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メガロポリス未来警察戦機◆特攻装警グラウザー [GROUZER The Future Android Police SAGA]《ショート更新Ver.》  作者: 美風慶伍
第2章エクスプレス サイドB① 魔窟の洋上楼閣都市/死闘編
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Part31 シャイニングソルジャーズ/―妹―

 フローラは一気に加速した。

 その視界内には、フローラの姉であるフィールへと群がる醜悪なる黒い機械物が捕らえられている。フローラはその群れの3次元位置を即座に推測すると、黒い群れの中に捕らわれているフィールの位置を推測して最適な突入ルートを割り出した。

 

「お姉ちゃんを救うにはこれ!」 

 

 電磁ブースターの推力を全開にして、戦闘ドローンの群れの真っ只中へと突入を敢行する。そしてドローンの黒い群れに接近すること100mを切った時、左手で構えたハイプレッシャーウォーターガンのトリガーを引き絞る。ウォーター内部の散布液状物メインチャンバーに予備圧縮されていた高圧空気を瞬間的に送り込む事により、メインチャンバー内の液状物を瞬時に拡散発射するものである。

 

「どけぇええっ!!」


 雄叫びにも似た叫びを轟かせながらフローラは狙いを定めてウォーターガンのトリガーを引いた。照準位置はフィールが居るであろう位置からほんの僅かずれた位置。そして、急角度で真下に放射された液剤は強力な物理的な衝撃効果を発揮して、数機のドローンを破壊し、醜悪なる囲みに隙間を作ったのである。

 

〔なに? 何が起きた?!〕

 

 ファイブが驚きと戸惑いの声を解き放つ。突如上空から突入してきたフローラの存在はファイブには全くの想定外だったのだろう。混乱する敵を尻目にフローラはさらに行動を続ける。

 

【マイクロアンカー装備・右腕部作動     】

【アンカー先端部三次元飛行モードにて高速射出】

【飛行起動>中枢部思考結果に連動      】


 右腕を伸ばした先にはフィールが居た。自らの視界でその姿と位置を把握すると間髪置かずにマイクロアンカーを射出する。そのアンカー先端は単なる銛ではなく、小型の飛行推進装置となっており、エアジェット流や小型の羽根を駆使することで、フローラがその思考に思い描いたとおりに飛行軌道を描いて飛ばすことが可能なのだ。

 そのフローラが思い描いた飛行軌道は――


「おねえちゃん!!!!」


――何よりも強い思いを伴ってフィールのもとへと到達する。一直線に飛来し、しかる後にフィールの体の胸部で輪を描いて3度ほど周回すると、ワイヤーをフィールの体へと巻き付かせる。そしてしっかりと捕縛したのを確信すると、フローラはそのまま真下へと一気に通り抜けようとする。


〔させるかぁああ!!〕


 とっさにファイブが退路を断とうとする。だがそれすらもフローラは見切っていた。

 

「邪魔だぁっ!!!」


 轟くような叫びを響かせてウォーターガンのトリガーを更に引く。鈍いグレーの粘性の高い薬剤は重い質量を伴った幕となって、妨害を図ろうとするドローン群へと襲いかかり、そして、鋭利な刃物か、重いハンマーとなって、妨害物を一瞬にして葬り去るのだ。

 脱出の突破口はこじ開けた。あとはフィールとともにここから逃れるだけだ。

 

「おねえちゃん! 捕まって!!」


 フローラは必死の思いを込めて叫んだ。ここでワイヤーが外れて姉を敵領域の中へと残してきたら最悪の事態を招きかねない。絶対に失敗が許されぬプレッシャーを感じながらも、結果を信じてフローラは姉の体を引きずり出したのだ。

 とっさに背後を振り返れば、無事、敵ドローンの黒い群れの中から、満身創痍状態のフィールを救出することに成功しているのが見えた。あとはここから離れて安全な距離をとるだである。

 フローラは電磁フローターを制御しつつ、U字型の軌道を描きつつ急速上昇する。その間にもファイブが操るドローンはフィールを再び捉えようと追いすがってきていた。それを視認したフィールは、その右手に用意していた4振りほどの投擲ナイフ・ダイヤモンドブレードを投げ放つ。

 

「しつこいのはモテないって言われなかった?!」 

 

 ナイフは緩やかなカーブ軌道を描いて、追手となるドローンを3機ほど葬り去った。そしてついにドローン群の追跡を見事に振り切ったのである。

 フローラは更に上昇を続ける。高度800mまで上昇してようやくにしてその動きを止めた。無我夢中のままに行動して周囲を見回せば、乾坤一擲の突入救出を成功させたフローラの眼前に佇んでいたのは、傷だらけになりながらも無事に生還を果たした、彼女の姉の笑顔だったのである。

 

「ありがとう、助かったわ」


 そこには安心があった。歓びがあった。そして希望があった。

 頭部は半壊、左腕喪失、左足全損、右足半損、胴体側部破損――、まともに残っているのは右腕と右目だけという惨状でありながらも、それでもフィールは安堵と希望を噛み締めていた。彼女は生き残ったのである。 

 絶体絶命の状況下から拾い上げた命を喜びながらフィールはおのれを救ってくれた見慣れぬアンドロイドへと問い掛けた。


「わたしはフィール。あなたは?」


 シンプルな名乗りを伴った問い掛けに、フローラは気恥ずかしさと戸惑いを覚えながらも、力強く、快活に答え返す。

 

「わたしは、特攻装警F型発展応用機、公称F2、東京消防庁警防部特殊災害課所属のレスキュー用機体。個体名『フローラ』――」


 その言葉の意味に驚くフィールにフローラは告げた。

 

「あなたの〝妹〟です!」

「妹――、わたしの?」

「はい!」


 驚きの真っ只中に居る姉フィールに、フローラは彼女に巻きつけていたワイヤーを解除し回収しながら笑顔で答えた。

 

「正式ロールアウトはまだなんですが、今回の事態を受けて、東京消防庁の特別許可を得て救援に駆けつけました。そしたら、お姉ちゃんがあのドローンに襲われているのを気づいて、救出しようと思って飛び込んだんです」

「そんな無茶な! 下手したらアナタも殺られてたのよ?」

「かもしれません。でも――」


 フローラは安堵を言葉の中ににじませながら告げる。

 

「お姉ちゃんを救うことしか考えられなかった。わたしは〝命を救うために〟生まれたから」


 それは悲しい事実でもあった。アンドロイドははじめから運命づけられてこの世に産み出される。役割はすでに規定され、能力も、任務も、あらゆるものが決定済みでこの世に姿を表すのだ。アンドロイドの人生には、人間のような〝自由な将来〟は存在しないのである。

 でもだからこそ――、フィールはフローラに手向ける事ができる言葉があるのだ。

 

「そう――、素晴らしいじゃない! アナタが人々を救うために生まれたなら、わたしは人々の命を護るのが役目。フローラ――」


 フィールは一本だけ残された右手をそっと差し出すとフローラにさらに語りかける。

 

「――一緒に戦いましょう!」


 姉からの心からの言葉を拒む理由は何もなかった。フローラもまた笑顔を溢れさせながら姉の右手をしっかりと握り返したのだ。

 

「はい!」

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