Part33 天へ……天から……/フィールの義憤
ひどく冷静な声だった。そしてそこには静かなる憤りが込められていたのだ。その憤りは誰であろう――
「私はあなた達が咎や罰を受けると言うこと事態が到底納得出来ないんです。たとえ罰を下す存在がこの世を作った〝神〟であったとしても」
――世界を見通すはずの至高の存在に対してすらも向けられていたのだ。
フィールの語るその言葉に、あっけにとられて言葉を失っている3人に対して、フィールは臆すること無くさらに告げる。
「私はずっと常々思ってたことがあるんです」
フィールは今、一人一人の目を見つめながら語りかけていた。上辺ではない。本音を明かしての言葉――それが相手に伝わるはずだと信じて。
「生まれ堕ちる以前から、悪しきを成すべき、罪を犯す事を当然として作り上げられた存在にどれだけ罪を問えるのだろう? って――
情状酌量があるわけでない。人間に対して危険だというその理由だけで破壊してしまって良いのだろうか? って――
何度も何度も、警察の上層部から緊急避難による処分が下されるたびに胸の中に消しきれない〝モヤモヤ〟した物をずっと感じてたんです。もっと他に解決手段はなかったのか? って――
あの有明の超高層ビルのなかであなた達と向かい合っていても、それはずっと消えませんでした。これ以外に道は無かったのかって――
罪を犯す事を当然として創りあげられたとして、その『罪を犯す事』そのものの咎は誰がせおうべきなのだろうか? って――」
フィールが口にする言葉は徐々に荒さを増していく。
「情動も、心も、敵意も、衝動も、願望も――あらゆる物がはじめから全て規定されて生まれてくる宿命であるアンドロイドと言う存在が犯す行為の全ての責任は一体誰が背負うべきなのだろうか? それを朝起きてから、よる街が寝静まるまでずっと私は考え続けてきました。それでも答えはずっと出なかった。なぜなら――」
フィールは大きく息を吸うと力強く告げた。
「私自身も生まれる以前から『こうあるべき』と定められて生み出されたから存在ですから」
そして、フィールはどうしてもこの場で伝えたかった事を口にするのだ。
「私が警察のアンドロイドであり、私を作ってくれた警察の論理やルールに逆らう事ができないように、あなた達はディンキー・アンカーソンと言うたった一人の独りよがりな老人の思惑から生み出され、そこから逸脱してテロアンドロイドではない物として生きる事すら許されなかったはずです。
たとえ自分自身で己の行動に疑問を持ち、生き方を変えようとしても、どうしてもできなかったはずです。ならば『魂の自由』すら認められて居ない者たちを裁く事など誰にもできないのではないのか? って思えてしまう」
フィールは改めて、3人の顔をじっと見つめ返す。
「心と意思を持ち始めたアンドロイドと言うあなた達を『罪』と言う言葉ただ一つだけで、無残にも壊してしまうという事を『人として間違いなんじゃないか?』ってずっと思えてならなかったんです。だから私はあなた達を憎む事はどうしてもできなかった」
最後にフィールから告げられた言葉をアンジェやジュリアたちは、胸の奥に永久に刻み込むことになるのだ。
「あなたたちは『自らが間違っている』と認識することすら許されていなかった。それを罪に問う事など誰にもできない! たとえ――」
そしてフィールは大きく息を吸い込む。そして頭上をあおぎ、この場をみおろしているであろうはずの存在へと向けてこう言い放ったのだ。
「たとえこの世を作り上げた〝神〟だったとしても!」
その声は空を貫き、どこまでも響き渡っていた。
残響がこだまし、その思いはどこまでも届いていく。頭上を仰いでいたフィールがその顔を下ろした時、その目にはあふれるばかりの涙が流れていたのである。
「フィール……さん」
「あなた――」
「――――
アンジェが、ジュリアが、マリーが驚きを隠さずにフィールを見ていた。その驚きの向こうには安堵と感謝が浮かんでいたのだ。フィールは彼女たちに告げる。
「あなた達は許されるべきなんです」
















