に埋もれる危険を考慮するならより安全なはずの地下室へと向かうことはあまりに危険だった。

 今、ジーナやアンジェリカと言った年長の少女たちに率いられて十数名の子どもたちは必死にその身を寄せ合っている。今はただ騒ぎが治まるのをじっと耐えるしか無い。


 瓦礫の影で震える子どもたちが何をしたというのだろう? 彼らを誰が責め立てられるというのだろう? 少なくとも彼らを命の危険に晒していい理由は誰にも無いはずだ。

 だが――

 

『武装警官部隊・盤古、情報戦特化小隊』


――彼らにはそれは通用しない。彼らには不快であるか否か? それだけが基準だからである。



 @     @     @

 

 

 東京アバディーンの東南エリア上空、そこに対空している一機のステルスヘリがある。ロシアの2重反転ローター仕様の特別仕様機だ。夜の闇にひそめる様に茶色がかった黒。そして徹底した静音処理、ローターの風切り音ですら消し去る程である。その機体の側面ドアが開いていて底から覗いているのは黒塗りの巨大な狙撃ライフルである。

 

 狙撃用銃器。ヘリの機体側面部にアーム形状のフレームでつながれたは高圧レールガン。セラミックス製フレシェット弾を放つ形式、情報戦特化小隊仕様のつや消しの黒

 形式コードは【AOT-XW021】

 装備名は【サジタリウス・ハンマー】

 機体側面に固定された支持アームによりホールドされた長銃身は反射光を抑えた表面加工によりその脅威を他者の視点から巧妙に隠していた。そしてその高圧レールガンライフルを地上へと構えている一人の兵士――もとい警官がいる。

 武装警官部隊盤古、情報線特化小隊第1小隊に属する狙撃手の才津である。

 首から下を完璧に覆う盤古標準の動力プロテクタースーツを着用し頭部にはヘルメット、目元には狙撃用の遠視補助光学ゴーグルを装着している。才津はゴーグル越しに地上で徘徊するターゲットを物色していたが、そこに彼の嗜虐心を満足させる理想のターゲットを見つけ出していた。

 ゴーグルは熱光学のサーマルモードを重ね合わせ通常画像にインポーズする。すると彼の視界の中にうっすらと浮かび上がるものが有る。その温度範囲30度から37度前後にかけて、小さい丸のようなものが十数人ほどでひと固まりになっている。その彼の眼下に存在するものそれは――

 

「へえッ、ヘヘ! そんなちゃっちぃコンクリビルの掘っ立て小屋に隠れて助かるわけねぇだろ? 周りは何にも無ぇ荒れた放棄地域! 逃げようにもガキどもの足では無理ってか? さっさと全てを諦められるように――」


【高圧レールガン・サジタリウス・ハンマー  】

【    加圧コンデンサー充填率<100%>】


 そのインジケーター表示を視認して才津はトリガーを引いた。

 

「おじさんがぶっ殺してあげるからよぉお!!」


――キュバッ!!――


 超高速の電磁ノイズを響かせながら、サジタリウス・ハンマーの銃口から超硬化セラミック弾体が射出される。上方狙撃なら最新重戦車の上部装甲すらも貫くほどの破壊力を有している。それを才津はただひたすら眼下にて恐怖に怯える子どもたちを恐れさせ、燻り出すためそのためだけに行使するのだ。


 鉄筋コンクリート製のその廃ビルは元々は3階建てだったが、とある事件で崩壊し、1階フロアと地下フロアだけが残っていた。ラフマニたちはシェン・レイなどの協力を得ながら。その地下フロアを改造し屋根を強化して非常時の退避用施設として確保していたのだ。

 なにしろこの剣呑極まるスラム街である。終の棲家そして一つの場所をいつまでも確保敵出来るとは到底考えられない。万が一のための退避手段はいくつ講じてあっても足りるということは無いのだ。これもラフマニたちが自らで考えて編み出した生き残るための知恵なのだ。だが――


――ズドォオン!!――

 

 子どもたちの頭上を轟音が襲った。レールガンライフルから放たれた超硬化セラミック弾体がシェルター代わりの廃屋を直撃したのだ。鉄筋コンクリートの瓦礫が積み上がった屋上は手榴弾で吹き飛ばされたかのように大きく揺らぎ、そして瓦礫の細片を撒き散らす。

 無論、廃屋は不気味な振動をたてて揺らいでいる。その内部に潜む者たちに大きな恐怖を与えていた。

 

「きゃあっ!」


 女児を中心として甲高い悲鳴が上がる。揺らいだ建物の屋根からコンクリートの欠片が落ちてくる。そのたびに何処かで泣き出す子どもたちが一人また一人と増えていくのだ。

 

「大丈夫! ここに居れば必ず助かるから! ラフマニやシェン・レイが必ず救けてくれるから!」


 パキスタン系の血を引くジーナが皆に必死に声をかける。アルビノの因子を持つアンジェリカが小さな子供らを抱きしめ、一人一人をなだめようとしていた。だがそんな彼女らを弄ぶように悪意が込められた弾丸は散発的に撃ち込まれ、そのたびに子供らに効果的に恐怖を与えるのである。

 それでも子供らは聡明だった。

 追い詰められ耐えるしか無い毎日を手を握りあいながら今日まで生き延びてきたのだ。

 互いが互いの手を握り合い、そして年長の二人が励ますように声をかければ、年上のものから年下の者へ、合言葉の様に言葉と意思は連鎖していた。

 

「大丈夫! お兄ちゃんたちが救けてくれる!」

「うん、大丈夫」


 根拠があるけではない。だが信じているのだ。そして今までも信じた事が裏切られたことは無いのだ。絶対に救いの手は現れる。それが場末の世界で必死に生きてきたハイヘイズの子らの心を支える唯一の理由だったのだ。

 アンジェリカが子どもたちの声に答えるように言う。

 

「うん、大丈夫だよ。救けはかならず来るからね」


 それがどんなに根拠のない願いだったとしても、今は信じるしか無かったのである。

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