Part30 死闘・錯綜戦列/未知の2人の場合――
■何処かの高級ホテルにて。未知の2人の場合――
「あー、やってるやってる。ゾラこれ見なよ」
そこはとあるホテルの一室だった。プライバシーが完全に守られたスイートルームの一室。理知的そうなふちなしメガネを付けたドレス姿のユダヤ系風の青年女性が居る。スカート丈は膝のあたりで無理な露出はしていなかった。
ロングのソファによこ座りに腰掛けながら、手にしている大型のスマートパッドに映し出された中継映像を眺めていた。そしてそれを指し示しながら、彼女と同室にて滞在している連れの人物にも声をかけた。
「〝あの場所〟で派手にやってるよ。どうにかしてあのデカブツの暴走を止めたいみたいだね。出来るわけないじゃない! ボクのつくったアレはそう簡単に壊せないんだからさ!」
冷酷――と言うより有り余る知識を持て余しているような傲慢さが垣間見えていた。
「当然でしょ。基礎プログラムとセキュリティは私も関わったんだから。突破も破壊もできっこないわ。たとえ基礎原理その物がわかったとしてもね」
その声は冷ややかであり、他者をこばむ冷徹さがあった。スイートルームの奥のシャワー室から湯上がりの体にロングのバスタオルを巻いた女性が現れた。肌は白く、髪も銀髪、目は蒼く、アートの彫像のように細い体は神がかりな美しさを放っていた。その手には高級シャンパンの注がれたグラスを手にしている。アルコールを口にしながらゾラと呼ばれた女性は語る。
「第2頚椎から第6胸椎までで第2頭脳を構成しているのは当然として、肋骨や骨盤や大腿骨にも予備構成頭脳体を仕込んであるから、脊髄を破壊しただけでは壊れないわ。むしろ、暴走が早まるだけよ。際限ない爆縮を伴ってね」
「でもそれじゃ、あの街残らないじゃん」
「別に――」
ゾラと呼ばれた女性は一気にグラスを飲み干すと吐き捨てた。
「今更この世界の人間が千人、万人、消えたからって何が変わるわけじゃ無し、ミニマムな悲しみが発生したって何の意味があるのよ。こんなくだらないゴミゴミした猥雑な星、終わらせるべきよ。そうでしょ?」
「否定はしないよ。でも――」
ふち無し眼鏡の女性はスマートパッドを、ゾラと言う女性へと投げ渡した。
「――面白い見世物だよ。これだけたくさんの人間たちが、価値観ってくだらないレッテルを巡って右往左往してるんだからさ! ねぇ、賭けない? 誰が死んで、誰が生き残るか」
ゾラはスマートパッドを受け取ると冷酷な笑みを浮かべながら答えた。
「面白いわね。乗ったわ。アナは誰にするの?」
「ボクは、ハイヘイズとか言うガキたちが死ぬのに一枚。それで日本警察のサイボーグ部隊が反撃されて全滅にもう一枚」
「なら、あたしは子どもたちが生き残るのに一枚。そして――」
ゾラはスマートパッドに映る一人の人物を指差して告げた。
「この白い鎧の正義の味方が勝つことにもう一枚ね」
そこに写っていたのはグラウザーであった。今まさに姿を表した字田のクモ型ボディと対峙している状況が映し出されていた。ゾラの選択に、アナと呼ばれた女性が揶揄をした。
「正義のヒーローが子どもたちを救って大団円? 安いシナリオだねぇ」
「あら、ハリウッドでもこう言う王道シナリオってけっこうまだ人気あるのよ? サイラスも言ってたわ。そう言う映画が一番手堅く小銭を稼げるって」
それは命を軽んじる会話だった。命のやり取りをトランプのポーカーのように楽しんでいた。その傲慢なる遊びの存在を知るものは今は誰も居なかったのである。
















