Part30 死闘・錯綜戦列/情報戦特化小隊の場合――
■死線の上にて。情報戦特化小隊の場合――
そこは戦場である。犯罪捜査の場ですら無かった。
ベルトコーネという災厄をめぐる、闘争の場と化していた。
そこに平穏はない。あるのはただ敵意――それだけである。
ベルトコーネをめぐり黒い盤古――、情報戦特化小隊の部隊員たちは周辺エリアに各自展開して、あの狂える拳魔が際限なき暴走をする時をひたすらに待ちわびていた。そしてなにより彼らは――
『犯罪に関与した人間の生存を絶対に容認しない』
――のである。
だが思い起こして欲しい。ここは東京アバディーン。
無法と悪意が交錯し、弱肉強食がまかり通る終末的エリアである。違法的行為にかかわらずに生きることが極めて困難な場所なのだ。
そしてその事実が故に、情報戦特化小隊のメンバーは皆、東京アバディーンと言うこの街を心の底から憎んでいた。悪意の拡散と増殖は続いていたのである。
〔ネズミ1から、各ネズミへ〕
隊員の一人が命令を発する。コードネーム・ネズミ1は真白だ。
低層の廃ビルの屋上に陣取り、全体を俯瞰で見渡しながら隊長の字田を除く全員へと指示を発した。隊長字田がグラウザーやベルトコーネと交戦している現在、指揮をとるのは副隊長の役目であるのだ。
〔隊長が戦闘を開始した。行動プランのチェックだ。まずはネズミ4と6、所定の爆破トラップを構築せよ。敷設完了と共に起爆権限を隊長へと移管せよ。作業は速やかに行え〕
〔ネズミ6蒼紫了解。爆破トラップを戦闘フィールドの6ヶ所に敷設します〕
〔ネズミ4亀中了解。爆破トラップ連携システム構築に移ります〕
〔ネズミ4と6は作業にかかれ。次いで、ネズミ3と5は、ネズミ1の俺とともに戦闘フィールド内に潜伏する不法武装容疑者を速やかに摘発し緊急避難による処分を実行しろ。逮捕拘禁は不要だ〕
〔ネズミ3権田了解。戦闘いつでも行ける〕
〔ネズミ5南城了解。スグに殺れます〕
〔よし、残るネズミ2は隊長機の支援だ。的確に判断しろ〕
〔ネズミ2柳生了解。隊長周辺の残存戦闘能力者は俺が処分する〕
〔よし、行動を開始せよ〕
地上部隊の副隊長真白が隊員への指示を整理していた時だった。彼らの頭上から通信が降ってきたのだ。声の主は狙撃員である才津。独特の言葉回しで彼は皆に告げた。
〔こちらコウモリ2、面白いもん見つけたぜ。映像をそっちへ回す〕
それは上空の二重反転ローターのステルスヘリのからの空撮望遠画像だ。夜間であり望遠画像であるためやや荒い映像だが、対象物を視認するのは十分な映像であった。そこには市街地外れの荒れ地の片隅にて建築途中で放棄された小規模ビルだった。
そこの片隅には、今日のこの災厄が一刻もはやく終わるようにと肩寄せあって振るえている小さな姿が無数にあった。
ラフマニとオジーがいざと言う時のために用意していた避難用の簡易シェルターである。その彼らの素性を才津はすでに見抜いていた。
〔不法残留者、無戸籍無国籍の混血のガキどもだ。とっ捕まえてイミグレに突き出してえが、そもそも送還する出生国が無いってんでイミグレからも疎まれてんだ。こっちで〝処分〟してえんだがどうだ? ネズミ1?〕
その吐き気を催すようなゲスな判断に、副隊長真白は即断する。
〔好きにしろ。他の作戦行動に影響は残すな〕
〔コウモリ2了解っと。野うさぎ狩りとしゃれこませてもらうぜ〕
ヘリからの通信が切られる。ヘリが地上に向けての攻撃準備を始める。そのさまを見て、副隊長の真白が吐き捨てるように言った。
「サディストの殺人狂風情が――」
理念が無いどころか、快楽殺人の予兆も感じさせる。それは情報戦特化小隊の中にあっても絶対に相容れない存在であるのだ。忌々しげに吐き捨てる言葉が全てを物語っている。気を取り直して真白は無線越しに隊員全員へと指示を出す。
〔全ネズミへ、これより作戦行動を開始する〕
その言葉がトリガーだった。地上展開の6人が一斉に行動を始める。
彼らにとって目障りな無法の街を屠るため、音もなく姿が闇夜へと消えていくのである。
















